ヒバナ、オーバードライブ DX!

戸影絵麻

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第10部 ヒバナ、アブノーマルヘブン!

#13 這い寄る混沌③

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 もともと四神とは、天界を守る聖なる獣を指す。
 北の玄武、南の朱雀、東の蒼竜、西の白虎がその四柱である、
 そこまでは、ヒバナも知っている。
 己に青竜が宿っている以上、少しは知識がないとまずいと思い、以前ウィキペヂィアで調べたのだ。
 もちろん、天界がどんなところかもわからない、
 何度も変身して青竜の恩恵を被っているにも拘らず、今ひとつ実感がわかないというのも確かだった。
 ヒバナにとって青竜とは”力”であり、それ以上でもそれ以下でもない。
「黄竜かあ」
 ヒバナは誰にともなくつぶやいた。
「そういえば、ウィキにもなんかそんなこと、書いてあった気がする」
 青竜のところしか読まなかったから、記憶に残っていなかったのだ。
「中国の五行説が元だから、考えてみれば、五つ居て当たり前なんだよね」
 ひずみが補足した。
「青竜が『木』で『春』、朱雀が『火』で『夏』、白虎が『金』で『秋』、玄武が『水』で『冬』に、それぞれ対応してるの。そして、黄竜が『土』で『土用』ね」
 聡明な彼女は、最初レオンに謎かけをされたときから、すでにそのことに気づいていたに違いない。
「黄竜は黄、つまり土属性だ。時じくの木が生えているあたりの土壌は見るからに肥えていて、栄養たっぷりだった。あれは、あそこの地底に黄竜が眠っているからだろうな」
 レオンがひずみの解説を受けて、いった。
「そうか、黄竜も神獣のひとつだったんだ。ゲームキャラとしてはけっこうおなじみなんだが、忘れてた」
 貢はひとりで納得している。
「でも、ゲームのパターンからすると、黄竜って神獣の中で最強だぜ。そんなものを、いったいどうやって召喚するんだ?」
 貢の質問に、
「問題はそれだ」
 レオンがいった。
「まず、霊界端末が必要だ。玉子、まだ宝玉は残ってるか?」
「たぶん」
 玉子が自分の額の宝玉に触りながらいう。
「うちの店のガチャポンの中に十個くらい放り込んである」
 かつて潮の満ち干を操る女神、豊玉姫だった玉子は、霊力を秘めた石をたくさん持っている。
 四人の額に埋め込まれているブルーの宝玉は、すべて玉子の持っていたものなのだ。
 宝玉とは、元を正せば隕石である。
 かつて太陽系に存在した幻の第四惑星『アイララ』の破片だといわれている。
 そして、その成分は、脳神経と結合して増殖する結晶生命体なのだった。
「地元のガキどもに取られないうちに確保しておくんだ。いいな」
「あいあいさー」
「次に、黄竜の御霊を召喚するために、大量のマナを送り込まねばならん。そこで、おまえら四人の出番だ。四人それぞれが、自分の属性の方角にある古墳に赴き、黄竜にマナを送るんだ」
「古墳?」
 ヒバナはたずねた。
「ここ以外にも、近くに古墳があるの?」
「あるとも」
 レオンが答える。
「この那古野市周辺には、目立たないながらもかなりの数の古墳群が確認されている。どれが該当するものなのかはこれから調べてみるつもりだが、おそらく数だけでいったら100は超えるんじゃないかな」
「へえ、そんなに」
「有名なのは、熱田神宮の近くの白鳥古墳だね。ヤマトタケルに由来する古い古墳だよ」
 と。ミミ。
 熱田神宮といえば、八岐大蛇との緒戦で緋美子が重傷を負った場所である。
 ヒバナはその名前を聞いただけで、いろいろなことを思い出し、胸が痛くなった。
「四人が配置についたら、あとは依代(よりしろ)が、大いなる腕輪を装着して、あの時じくの木のある丘に立つ。これで自然と竜脈に反応して、四方から生命の力、マナが送り込まれるはずだ」
「ってことは・・・もうひとり、生贄が必要ってこと?」
 単刀直入に、ひずみが訊いた。
「生贄っていうと言葉は悪いけど、つまり、黄竜の御霊を宿す人間が・・・」
「そうだ」
 レオンが重々しくうなずいた。
「問題といったのは、そのことだ」
 集まったメンバーを、もう一度、ぐるりと見回した。
「今すでに神獣の御霊を宿している四人は必然的に除外される。残ったメンバーのうち、誰がその大役を担うかってことなんだ」
「おっし」
 貢がさっそうと挙手した。
「俺、やらせてもらいます。そんでもって、ヒーローになっちゃいます。そうすれば、ヒバナやひみちゃんとも、対等につき合えるし」
「つやちゃんの前でよくそんなこと、いえるね」
 ひずみが睨むと、
「大丈夫ですよ。この人、口先男ですから」
 あっさりとお通夜がいった。
 パートナーの戯言など、まったく意に介していないといった風情である。
 ヒバナは危うく吹き出しそうになった。
 こりゃ、貢君、尻に敷かれるなあ、
 と思ったからだった。
 ヒバナたちに会う前は、対人恐怖症で自閉症気味だったというお通夜。
 それが修羅場をくぐるうちに、ずいぶんたくましく成長している。
 ヒバナは、なんだかそれがうれしくてならなかったのだ。
「男はダメだな。おそらく成功率が低い、特におまえのように、邪念が頭の中で渦を巻いてるやつは」
 レオンがにべもなく、切り捨てる。
「ひどいな」
 貢がへこんだ。
「神獣とのシンパシーが高いのは、若い女性、それも処女だね」
 ミミが横からいった。
「ヒバナたち四人はみんなそうだろ?」
「処女・・・?」
 疑い深げなまなざしで、ひずみがヒバナと緋美子を見つめる。
「そうね。男性経験に限っていえば、私はまだないかな」
 まだって・・・。ひみちゃん、それ、どういうこと?
 ヒバナは胸にとげが刺さるのを感じて、そっと緋美子を盗み見た。
 緋美子はそ知らぬ顔をしながらも、ひずみに見えないように、そっとテーブルの下で手を握ってくれた。
「わたしも・・・未遂ならあるけど」
 緋美子の掌のぬくもりに力を得て、ヒバナもいった。
「ってことは、ブッチャーも?」
 驚きの声を上げたのは、玉子である。
 自分を膝に乗せている巨漢を仰ぎ見ると、
「そもそも、おまえ、女だったのかよ」
 と、そんな失礼なことをのたまった。
「悪かったな」
 明日香が苦笑する。
「まあ、こんなガタイなんでね。俺が近寄ると、たいていの男は逃げてっちまうのさ」
「オトコって、本当に女を見る眼、ないですよね」
 深々とうなずいたお通夜だったが、そこで突然凍りついたように宙を見つめ、動かなくなった。
「ってことは、そのヨリシロの候補者って、つやとひずみちゃんのふたりしかいないじゃないですか」
「あたしはダメなの」
 ひずみが気の毒そうにつぶやいた。
「どうして?」
 お通夜が驚いた顔で隣のひずみを見つめた。
「だって、処女じゃないから」
「え・・・?」
 ひずみの爆弾発言に、一同、声を失った。
「ここへ来る前に入れられてた施設で、いろいろあってね」
 自嘲気味に微笑むひずみ。
「穢されちゃったの」
 重い沈黙があたりを支配した。
 ひずみは、まだ中学生なのだ。
 そのいちばん若いひずみが、唯一の経験者だったなんて・・・。
 いたたまれなくなって、ヒバナはひずみから目をそらした。
「そうだったんですか・・・」
 お通夜がつぶやいた。
「ひずみちゃん、たいへんだったんですね・・・。でも、そうなると」
 膝の上で握った拳が震えている。
「ヨリシロって、必然的に、この私ってことになりますよね?」
 ぽつりと、いった。
「こんなの、強制できることじゃないわ」
 気まずい沈黙を破って、助け舟を出したのは、緋美子だった。
「つやちゃんに、怪物になれなんていう資格は、私たちにはない。だからつやちゃん、嫌なら断ればいい」
「そだね」
 ヒバナもうなずいた。
「わたしも、青竜になってよかったかどうか、未だによくわかんないもの」
「命の危険もあるからね」
 ミミもいう。
「わかった。じゃ、お通夜とやら、ひとつよく考えてみてくれないか。で、もしその気になったらすぐに申し出て欲しい。一応ほかの候補者がいないか、こっちも当ってみることにするから」
 レオンがいった。
「わかりました」
 こっくりとうなずくお通夜。
「お通夜が黄竜か・・・。なんか、ぴんとこねえな」
 腕組みして、貢が唸る。
「そうと決まったら、その間に、麗奈の計画を探らなきゃね」
 緋美子がいった。
「さっきの玉ちゃんの話が気になってならないの。クトゥルーの前に、その海の怪物を倒さないと」
「そうだね。黄竜の覚醒を待っていられないかもね」
 ミミが同意した。
 さっきの玉子の話、というと・・・。
 あれだ。
 ダイオウイカを食い殺した、推定身長60メートルの怪物。
 ダゴン、とかいったっけ?
 ヒバナは眉根を寄せ、考え込んだ。
 60メートルといえば、八岐大蛇に次ぐ大きさだ。
 これまで対戦した大型の魔物、酒呑童子や一本だたら、温羅よりもずっと大きい。
 いったい、どうやって戦えばいいのだろう?
 そう、真剣に悩み始めていたのでる。
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