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第6章 アンアン魔界行
#126 アンアン、無間地獄に堕ちる②
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くわっと開いた牛頭魔王の口は、まるで巨大な漏斗だった。
限界まで口を開くと、勢いよく空気を吸い込み始めた。
さながら、ハリケーン級の特大台風の暴風圏内に入ったようなものだった。
周囲の空気が激しい渦を巻きながら、牛頭魔王の口に吸い込まれていくのである。
空気の流れに沿って、上空の怨霊の群れにも異変が生じていた。
230万ものうめき、わめく顔たちが一斉に向きを変えると、太い竜巻となって漏斗状に開いた牛オカマの口に吸い寄せられていくのだ。
やがて、どくんどくんという不気味な音とともにオカマの喉が蠢動を繰り返し、怨霊の奔流を飲み込み始めた。
見る間に胴がふくれあがり、赤いワンピースがはじけ飛ぶ。
その下から現れた肌には、飲み込んだ怨霊たちの顔が内側からびっしりと浮き出ている。
それにしても、無謀この上ない試みだった。
怨霊に質量があるかどうかは知らないけれど、なんせ230万人分なのである。
そんなものを飲み込んだら、ふつう腹が破裂してしまうのではないだろうか。
牛頭魔王は次第に立っていられなくなり、仰臥したまま地上へと沈んでいく。
だが、それでもまだ、怨霊の群れを吸引するのをやめようとはしない。
「今のうちだ」
怨霊たちを道連れにして、遥か下方に落ちていく牛頭魔王を目で追いながら、アンアンがつぶやいた。
「元気、つかまってろ」
短く言うと、翼をかたむけて旋回し、エレベーターの前に立ちふさがる軍服男に向かっていく。
軍服男はまだ体内の怨霊を吐き出している最中で、どうやら身動きがとれないようだ。
そのカーキ色の一点めざして、滑空していくアンアン。
ナックルをはめた右手を空中でステップバックすると、すれ違いざま、そのこぶしを男の顔面に叩きつけた。
「グワアッ!」
折れた白い歯と血反吐をばらまき、軍服男が悲鳴を上げた。
怨霊を吐き続けながら、腰の軍刀を抜刀する。
白い刃がきらめき、アンアンのうなじに襲い掛かった時である。
その脳天を、ほぼ真上から垂直に長いステッキが貫いた。
「王女は単独プレイが多すぎます。少しはチームプレイを信頼してみてはいかがかな?」
ナイアルラトホテップだった。
ステッキの上に、器用にも胡坐をかいて座っている。
脳を砕かれて、軍服男、すなわち3人目の四天王、牛頭馬頭天王も、さすがに絶命したようだった。
真っ二つに割れた頭蓋から砕けた豆腐のような脳漿をしたたらせ、ゆっくりと地面に倒れこんでいった。
「OK。開いたよ。このエレベーター、まだ動いてる」
シリンダーの透明な壁を手のひらでなぞり、阿修羅が言った。
「急ごう」
アンアンが僕の手を引いて、阿修羅と玉に続き、シリンダーの中を下がってきた蓮の花に乗りこんだ。
だが、ひとりだけ、動かない人影があった。
一ノ瀬である。
牛頭魔王が落ちていったあたりに立ち、山のふもとのほうをじっと見下ろしている。
「お、俺の、ゴズちゃんが…」
悲しげな口調で、そうひとりごちるのが、風に乗って聞こえてきた。
ゴズちゃん…?
僕は仰天した。
なんだよ。
おまえら、レイプ犯と被害者の関係じゃなかったのかよ?
そう思ったのだ。
限界まで口を開くと、勢いよく空気を吸い込み始めた。
さながら、ハリケーン級の特大台風の暴風圏内に入ったようなものだった。
周囲の空気が激しい渦を巻きながら、牛頭魔王の口に吸い込まれていくのである。
空気の流れに沿って、上空の怨霊の群れにも異変が生じていた。
230万ものうめき、わめく顔たちが一斉に向きを変えると、太い竜巻となって漏斗状に開いた牛オカマの口に吸い寄せられていくのだ。
やがて、どくんどくんという不気味な音とともにオカマの喉が蠢動を繰り返し、怨霊の奔流を飲み込み始めた。
見る間に胴がふくれあがり、赤いワンピースがはじけ飛ぶ。
その下から現れた肌には、飲み込んだ怨霊たちの顔が内側からびっしりと浮き出ている。
それにしても、無謀この上ない試みだった。
怨霊に質量があるかどうかは知らないけれど、なんせ230万人分なのである。
そんなものを飲み込んだら、ふつう腹が破裂してしまうのではないだろうか。
牛頭魔王は次第に立っていられなくなり、仰臥したまま地上へと沈んでいく。
だが、それでもまだ、怨霊の群れを吸引するのをやめようとはしない。
「今のうちだ」
怨霊たちを道連れにして、遥か下方に落ちていく牛頭魔王を目で追いながら、アンアンがつぶやいた。
「元気、つかまってろ」
短く言うと、翼をかたむけて旋回し、エレベーターの前に立ちふさがる軍服男に向かっていく。
軍服男はまだ体内の怨霊を吐き出している最中で、どうやら身動きがとれないようだ。
そのカーキ色の一点めざして、滑空していくアンアン。
ナックルをはめた右手を空中でステップバックすると、すれ違いざま、そのこぶしを男の顔面に叩きつけた。
「グワアッ!」
折れた白い歯と血反吐をばらまき、軍服男が悲鳴を上げた。
怨霊を吐き続けながら、腰の軍刀を抜刀する。
白い刃がきらめき、アンアンのうなじに襲い掛かった時である。
その脳天を、ほぼ真上から垂直に長いステッキが貫いた。
「王女は単独プレイが多すぎます。少しはチームプレイを信頼してみてはいかがかな?」
ナイアルラトホテップだった。
ステッキの上に、器用にも胡坐をかいて座っている。
脳を砕かれて、軍服男、すなわち3人目の四天王、牛頭馬頭天王も、さすがに絶命したようだった。
真っ二つに割れた頭蓋から砕けた豆腐のような脳漿をしたたらせ、ゆっくりと地面に倒れこんでいった。
「OK。開いたよ。このエレベーター、まだ動いてる」
シリンダーの透明な壁を手のひらでなぞり、阿修羅が言った。
「急ごう」
アンアンが僕の手を引いて、阿修羅と玉に続き、シリンダーの中を下がってきた蓮の花に乗りこんだ。
だが、ひとりだけ、動かない人影があった。
一ノ瀬である。
牛頭魔王が落ちていったあたりに立ち、山のふもとのほうをじっと見下ろしている。
「お、俺の、ゴズちゃんが…」
悲しげな口調で、そうひとりごちるのが、風に乗って聞こえてきた。
ゴズちゃん…?
僕は仰天した。
なんだよ。
おまえら、レイプ犯と被害者の関係じゃなかったのかよ?
そう思ったのだ。
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