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第6章 アンアン魔界行
#65 アンアンバラバラ殺人事件④
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はあ?
成功したって、何がだよ?
玉の雄叫びは意味不明だったけど、ひとつ意外だったことがある。
本来なら、谷底の濁流に頭から墜落して木っ端微塵になるはずだったコースター。
それがなぜか、1回大きく沈み込んだ後、今度は水平に戻り、スリズリシャリシャリ音を立てながら、すごい勢いで進み始めたのである。
1分近くそのまま突進しただろうか。
やがて何かにぶつかって、コースターのやわな外壁がトタン屋根がちぎれるように吹っ飛んだ。
「うへ! さぶっ!」
外に投げ出されると、まず一ノ瀬が素っ頓狂な第一声を上げた。
むりもなかった。
谷川がカチカチに凍りついている。
その上を、コースターが削った跡がえんえんと続いている。
シャーベット状になった氷が、その轍の両側に盛り上がった畝をつくっていた。
「す、すごい。こ、これは…」
僕は感嘆の声を発して、のっそりと起き上がった玉を見た。
「うまくいきましたね」
丸眼鏡の玉が、にかっと笑った。
「冷凍弾ですよ。玉の冷凍弾で、谷川の水を凍らせてみたのです」
冷凍弾?
そういえば。
思い出したぞ。
ミサイルの種類を訊いた時、玉は確かにそんなことを言っていたのだ。
「玉、おまえは史上最強の召喚獣だよ」
僕は感動のあまり、玉のおさげ頭をわしゃわしゃと撫でていた。
「おまえがこっちに残ってくれて、ほんと、うれしいよ」
「玉は当然のことをしたまでです。いくらご主人様とはいえ、今の阿修羅様にはついていけません。玉にはお友達を守る義務がありますから」
玉がはにかんだように、頬を赤らめた。
「な、玉ちゃんって、まっすぐな子だろ? 頼れるし、ぶれないし、こんないい子は他にいないよ。まったく、アンドロイドにしておくのは惜しいってもんだ」
戻ってきた一ノ瀬が、自分のことのように胸を張る。
「んもう、一ノ瀬君ったらあ、そんなに褒めないでくださいよぉ、玉、照れちゃうじゃないですかあ」
まんざらでもなさそうな様子で、玉が肘で一ノ瀬の脇腹を突いた。
「あのさ、おまえらが仲良しなのはよくわかったけど」
ふいに僕の腕の中で、アンアンの首が横やりを入れてきた。
「あたしの身体探しを忘れないでほしい」
「あ、それなら」
頭をかきながら、一ノ瀬が言う。
「あそこに太い木が1本、突き出してるだろ? あのふた股の部分に引っ掛かってるマネキン人形みたいなの、あれってひょっとしたら、アンアンの胴体じゃね?」
「見つけたなら、先に言えよ」
僕は呆れた。
なるほど、一ノ瀬の指さすほうを見やると、山の中腹から1本だけ斜めに突き出している太い木があって、その枝に何か肌色のものが引っかかっているのが見えた。
「俺が取りに行こうか」
一ノ瀬の申し出を、
「ありがとう。だが、断る」
アンアンの首がにべもなく、はねつけた。
「元気に行ってもらう。無抵抗なところを、おまえの変態性欲のはけ口にされたらたまらない」
「そんなことするわけないだろ? 信用ないなあ」
一ノ瀬はそうぼやいてみせたけど、僕もアンアンに賛成だった。
女体に目のない一ノ瀬のことだ。
艶めかしいアンアンの胴体を目の当りにしたら、理性のタガが吹っ飛んで、何をしだすかしれやしない。
「それなら早く行ったほうがいいみたいですよ」
玉が口を開いたのは、その時だ。
「どうやらあの連中も、アンアンの胴体を狙ってるみたいです。確か、地獄界の鬼たちは、麒麟のラスをさらっただけじゃなく、アンアンの生肝も欲しがってたんでしたよね? つまり、今がその生肝回収のチャンスというわけなのでしょう」
玉の言う通りだった。
山の頂上から何本ものロープを垂らして、数人の鬼が降りてこようとしている。
なぜ鬼とわかるかといえば、どれも頭に角を生やし、毛皮のふんどし一丁のスタイルだからである。
青鬼がふたり、赤鬼がふたりの、4人体制だ。
「急げ。元気」
アンアンが言った。
「胴体さえ手に入れば、あとはあたしが何とかする。頼む。今はおまえだけが頼りなんだ」
成功したって、何がだよ?
玉の雄叫びは意味不明だったけど、ひとつ意外だったことがある。
本来なら、谷底の濁流に頭から墜落して木っ端微塵になるはずだったコースター。
それがなぜか、1回大きく沈み込んだ後、今度は水平に戻り、スリズリシャリシャリ音を立てながら、すごい勢いで進み始めたのである。
1分近くそのまま突進しただろうか。
やがて何かにぶつかって、コースターのやわな外壁がトタン屋根がちぎれるように吹っ飛んだ。
「うへ! さぶっ!」
外に投げ出されると、まず一ノ瀬が素っ頓狂な第一声を上げた。
むりもなかった。
谷川がカチカチに凍りついている。
その上を、コースターが削った跡がえんえんと続いている。
シャーベット状になった氷が、その轍の両側に盛り上がった畝をつくっていた。
「す、すごい。こ、これは…」
僕は感嘆の声を発して、のっそりと起き上がった玉を見た。
「うまくいきましたね」
丸眼鏡の玉が、にかっと笑った。
「冷凍弾ですよ。玉の冷凍弾で、谷川の水を凍らせてみたのです」
冷凍弾?
そういえば。
思い出したぞ。
ミサイルの種類を訊いた時、玉は確かにそんなことを言っていたのだ。
「玉、おまえは史上最強の召喚獣だよ」
僕は感動のあまり、玉のおさげ頭をわしゃわしゃと撫でていた。
「おまえがこっちに残ってくれて、ほんと、うれしいよ」
「玉は当然のことをしたまでです。いくらご主人様とはいえ、今の阿修羅様にはついていけません。玉にはお友達を守る義務がありますから」
玉がはにかんだように、頬を赤らめた。
「な、玉ちゃんって、まっすぐな子だろ? 頼れるし、ぶれないし、こんないい子は他にいないよ。まったく、アンドロイドにしておくのは惜しいってもんだ」
戻ってきた一ノ瀬が、自分のことのように胸を張る。
「んもう、一ノ瀬君ったらあ、そんなに褒めないでくださいよぉ、玉、照れちゃうじゃないですかあ」
まんざらでもなさそうな様子で、玉が肘で一ノ瀬の脇腹を突いた。
「あのさ、おまえらが仲良しなのはよくわかったけど」
ふいに僕の腕の中で、アンアンの首が横やりを入れてきた。
「あたしの身体探しを忘れないでほしい」
「あ、それなら」
頭をかきながら、一ノ瀬が言う。
「あそこに太い木が1本、突き出してるだろ? あのふた股の部分に引っ掛かってるマネキン人形みたいなの、あれってひょっとしたら、アンアンの胴体じゃね?」
「見つけたなら、先に言えよ」
僕は呆れた。
なるほど、一ノ瀬の指さすほうを見やると、山の中腹から1本だけ斜めに突き出している太い木があって、その枝に何か肌色のものが引っかかっているのが見えた。
「俺が取りに行こうか」
一ノ瀬の申し出を、
「ありがとう。だが、断る」
アンアンの首がにべもなく、はねつけた。
「元気に行ってもらう。無抵抗なところを、おまえの変態性欲のはけ口にされたらたまらない」
「そんなことするわけないだろ? 信用ないなあ」
一ノ瀬はそうぼやいてみせたけど、僕もアンアンに賛成だった。
女体に目のない一ノ瀬のことだ。
艶めかしいアンアンの胴体を目の当りにしたら、理性のタガが吹っ飛んで、何をしだすかしれやしない。
「それなら早く行ったほうがいいみたいですよ」
玉が口を開いたのは、その時だ。
「どうやらあの連中も、アンアンの胴体を狙ってるみたいです。確か、地獄界の鬼たちは、麒麟のラスをさらっただけじゃなく、アンアンの生肝も欲しがってたんでしたよね? つまり、今がその生肝回収のチャンスというわけなのでしょう」
玉の言う通りだった。
山の頂上から何本ものロープを垂らして、数人の鬼が降りてこようとしている。
なぜ鬼とわかるかといえば、どれも頭に角を生やし、毛皮のふんどし一丁のスタイルだからである。
青鬼がふたり、赤鬼がふたりの、4人体制だ。
「急げ。元気」
アンアンが言った。
「胴体さえ手に入れば、あとはあたしが何とかする。頼む。今はおまえだけが頼りなんだ」
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