夜通しアンアン

戸影絵麻

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第1章 カロン

#8 超能力③

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 いったい、何が起こったかって?

 うーん、どう説明したらいいのだろう。

 セカイがスクロールした。

 とでも言うべきか。

 簡単に表現すると、時間が巻き戻ったのである。

 と言っても、その間わずか5秒ほど。

 アンアンが食べようとしていた雪見大福の最後の一個が、画像を逆送りするみたいに彼女の口から出てきて、無事パッケージの中に戻ったのだ。

「いただき!」

 僕は再び彼女が手を伸ばす前にと、脱兎の勢いでその貴重な一個をつまんだ。

 口に放り込んだところで、ようやく我に返ったらしいアンアンが、ぽかんとした顔で僕を見た。

「な、何なんだ? 今のは」

 探るような目でじっと睨みつけてくる。

 その二つの眼が、現実世界を離れ、僕の頭の中に入り込んできた。

 あ、こいつ。

 僕の思考を読もうとしてやがる。

「ほほう」

 頭の中の目玉が消えると同時に、感心したようにアンアンが言った。

「おまえに蘇ったのは、時間を逆行させる力だというわけだな」

「どうもそうらしい」

 雪見大福を頬張りながら、僕は答えた。

「もう一度やってみろ。どれくらい遡れるのか、確認する必要がある」

「ああ、そうだな」

 僕は雪見大福を飲み込んで、意識を集中した。

 スクロールが起こった。

 戻ったのは、僕が最後の1個の雪見大福に手を伸ばしたところまでだった。

 もう一回やってみた。

 結果は大して変わらなかった。

 口の中に雪見大福が入った時点までしか、戻らない。

 四回目は無理だった。

 集中力が切れ、発動すらしなくなったのだ。

 この超能力、連続使用はせいぜい三回までらしい。

「結局、どういうことだ?」

 また雪見大福を咀嚼し始めた僕に向かって、アンアンが訊いてきた。

「5秒だな」

 正直に僕は答えた。

「どうやら俺、5秒前にしか戻れないらしい」

 

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