夜通しアンアン

戸影絵麻

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第2章 蠅の王

#14 アンアンと二人目の貴公子⑩

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 小便を済ませて、家の外に出ると、沈みゆく夕陽を背景にして、ふたりの巨人がそびえ立っていた。

 いうまでもなく、巨大化したアンアンと、蠅の王、ベルゼブブである。

 アンアンは、さっきと同じ、純白のスポーツブラと木綿のパンツといった、実にシンプルな出で立ちだ。

 しかし、これだけ大きいと、その迫力は最たるもので、もはやエロスを通り越して女神の如く神々しい。

 かたやベルゼブブは、見るからに醜悪な外見の持ち主だった。
 
 漆黒の昆虫型アーマーに、2本の触角が突き出たでっかい蠅の頭部。

 両手に細身の剣を引っ提げ、気味の悪い複眼を動かして、じっとアンアンの柔肌を切り刻む隙を窺っている。

 ふたりが対峙しているのは、放置された水田の跡の荒れ地だった。

 政府の減反政策の犠牲になった休耕地のひとつである。

 だからいくら暴れてもらっても問題はないのだが、とばっちりでうちが壊されるのだけは勘弁してほしかった。

「おい、ベルゼブブ。おまえ、あたしを殺そうとしただろう」

 アンアンが口を切った。

 よく通る声が、閑静な田舎町にとどろきわたる。

「ガガガ、ブブブブ」

 ベルゼブブの答えはほとんど意味不明だ。

 おそらく、

『おまえこそ、幼虫のおいらを、いきなり魔界に吹っ飛ばしたくせに』

 とでも言い返しているのに違いない。

「あたしはこの人間界で生きてくって決めたんだよ」

 腰のあたりでこぶしを握りしめ、挑みかかるような口調でアンアンが言った。

「こっちで好きな男もできたんだ。もう魔界へは帰らない」

「ギギギギ、@@@@#ププ::?」

 突然のアンアンの告白に、蠅男は度肝を抜かれたようだった。

 剣を握った両手を万歳するように頭上に掲げて、ショックのあまりか、よろよろとあとじさった。

「だからおまえには死んでもらう」

 そんな理不尽な台詞を投げつけると、アンアンが跳んだ。

 長い脚が伸び、身体が一本の槍になる。

 たたらを踏んで立ち止まった蠅男が、二刀流を突進するアンアンめがけて振り下ろす。

 クロスさせた両腕で、その切っ先を受け止めるアンアン。

 見ると、アンアンの手首から肘までは、金属の防具に覆われていて、それで怪物の一撃を防いだのだった。

「くらえ! アンアン・パーンチ!」

 咆哮とともに、アンアンの右ストレートが、蠅男の左の複眼を打ち砕く。

「とどめだ! アンアン・キーック!」

 続く動作で垂直に飛び上がり、蠅男の喉元に、腰のばねを効かせた渾身のドロップキックをお見舞いする。

 爆音を響かせて、怪物の頭が吹っ飛んだ。
 
 地響きを立てて、胴体が地面に倒れていく。

「仕上げはこれだ! ”地獄の業火”!」

 アンアンの眼が光った。

 と思うと、なんと、発射されたのはレーザー光線だ。

 ボンッ!
 
 ベルゼブブの胴体が爆発し、紅蓮の炎を上げてめらめらと燃え上がる。

 僕は呆れた。

 強いにもほどがある。

 アンアン、おまえ、アメコミのスーパーヒーローかよ?






 





 
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