ヒバナ、オーバードライブ DX!

戸影絵麻

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第10部 ヒバナ、アブノーマルヘブン!

#15 這い寄る混沌⑤

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 遠くの山なみに、夕陽が沈もうとしている。
 その静謐な光景を眺めながら、なだらかな丘の上に、ヒバナはたたずんでいた。
 時じくの木の下である。
 風が消し去ったのか、昼間嗅いだあの魚の腐ったような匂いは薄らいでいた。
 ミーティングは終了し、解散した後だった。
 ミミと話がある、というレオンを待つ間、緋美子と散策に出ることにしたのだ。

 後ろに立っていた緋美子が、そっとヒバナの右手を取る。
 振り返ると、すぐそこに緋美子の驚くほど大きな瞳があった。
 唇が、自然、重なり合う。
 ヒバナは切ない吐息を漏らした。
 緋美子の舌が唇を割って入ってくる前に、ヒバナは身を離した。
「ひみちゃん、ひとつ、訊いていい?」
 緋美子の腕から逃れ出ると、少し距離を置いて立つ。
「何?」
 愛撫を途中で遮られたせいか、緋美子は少し不満そうだ。
「ひみちゃん、初めてじゃないよね?」
 思い切って、いった。
 それは、緋美子と体を合わせるようになってから、ヒバナの心の奥にずっと蟠っていたことだった。
 年下なのに、緋美子は明らかに慣れていた。
 どこをどう触れば相手が快感を覚えるのか、知り尽くしているような感じなのだ。
 さっきの会話の中で、処女の話題が出たとき、
 ー男性経験に限っていえば、私はないかなー
 緋美子はそんな言い方をした。
 それがヒバナの心の襞にひっかかっている。
 ひょっとして、わたしの前にも・・・・?
 そう思ったのだ。
「そうね」
 緋美子は否定しなかった。
 何の話なのかも、充分伝わったようだった。
「だよね・・・・」
 ヒバナはうなだれた。
 ほっとするような、哀しいような、へんてこな気分だった。
 別に自分が最初の相手じゃないからといって、何かが変わるわけではない。
 それはわかっている。
 わかってはいるが、うぶな緋美子に色々教え込んだ人間がほかにいたのだと思うと、ねじれた嫉妬心がわきあがって、身を焦がした。
 嫉妬と同時に、奇妙に倒錯した欲情が、体の芯で疼き始めていた。
「ちょうど一年前のことだった。相手は部活の先輩で、当時三年生。ボーイッシュで、男の子みたいな人だったんだけど・・・その人と、半年ぐらい、つき合ってたの」
「ひみちゃんが、わたしに、したみたいなこと・・・・きっと、その人に、されたんだよね」
 言わずもがなのことを、つい口にしてしまっていた。
 返事を聞けば、傷つくのは自分だとわかっていた。
「まあね」
 後ろで手を組むと、緋身子は暮れ始めた夜空を見上げた。
「先輩、その道の達人でね。何もかも初体験だった私は、いいように翻弄されて、もう勉強どころじゃなくなっちゃった。寝ても覚めても頭の中はそのことばかり。部活に行かなくなったのも、そのせい。
そんな蛇の生殺しみたいな情けない日々が、先輩が卒業して東京に行っちゃうまで、ずっと続いたかな」
 ということは、つい今年の春まで、緋美子はその人の虜だったということなのか。
 突如訪れたその認識は、ヒバナを打ちのめした。
 自分がいかに安穏とした考えに陥っていたか、それを思い知らされた気分だった。
 もしかして・・・。
 一度疑念が生じると、居ても立ってもいられなくなった。
「今も、好きなんでしょ? その先輩の、こと・・・」
 ヒバナはようやくのことで、声を絞り出した。
 自分が泣いているのがわかった。 
 自分は、その人の身代わりだったのだ、と思った。
 余計なこと、訊かなきゃよかった。
 世界が大変なときに、よこしまなこと考えてたから、きっと罰が当ったんだ。
 そう、ひどく後悔した。
 涙が止まらない。
 でも、いいんだ。
 必死で自分に言い聞かせる。
 たとえ身代わりでも、わたしは、ひみちゃんのことが・・・好き、だから。
「馬鹿ね、ヒバナは」
 気がつくと、緋美子に抱き寄せられていた。
「今はヒバナ一筋に決まってるでしょ」
 ヒバナの背を優しく撫でさすりながら、耳元で緋美子がささやいた。
「わたし、こう見えても古風な女なの。二股なんて、できないよ」
「本当?」
「うん」
「証拠は?」
 駄々っ子のような口調で、ヒバナはいった。
「証拠?」
 緋美子がいたずらっぽい眼で、ヒバナの泣き顔を覗き込んだ。
「ここで証明しろっていうの?」
 緋美子の腕に力が入る。
 唇を吸われた。
 押し寄せる悲しみと愉悦の中で、ヒバナは思った。
 行っちゃいや。
 どこにも。
 離さない。
 絶対に。
 唇を吸い返す。
 自分から積極的に舌を差し入れた。
 胸と胸、腹と腹、太腿を絡めて股間と股間を密着させる。
 初めて、ヒバナは攻めた。
 受身に回った緋美子が、驚きに目を見開き、淫靡な喘ぎを漏らす。
 
 そして・・・。
 緋美子が苦しがって身をよじるまで、ヒバナはその舌を銜え、強く吸い続けたのだった。
 
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