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第10部 ヒバナ、アブノーマルヘブン!
#56 黄竜召喚
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街路灯がまばらに点在する公園内の道を、貢の運転するアルトが走っていく。
後部座席に、ミミを首に巻いたひずみ、レオンを肩に乗せたお通夜が乗っている。
「ここだな」
貢が車を止めたのは、小高い丘の裾のあたりだった。
冬の夜空を背景にして、時じくの木が丘のてっぺんにうっそりと生えている。
真冬だというのに葉はびっしりと茂り、ところどころにあの肉の味のする木の実がなっていた。
竜脈の交差する地点に生えているため、生命活動が異様に活発になっているのだろう。
3人は車を降りると、丘の上に向かった。
「お通夜は、あの図形の中心に立って」
貢が木の裏側辺りを指差して、いった。
昼間のうちに、レオンと貢とで特定した地点である。
竜脈探知機の反応と、レオンの常世神としての感応力で、東西南北から流れ込む竜脈の交点を見つけたのだ。
地面に五芒星の文様を描いておいたから、夜でもすぐにわかった。
"図形"というのは、その目印の五芒星のことである。
レオンがお通夜の肩から飛び下り、先導するようにちょこちょこ地面を走っていった。
お通夜がコートを脱いで、その後に続く。
コートの下に着ているのは、ヒバナがつくった即席の戦闘服だ。
露出度が高い分、ひどく寒そうだった。
「この中に入ったら、頭を北に、脚を南に合わせて、うつ伏せに寝そべってくれ。両手は90度の角度で、真東と真西に伸ばす感じで」
五芒星の端に二本足で立ち、お通夜を見上げてレオンがいう。
「つやちゃん、がんばって」
お通夜がいわれた通りに地面に腹ばいになると、傍らに跪いてひずみが声をかけた。
「ありがとう」
顔を上げて、お通夜がうなずく。
「混沌としすぎていて、未来は全然見えないけど、何かあってもウチらがついてるから」
ひずみの首に巻きついた蛭型生物、ミミがいった。
「ひずみ、ミミ、レオン、時間だ。車に戻ってくれ。今からヒバナたちに連絡を取る」
先に車に乗り込んだ貢がそう声をかけてきた。
ひずみが後部座席に戻ると、貢はスマホを取り出した。
「玉子はどうするの? あの子、ケータイ持ってなかったでしょ?」
「プリペイド式のを一台渡してあるから大丈夫だ。じゃ、行くか」
まずはヒバナを呼び出した。
「ヒバナ、配置についたか? 今からレオンの指示を伝える」
四人とそれぞれ連絡を取り終わると、貢はシートに深々と背を預けた。
もうできることは何もなかった。
あとはヒバナたちに任せるしかないのだ。
「なあ、レオン、俺、思うんだけどさ、なんで黄竜だけこんなに大げさな舞台装置が必要なんだい? ヒバナたち4人のときは、もっと簡単に事が済んだんじゃないのか?」
助手席に寝そべっていたレオンが、答える。
「これまでは神獣の御霊自体が、手の届くところにあったからな。だが、今回の黄竜の場合、御霊はこの地中深くに眠っている。だからまずそれを地上に呼び出さないといけないんだ」
「でも、御霊に竜脈を通して他の四神獣のエネルギーを直接注ぐとなると、なんかこれまでとは別の結果になりゃしないかって気もするんだが・・・」
「それは俺も同感だ」
レオンがエリマキを開いたりすぼめたりしながら、いった。
「ひょっとすると、人間としてのお通夜より、神獣としての黄竜の要素ほうが勝った個体が生まれるかもしれん」
「お、おい」
貢が目を剝いた。
「レオン、おまえ、それを承知でこの実験を?」
「まあな」
レオンがまぶたのないエリマキトカゲの目で貢をみつめた。
「この世の理(ことわり)の通用しない未知の敵と戦うには、それしかないからだ」
「ヒバナたちでは人間としての要素が勝ち過ぎているってことか?」
「そうだ。彼女たち四人の力ではおそらく今度の敵には勝ち目はないだろう。クトゥルーを倒すには、核になる強力な神獣が必要なんだ。元の怪物としての要素をできるだけ色濃く発現した、超強力な神獣が、な」
「お通夜・・・」
貢が丘の上に視線をやってつぶやいた。
「ごめんな。こんなことに巻き込んじまって・・・」
4つの古墳の中で、ヒバナが、緋美子が、明日香が、玉子が、ほぼ同時に気を放った。
四方から竜脈に、一気に厖大な生命エネルギーが流れ込んだ。
丘全体が微光を放ち始めていた。
そのただなかで大地に横たわり、お通夜は全身に漲(みなぎ)る熱い力を感じていた。
額に埋め込まれた宝玉が、我慢できないほどの熱を持ち始めていた。
そのうちに、何か途方もなく大きなものの気配が、地面のずっと下から伝わってきた。
地の底で、何者かが目覚め、今ゆっくりと浮上しようとしている。
まるで巨大な鯨が、深い海の底から海面に浮かび上がろうとするかのように。
これが、黄竜?
お通夜は身構えた。
やがて、待つほどもなく、"それ”の一部が、身体の中に入ってきた。
全身の細胞という細胞が、ふつふつと泡立ち始めるのがわかった。
肉体が急激に変貌を遂げようとしているのだ。
骨が、筋肉が、まったく別の形に変わり、みるみるうちに成長していく。
そのあまりにも急速な成長は、激しい痛みを伴っていた。
お通夜は絶叫した。
だが、その声は、すでに人間の少女のものではなくなっていた。
後部座席に、ミミを首に巻いたひずみ、レオンを肩に乗せたお通夜が乗っている。
「ここだな」
貢が車を止めたのは、小高い丘の裾のあたりだった。
冬の夜空を背景にして、時じくの木が丘のてっぺんにうっそりと生えている。
真冬だというのに葉はびっしりと茂り、ところどころにあの肉の味のする木の実がなっていた。
竜脈の交差する地点に生えているため、生命活動が異様に活発になっているのだろう。
3人は車を降りると、丘の上に向かった。
「お通夜は、あの図形の中心に立って」
貢が木の裏側辺りを指差して、いった。
昼間のうちに、レオンと貢とで特定した地点である。
竜脈探知機の反応と、レオンの常世神としての感応力で、東西南北から流れ込む竜脈の交点を見つけたのだ。
地面に五芒星の文様を描いておいたから、夜でもすぐにわかった。
"図形"というのは、その目印の五芒星のことである。
レオンがお通夜の肩から飛び下り、先導するようにちょこちょこ地面を走っていった。
お通夜がコートを脱いで、その後に続く。
コートの下に着ているのは、ヒバナがつくった即席の戦闘服だ。
露出度が高い分、ひどく寒そうだった。
「この中に入ったら、頭を北に、脚を南に合わせて、うつ伏せに寝そべってくれ。両手は90度の角度で、真東と真西に伸ばす感じで」
五芒星の端に二本足で立ち、お通夜を見上げてレオンがいう。
「つやちゃん、がんばって」
お通夜がいわれた通りに地面に腹ばいになると、傍らに跪いてひずみが声をかけた。
「ありがとう」
顔を上げて、お通夜がうなずく。
「混沌としすぎていて、未来は全然見えないけど、何かあってもウチらがついてるから」
ひずみの首に巻きついた蛭型生物、ミミがいった。
「ひずみ、ミミ、レオン、時間だ。車に戻ってくれ。今からヒバナたちに連絡を取る」
先に車に乗り込んだ貢がそう声をかけてきた。
ひずみが後部座席に戻ると、貢はスマホを取り出した。
「玉子はどうするの? あの子、ケータイ持ってなかったでしょ?」
「プリペイド式のを一台渡してあるから大丈夫だ。じゃ、行くか」
まずはヒバナを呼び出した。
「ヒバナ、配置についたか? 今からレオンの指示を伝える」
四人とそれぞれ連絡を取り終わると、貢はシートに深々と背を預けた。
もうできることは何もなかった。
あとはヒバナたちに任せるしかないのだ。
「なあ、レオン、俺、思うんだけどさ、なんで黄竜だけこんなに大げさな舞台装置が必要なんだい? ヒバナたち4人のときは、もっと簡単に事が済んだんじゃないのか?」
助手席に寝そべっていたレオンが、答える。
「これまでは神獣の御霊自体が、手の届くところにあったからな。だが、今回の黄竜の場合、御霊はこの地中深くに眠っている。だからまずそれを地上に呼び出さないといけないんだ」
「でも、御霊に竜脈を通して他の四神獣のエネルギーを直接注ぐとなると、なんかこれまでとは別の結果になりゃしないかって気もするんだが・・・」
「それは俺も同感だ」
レオンがエリマキを開いたりすぼめたりしながら、いった。
「ひょっとすると、人間としてのお通夜より、神獣としての黄竜の要素ほうが勝った個体が生まれるかもしれん」
「お、おい」
貢が目を剝いた。
「レオン、おまえ、それを承知でこの実験を?」
「まあな」
レオンがまぶたのないエリマキトカゲの目で貢をみつめた。
「この世の理(ことわり)の通用しない未知の敵と戦うには、それしかないからだ」
「ヒバナたちでは人間としての要素が勝ち過ぎているってことか?」
「そうだ。彼女たち四人の力ではおそらく今度の敵には勝ち目はないだろう。クトゥルーを倒すには、核になる強力な神獣が必要なんだ。元の怪物としての要素をできるだけ色濃く発現した、超強力な神獣が、な」
「お通夜・・・」
貢が丘の上に視線をやってつぶやいた。
「ごめんな。こんなことに巻き込んじまって・・・」
4つの古墳の中で、ヒバナが、緋美子が、明日香が、玉子が、ほぼ同時に気を放った。
四方から竜脈に、一気に厖大な生命エネルギーが流れ込んだ。
丘全体が微光を放ち始めていた。
そのただなかで大地に横たわり、お通夜は全身に漲(みなぎ)る熱い力を感じていた。
額に埋め込まれた宝玉が、我慢できないほどの熱を持ち始めていた。
そのうちに、何か途方もなく大きなものの気配が、地面のずっと下から伝わってきた。
地の底で、何者かが目覚め、今ゆっくりと浮上しようとしている。
まるで巨大な鯨が、深い海の底から海面に浮かび上がろうとするかのように。
これが、黄竜?
お通夜は身構えた。
やがて、待つほどもなく、"それ”の一部が、身体の中に入ってきた。
全身の細胞という細胞が、ふつふつと泡立ち始めるのがわかった。
肉体が急激に変貌を遂げようとしているのだ。
骨が、筋肉が、まったく別の形に変わり、みるみるうちに成長していく。
そのあまりにも急速な成長は、激しい痛みを伴っていた。
お通夜は絶叫した。
だが、その声は、すでに人間の少女のものではなくなっていた。
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