夜通しアンアン

戸影絵麻

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第6章 アンアン魔界行

#69 アンアン、地底軍艦に乗る①

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「今の、すごかったですねー」
「うん、まさに、世紀の対決って感じ」
 駆けつけてきた一ノ瀬と玉のふたりと合流し、捜索を開始した。
 峰をひとつ越えた谷底で、阿修羅を見つけるのに、大して時間はかからなかった。
 そのあたりだけ山肌が崩れ、底のほうからもうもうと蒸気が吹き上がっていたからである。
 阿修羅は1戸建ての住宅ほどもある巨岩の上に大の字になり、目を回してのびていた。
 セーラー服やスカートのあちこちがくすぶって、まだ黒い煙を上げている。
 アンアンが、あの後光みたいなエネルギー吸収器官を”目がスマッシャー”で破壊したせいだろう。
 高濃度のエネルギーが逆流して、阿修羅の身体を焼いてしまったに違いない。
 自慢の栗色の髪が、ちびくろサンボのそれのように、ちりちりのアフロと化してしまっていた。
「おい、起きろ」
 その阿修羅を、アンアンが乱暴に岩から引きずり下ろした。
「ん? あ? なに? あれ? アンアンじゃない? どうしたの? 怖い顔して」
 目を覚ました阿修羅が、きょとんとした顔でアンアンを見た。
 まったく悪びれたふうもなく、いつもの天真爛漫な第一人格に戻っている。
「どうしたもこうしたもないだろ? 阿修羅、おまえ、何を企んでる? あたしを殺してどうするつもりだったんだ?」
 阿修羅のおとぼけぶりに、キリキリとアンアンの眼が吊り上がる。
「痛い、放してよ、何のことだかわからない!」
 襟首をつかまれ、宙づりにされて阿修羅が脚をバタつかせた。
「なんだとぉ? ひとをさんざんいたぶっておいて、まだシラを切るつもりか?」
 アンアンの右腕に、たくましい力こぶが盛り上がった。
「あのう、アンアン、阿修羅さま、別にとぼけてるわけじゃないみたいですよ」
 いつのまにか岩によじのぼっていた玉が、てっぺんから僕らを見下ろして言った。
「はあん? どういうことだ?」
 首をねじって、アンアンが玉を見上げた。
「ほら、ここにこんなものが落ちてました」
 玉がつまみ上げたのは、干からびた蛙の死骸のようなものである。
 もやしのような毛が生えた醜い禿げ頭、細い手足、欠食児童のようにぷっくり膨らんだ腹。
 餓鬼である。
 身体が半分焦げていて、死んでいるのは間違いないようだ。
「あの恐竜たちを思い出してください。私たちを襲ったティラノサウルスも、やはり餓鬼に憑りつかれて、何者かにあやつられていました。だから、おそらく阿修羅様も、この餓鬼に…」
 なるほど、そういうことだったのか。
 このミドルバベルの生き物は、そのほとんどが餓鬼に寄生され、黒幕にコントロールされている。
 と、そういうことなのか。
「なんだって?」
 アンアンが目を剥いた。
「本当なのか、阿修羅、おまえほどもあろうものが」
「うーん、そういえば、お城の通用門入った瞬間に、上から何か落ちてきたような…」
 アンアンから解放された阿修羅が、うなじのあたりをぼりぼりと掻いた。
「ここ、なんかかゆいんだけど、見てくれる?」
「なんだこれは? 蚤に喰われたみたいな跡があるぞ」
 阿修羅のうなじをのぞきこんで、アンアンが言った。
「ううむ。ここにその餓鬼が吸いついてたってわけか」
「じゃあ、これで蘭ちゃんの嫌疑は晴れたってもんだね」
 美少女に弱い一ノ瀬が、すかさず事態に幕を引こうとする。
「ちょっと待て。じゃあ、あたしはやられ損ってことなのか?」
 アンアンがむっとした。
「拷問されたうえにばらばらにされて、ひとつ間違えば死ぬとこだったんだぞ? この阿修羅のおかげでな」
「やだなあ、アンアンったら、だからそれはさ、わたしのようでわたしじゃなかったんだって」
 阿修羅自身も困惑気味だ。
「だいたい、親友のわたしが、本気でそんなこと、アンアンにするはずないじゃない!」
「…おまえ、いつから親友になったんだ?」
「いつからって…、やだなあ、わたしたち、ずっと仲良しだったでしょ?」
「…そうだったか? それは初耳だ」
 腕組みし、阿修羅を睨んでアンアンは難しい顔をしている。
 むりもない。
 あんなひどい目にあわされて、今更親友だの何だのと言われても、そう簡単には納得できないに違いない。
「それよりふたりともぉ、もう、先に進んだらどうですかあ? 阿修羅様もあやつられるくらいですから、きっとこのミドルバベルはすでに地獄界の手に落ちてるんだと思います。おそらくこの阿修羅城も。だから一刻も早く轟天号を見つけて反撃に出ないと、みーんな手遅れになっちゃいますよぉ」
「むう。そう言われてみれば」
 アンアンが腕組みを解いた。
「悔しいけど、そのようだね」
 うなずく阿修羅。
「よし、じゃ、みんな来て。ここから先はわたしが案内するから」
 
 こうして僕らは、やっとのことで次のステージに進めることになったのだが…。
 僕らの災難は、まだまだ序の口だったのである。

 

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