ヒバナ、オーバードライブ DX!

戸影絵麻

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第10部 ヒバナ、アブノーマルヘブン!

#31 突入!

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 雨はすっかり上がっていた。
 見上げると、雲に切れ間ができ、青空が覗いていた。
 いつまでも喜んでいる場合ではなかった。
「ヒバナ、腕輪」
 同じことを考えていたらしく、緋美子が真顔に戻って、いった。
「うん」
 ヒバナはうなずいた。
  あれを取り返さないと、黄竜を召喚できないのだ。
「わたし、行ってくる。ひみちゃんは、つやちゃんを連れて帰ってあげて」
 車の中で桜子に抱きかかえられ、泣きじゃくっているお通夜に目をやった。
 無理もない。
 目の前で、怪物に父親を食べられてしまったのだ。
「でも、ひとりで大丈夫?」
「ナミが戦闘不能状態の今なら、なんとかなると思う」
 玉子の雷魔法に直撃されて、ダゴンもろともナミも撃沈したはずだ。
 この眼で見たのだから、間違いない。
「あたいも行ってやるよ。おまえ、頭鈍いから、また罠にかかるのが関の山だよ」
 ムク犬みたいな玉子が、後ろからヒバナの首筋に抱きついて、いった。
「んもう、玉ちゃんはいつも一言多いんだから。でも、ありがとう」
 泣き笑いの表情で、玉子に頬をすり寄せるヒバナ。
「あたい、魔法じゃなくってさ、白虎として近接戦してみたいんだよ。ほら、これ使ってさ」
 玉子が紐でつながれた2本の棒を取り出した。
 故ブルース・リーのヌンチャクである。
 ヒバナのフツノミタマ、緋美子のアマテラスの弓と一緒に、物部氏が管理する古代の武器庫、裏・石上神宮で手に入れたものだ。
「気をつけてね」
 緋美子がヒバナに顔を寄せてきた。
 抱き寄せられ、キスされた。
 ヒバナはぽっと頬を染めた。
 束の間のキスは、なぜか塩辛い味がした。

「行くよ」
 ヒバナは翼を広げた。
 両腕を振り下ろすと、上腕部に鋭角のひれが出現した。
 このひれは、近接戦闘用のヒバナの武器である。
 助走をつけて、
「おりゃあ」
 飛んだ。
「おまえ、ひみねえと違って、なんか乗り心地悪いよなあ」
 玉子が首っ玉にぐいとしがみついてくる。
「贅沢いうんじゃないの」
 教団の障壁を超えると、浜辺にのびているダゴンの巨体が見えた。
 ラグビーボールみたいな形をした頭部から、白い煙が上がっている。
 ヒバナと緋美子に潰された両目から、緑色の血が流れていた。
 
 空中で90度方向を変え、教団本部の建物のほうに針路を取った。
 宇宙船そっくりのシルエットが、ぐんぐん目の前に迫ってくる。
「あ、ナギだ」
 玉子が中央のUFO部分の窓のひとつを短い指で指し示して、叫んだ。
 なるほど、金髪に近い髪の毛の少年がフロアの中央に立っている。
 窓越しにそれを確認すると、
「よおし」
 飛びながら、ヒバナは両腕を前方に差し出した。
 両手首を立て、ナギのいる窓に向ける。
 掌の中に火球が生まれた。
 灼熱のプラズマ火球である。
「行け! ファイアボール!」
 放った。
 窓が砕け散った。
 玉子を首にしがみつかせたまま、フロアに飛び降りる。
 そこは展望台のようなところだった。
 いくつかのソファと望遠鏡以外は、何もない。
「わ」
 物音に振り返って、ナギが叫んだ。
 両手を挙げて、ホールドアップの体勢を取った。
 諦めの早さは、死天王随一なのだ。
「もしかして、腕輪?」
 愛想笑いとともに、いった。
「あんたが安奈ちゃんそそのかして盗ったんでしょ。まるっとお見通しなんだからね」
 ヒバナが一歩大きく前に進み出る。
 飛び降りた玉子がヌンチャクを構えた。
 フットワークも軽く、ぴょんぴょん飛び跳ねている。
「ご、ごめん、悪かったよ」
 ナギがいきなり土下座をした。
「謝るから、この通り」
「謝んなくていいから、腕輪返しなさいよ」
 呆れてヒバナはいった。
「そ、それがさ」
 ナギが顔を上げた。
「あれ、今、シンが持ってて、分析の真っ最中なんだ」
「シン?」
 あのマッドサイエンティストか、とヒバナは思った。
 イケメンだが、狂っているだけに始末が悪い。
「どこにいるの?」
「地下っていうか、ここの場合、海底かな。そこにシンの研究室があるんだ」
「麗奈は?」
「んー。今頃信者の女たちとよろしくやってるんじゃないかな。なんせ両刀使いで絶倫なんでね」
「あんたはこんなとこで何してんのよ」
「ナミの飲み物作りにきたんだよ。ほら、そこにバーがあるだろ? 気付け薬代わりに、ブランデーでも飲ませようかと思って」
「待って」
 ヒバナが鋭く制止した。
「わたしたちが腕輪取り返してここから出るまで、あの子は寝かせたままにしておいて」
「マインドコントロールが恐いと?」
「もし途中で起こしたら」
 ヒバナがキっとナギを睨む。
「起こしたら?」
 ナギが鸚鵡返しに尋ねた。
「もう2度とあんたなんかと、口きいてあげないから」
「それは、やだなあ」
 真剣な口調で、ナギがぼやく。
「でしょ?」
 得意げに微笑むヒバナ。
「おまえらさあ」
 ふたりを眺めながら、心底あきれ果てたといった口調で、玉子が口を挟んだ。
「敵同士じゃなかったの?」

 ナギに教えられた高速エレベーターで、海底に直行することにした。
 全面ガラス張りだけに、エレベーターからの眺めは格別だった。
 真っ青な海中を、魚の大群が鱗を銀色にきらめかせながら、すぐ目と鼻の先を通り過ぎていくのだ。
「うわあ、すごい。水族館みたい!」
 ヒバナは素直に感嘆の声を上げた。
「海の中なんて、何がおもしろいんだか」
 見飽きているからなのか、元乙姫さまだったこともある玉子はひどくそっけない。
「それより、シンをどうやって出し抜くかだよ」
 しかめっつらをして、いった。
「こっちはふたりいるんだから、大丈夫でしょ」
 ヒバナは鼻歌を歌いながら、海中の風景にすっかり見とれてしまっている。
「どうかな」
 玉子が疑わしげにつぶやいたとき、エレベーターの下降が停まった。
 音もなくドアが開く。
 ふたりの目の前に、これも全面透明な強化ガラスでできているチューブ状の通路が現れた。
 ずっと先にエアロックのような鋼鉄の扉がある。
 その前に、背の高いやせた男が立っていた。
 長い前髪で片方の目を隠している。
 一昔前のロックシンガーのような革のジャケットに革のパンツが、細身の体に敵ながらよく似合っていた。
 死天王のひとり、シンだった。
「やれやれ、ここまできちまったのか、おまえたち」
 外人のように、両手を肩のところで広げて、いった。
 右手に腕輪を持っている。
 ナギに盗まれた、"大いなる腕輪”である。
「これはもとはといえば、俺のものなんでね」
 両手で腕輪をいじりながら、シンがいった。
「おまえたちに渡さなきゃならない筋合いは、一切ないんだよ」 
 
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