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第10部 ヒバナ、アブノーマルヘブン!
#51 恐るべき策謀
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隣で明日香がうなずき、なだめるような調子でいった。
「なあ、ナイアルラトホテップさんよ、ここは放っておいて、俺たちニンゲンに任せてくれないか」
「そう来ると思ったよ」
ナギが憐れむように笑った。
「君たちはオロカだからね。でも、そうはいかない。僕は、もう決めたんだ。理不尽は正さなきゃならないって。くだらないものは、抹殺するに越したことはないって」
「しかしそれは、全然邪神らしくない動機じゃないか?」
明日香が突っ込んだ。
「おまえら邪神にとって、人間界の理不尽なんて何の意味もないはずだろう? 何でそこまで首を突っ込んでくる?」
「さあねえ」
ナギがなぜだか遠い目をしてつぶやいた。
「もし理由があるとすれば、転生を繰り返しながらこの世界で生きてきて、僕自身、ここをけっこう好きになってたからじゃないかなあ。おそらくナミも同じだと思う。僕らはなんだか、今生(こんじょう)の人生17年目で、ニンゲンにすごく裏切られた気分なんだ」
ヒバナは、ナギが、死天王の前は実はあの創造神、イザナミノミコトだったことを思い出した。
つまりは、自分たちの創ったセカイをむちゃくちゃにしてしまった人類を許せないと、そういうことなのか。
「そう、今ヒバナが考えた通りだよ」
ナギが笑った。
「全然記憶にないんだけど、どうやらここは僕とナミが創った世界らしいんだ。ならば、僕らが壊しても誰も文句いえないはず。ね、そうだろ?」
やっぱりこの子、わたしの心を読んでる。
ヒバナは唇を噛んだ。
眼下にたたずんでいるのは、もうあのお人好しの男子高校生ではないのだ。
ナギは何か別のものに変わってしまったのだ。
「それで、おまえはこれからどうする気だ?」
明日香が尋ねた。
声に凄みが滲んでいた。
「うん。実はそれを訊いてほしくてここまでやってきたんだよ」
ナギはなにやらうれしそうだった。
目をきらきら耀かせている。
「君たちは、これから黄竜を召喚するつもりだろ? そしてクトゥルーと戦わせる。そうだろ?」
ヒバナも明日香も応えない。
が、ナギは構わず続けた。
「その最終決戦の場に、僕も参加させてもらおうと思うんだ」
「なんだって?」
「どういうこと?」
ヒバナと明日香はほぼ同時に声を発していた。
いったいこの少年、何をするつもりなのだ?
「僕にも秘密兵器がある。使わないのはもったいない」
それを聞いて、ヒバナは青ざめた。
「まさか・・・」
嫌な記憶が蘇る。
熱田神宮上空に出現した、巨大な影。
その後、那古野港、大猫観音通りでも戦った。
そしてあの凍りついた世界で眠っていた”アレ”を、ヒバナは緋美子と力を合わせて抹消したはずだった。
しかし、ツクヨミがナギの中に蘇ったのなら、アレが復活していたとしても、何の不思議もない。
「そう、そのまさかさ」
ナギが我が意を得たりとばかりに力強くうなずいた。
「クトゥルーと黄竜の戦いに八岐大蛇を投入する。ね? これ、凄いと思わない? そうなればもう『怪獣大戦争』だよね。クトゥルー、黄竜、八岐大蛇、いったいどれが勝つと思う? 西洋、中国、日本の代表的怪獣が集合するんだ。世界怪獣大戦といっていいかもね」
そこまでいって、クスクス笑い出す。
だんだん大きくなっていくその笑い声を耳にしながら、ヒバナは思った。
やっぱりこの子、かなりツクヨミが入ってる・・・。
「そうはさせるか」
明日香が盾を振り上げた。
「黄竜はオロチやクトゥルーみたいな怪獣じゃない。そんな危険な目に遭わせるわけにはいかないんだ」
そうなのだ。
ヒバナも剣を構えた。
黄竜を宿すのは、何の罪もない人間の少女、艶野夜(つやのよる)なのである。
もちろん、ヒバナたちもただ手をこまねいているつもりはない。
めいめいが四神獣に変身して、ともに戦うつもりだった。
しかし、5人がかりでもクトゥルー戦は不安でいっぱいなのだ。
そこに、あの八岐大蛇が加わったら、どうなるかわかったものではない。
いや、それどころか、はっきりと『負ける』と思った。
ヒバナたち4人は、一度オロチに皆殺しにされかけたことがある。
あのとき、丸山が世界をリセットしてくれなかったら、間違いなく全員死んでいたに違いないのだ。
最悪の事態を避けるためには、ここでナギを抹殺するしかなかった。
「おっと、ふたりとも、そうはいかないよ」
武器を構えたヒバナたちを見上げて、ナギがいった。
「知ってるかな? 僕はSFファンで更に特撮ファンでもある。だから、どうあっても、世界怪獣大戦が見たいんだ。ここで殺されるわけにはいかないのさ。おーい、ヨグ、”門”を開けてくれ」
最後の呼びかけは、宙の一点に向けてなされたものだった。
「ヨグ? ヨグ=ソトースか?」
明日香がいったときだった。
突然頭上に空気の渦がわき起こり、一点に向かって雲が吸い込まれ始めた。
空に虹色の球体が浮かんでいる。
それが、周囲の大気を吸い込んでいるのだ。
「じゃ、ヒバナ、ブッチャーさん、また」
ナギが陽気に片手を挙げた。
「させない!」
ヒバナが剣を払った。
が、それは空気を切り裂いただけだった。
次の瞬間、ナギはふたりの前から、きれいさっぱり消え失せていた。
「なあ、ナイアルラトホテップさんよ、ここは放っておいて、俺たちニンゲンに任せてくれないか」
「そう来ると思ったよ」
ナギが憐れむように笑った。
「君たちはオロカだからね。でも、そうはいかない。僕は、もう決めたんだ。理不尽は正さなきゃならないって。くだらないものは、抹殺するに越したことはないって」
「しかしそれは、全然邪神らしくない動機じゃないか?」
明日香が突っ込んだ。
「おまえら邪神にとって、人間界の理不尽なんて何の意味もないはずだろう? 何でそこまで首を突っ込んでくる?」
「さあねえ」
ナギがなぜだか遠い目をしてつぶやいた。
「もし理由があるとすれば、転生を繰り返しながらこの世界で生きてきて、僕自身、ここをけっこう好きになってたからじゃないかなあ。おそらくナミも同じだと思う。僕らはなんだか、今生(こんじょう)の人生17年目で、ニンゲンにすごく裏切られた気分なんだ」
ヒバナは、ナギが、死天王の前は実はあの創造神、イザナミノミコトだったことを思い出した。
つまりは、自分たちの創ったセカイをむちゃくちゃにしてしまった人類を許せないと、そういうことなのか。
「そう、今ヒバナが考えた通りだよ」
ナギが笑った。
「全然記憶にないんだけど、どうやらここは僕とナミが創った世界らしいんだ。ならば、僕らが壊しても誰も文句いえないはず。ね、そうだろ?」
やっぱりこの子、わたしの心を読んでる。
ヒバナは唇を噛んだ。
眼下にたたずんでいるのは、もうあのお人好しの男子高校生ではないのだ。
ナギは何か別のものに変わってしまったのだ。
「それで、おまえはこれからどうする気だ?」
明日香が尋ねた。
声に凄みが滲んでいた。
「うん。実はそれを訊いてほしくてここまでやってきたんだよ」
ナギはなにやらうれしそうだった。
目をきらきら耀かせている。
「君たちは、これから黄竜を召喚するつもりだろ? そしてクトゥルーと戦わせる。そうだろ?」
ヒバナも明日香も応えない。
が、ナギは構わず続けた。
「その最終決戦の場に、僕も参加させてもらおうと思うんだ」
「なんだって?」
「どういうこと?」
ヒバナと明日香はほぼ同時に声を発していた。
いったいこの少年、何をするつもりなのだ?
「僕にも秘密兵器がある。使わないのはもったいない」
それを聞いて、ヒバナは青ざめた。
「まさか・・・」
嫌な記憶が蘇る。
熱田神宮上空に出現した、巨大な影。
その後、那古野港、大猫観音通りでも戦った。
そしてあの凍りついた世界で眠っていた”アレ”を、ヒバナは緋美子と力を合わせて抹消したはずだった。
しかし、ツクヨミがナギの中に蘇ったのなら、アレが復活していたとしても、何の不思議もない。
「そう、そのまさかさ」
ナギが我が意を得たりとばかりに力強くうなずいた。
「クトゥルーと黄竜の戦いに八岐大蛇を投入する。ね? これ、凄いと思わない? そうなればもう『怪獣大戦争』だよね。クトゥルー、黄竜、八岐大蛇、いったいどれが勝つと思う? 西洋、中国、日本の代表的怪獣が集合するんだ。世界怪獣大戦といっていいかもね」
そこまでいって、クスクス笑い出す。
だんだん大きくなっていくその笑い声を耳にしながら、ヒバナは思った。
やっぱりこの子、かなりツクヨミが入ってる・・・。
「そうはさせるか」
明日香が盾を振り上げた。
「黄竜はオロチやクトゥルーみたいな怪獣じゃない。そんな危険な目に遭わせるわけにはいかないんだ」
そうなのだ。
ヒバナも剣を構えた。
黄竜を宿すのは、何の罪もない人間の少女、艶野夜(つやのよる)なのである。
もちろん、ヒバナたちもただ手をこまねいているつもりはない。
めいめいが四神獣に変身して、ともに戦うつもりだった。
しかし、5人がかりでもクトゥルー戦は不安でいっぱいなのだ。
そこに、あの八岐大蛇が加わったら、どうなるかわかったものではない。
いや、それどころか、はっきりと『負ける』と思った。
ヒバナたち4人は、一度オロチに皆殺しにされかけたことがある。
あのとき、丸山が世界をリセットしてくれなかったら、間違いなく全員死んでいたに違いないのだ。
最悪の事態を避けるためには、ここでナギを抹殺するしかなかった。
「おっと、ふたりとも、そうはいかないよ」
武器を構えたヒバナたちを見上げて、ナギがいった。
「知ってるかな? 僕はSFファンで更に特撮ファンでもある。だから、どうあっても、世界怪獣大戦が見たいんだ。ここで殺されるわけにはいかないのさ。おーい、ヨグ、”門”を開けてくれ」
最後の呼びかけは、宙の一点に向けてなされたものだった。
「ヨグ? ヨグ=ソトースか?」
明日香がいったときだった。
突然頭上に空気の渦がわき起こり、一点に向かって雲が吸い込まれ始めた。
空に虹色の球体が浮かんでいる。
それが、周囲の大気を吸い込んでいるのだ。
「じゃ、ヒバナ、ブッチャーさん、また」
ナギが陽気に片手を挙げた。
「させない!」
ヒバナが剣を払った。
が、それは空気を切り裂いただけだった。
次の瞬間、ナギはふたりの前から、きれいさっぱり消え失せていた。
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