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第3章 阿修羅王
#15 アンアン、大暴れする
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とりあえず、2階から攻めることにした。
地下の探索には、リスクがともなう。
退路を断たれると、やっかいなことになるからだ。
仮に一ノ瀬が地階に幽閉されているとしても、どうせなら、階上をすべてクリーンにしておいて、それから助けに行ったほうがいい。
外から見た限りでは、病棟は横に長いだけで、高さはそれほどではなかった。
せいぜい4階建て程度だったように思う。
ならば、偵察にもさほど時間はかからないだろう。
停止して久しいエスカレーターを階段代わりにして2階に上がると、そこは何もない殺風景な廊下だった。
しばらく歩いてみたが、ドアからゾンビの集団があふれ出してくることもなかった。
「ここは安全そうだな。でも、一応ひと周りしてみよう」
ほっとひと息ついて、無人のナースセンターの角を曲がった時である。
僕は自分の浅はかさを思い知らされ、ぐっと悲鳴を飲み込んだ。
前方の廊下いっぱいに、変なものがいる。
床にめり込んだような、女の上半身だ。
顔の脇に2本の腕がじかに生えたようなそれは、巨大な蜘蛛みたいに見える。
そんなのが何十匹も床に貼りついて、廊下を埋め尽くしているのだ。
どれも女の貌をしているのだが、髪の毛はさんばらで、口は耳元まで裂け、目は白濁してまるで腐った卵の白身である。
「なんだ? こいつらは?」
けげんそうにアンアンが訊いてきた。
眉ひとつ動かさず、ロケットおっぱいの下で両腕を組み、小首をかしげて化け物どもを眺めているだけだ。
まったく怖がっている様子が見られないのは、妖怪より魔族のほうがずっと格が上だからなのか。
「あれ…テケテケかも」
震える声で、僕は答えた。
「テケテケ? なんだ、それ」
「都市伝説に出てくる妖怪だよ。下半身がなくて、腕だけで動き回る…わっ!」
僕が叫んだのは、いうまでもない。
ザザッ。
そのテケテケの第一陣が、2本の腕でぐっと身体を持ち上げると、髪の毛を振り乱し、どっとばかりにすさまじい勢いで走り出したからである。
もちろん、標的は僕とアンアンだ。
テケテケテケテケッ。
腕を起用に交互にあやつりながら、でかい口から牙を剥き出して猛スピードで迫ってくる。
その不気味さときたら、さながら等身大のゴキブリの集団だ。
「きもいな」
アンアンがひとりごちた。
と思ったら、やにわに右足をバックスウィングだ。
乱食い歯のずらりと並んだテケテケの一匹が、そのアンアンに飛びかかろうとしたその瞬間。
アンアンのムチムチの割に長い右足が、振り子のように一閃した。
ばこんっ!
「ギョエッ!」
テケテケの顔面を、アンアンのブーツの甲の部分が正確にとらえている。
まるでサッカーのシュートだった。
アンアンが、素晴らしいフォームで右脚を振り切った。
蹴り飛ばされたテケテケが、コマのように回転しながら仲間たちの中に突っ込んでいく。
ボーリングのピンよろしく、何匹かが跳ね飛ばされて、テケテケのドミノ倒しが始まった。
「おらよっと!」
怯んで動きが鈍ったその一団の只中に、大きくジャンプしたアンアンが華麗に降り立った。
そして、とにかく、蹴って蹴って蹴りまくった。
ぽんぽん飛び上がり、ガラスのない窓から外に放り出されていく妖怪たち。
あと半数は天井や壁に激突してぺちゃんこになり、臭い液体をまき散らして絶命した。
当然ながら、僕の出番なんてない。
「妖怪までをも手下に引き入れるとは」
憮然とした表情で、アンアンがつぶやいた。
「サマエルめ。どこまで卑劣なやつなんだ」
地下の探索には、リスクがともなう。
退路を断たれると、やっかいなことになるからだ。
仮に一ノ瀬が地階に幽閉されているとしても、どうせなら、階上をすべてクリーンにしておいて、それから助けに行ったほうがいい。
外から見た限りでは、病棟は横に長いだけで、高さはそれほどではなかった。
せいぜい4階建て程度だったように思う。
ならば、偵察にもさほど時間はかからないだろう。
停止して久しいエスカレーターを階段代わりにして2階に上がると、そこは何もない殺風景な廊下だった。
しばらく歩いてみたが、ドアからゾンビの集団があふれ出してくることもなかった。
「ここは安全そうだな。でも、一応ひと周りしてみよう」
ほっとひと息ついて、無人のナースセンターの角を曲がった時である。
僕は自分の浅はかさを思い知らされ、ぐっと悲鳴を飲み込んだ。
前方の廊下いっぱいに、変なものがいる。
床にめり込んだような、女の上半身だ。
顔の脇に2本の腕がじかに生えたようなそれは、巨大な蜘蛛みたいに見える。
そんなのが何十匹も床に貼りついて、廊下を埋め尽くしているのだ。
どれも女の貌をしているのだが、髪の毛はさんばらで、口は耳元まで裂け、目は白濁してまるで腐った卵の白身である。
「なんだ? こいつらは?」
けげんそうにアンアンが訊いてきた。
眉ひとつ動かさず、ロケットおっぱいの下で両腕を組み、小首をかしげて化け物どもを眺めているだけだ。
まったく怖がっている様子が見られないのは、妖怪より魔族のほうがずっと格が上だからなのか。
「あれ…テケテケかも」
震える声で、僕は答えた。
「テケテケ? なんだ、それ」
「都市伝説に出てくる妖怪だよ。下半身がなくて、腕だけで動き回る…わっ!」
僕が叫んだのは、いうまでもない。
ザザッ。
そのテケテケの第一陣が、2本の腕でぐっと身体を持ち上げると、髪の毛を振り乱し、どっとばかりにすさまじい勢いで走り出したからである。
もちろん、標的は僕とアンアンだ。
テケテケテケテケッ。
腕を起用に交互にあやつりながら、でかい口から牙を剥き出して猛スピードで迫ってくる。
その不気味さときたら、さながら等身大のゴキブリの集団だ。
「きもいな」
アンアンがひとりごちた。
と思ったら、やにわに右足をバックスウィングだ。
乱食い歯のずらりと並んだテケテケの一匹が、そのアンアンに飛びかかろうとしたその瞬間。
アンアンのムチムチの割に長い右足が、振り子のように一閃した。
ばこんっ!
「ギョエッ!」
テケテケの顔面を、アンアンのブーツの甲の部分が正確にとらえている。
まるでサッカーのシュートだった。
アンアンが、素晴らしいフォームで右脚を振り切った。
蹴り飛ばされたテケテケが、コマのように回転しながら仲間たちの中に突っ込んでいく。
ボーリングのピンよろしく、何匹かが跳ね飛ばされて、テケテケのドミノ倒しが始まった。
「おらよっと!」
怯んで動きが鈍ったその一団の只中に、大きくジャンプしたアンアンが華麗に降り立った。
そして、とにかく、蹴って蹴って蹴りまくった。
ぽんぽん飛び上がり、ガラスのない窓から外に放り出されていく妖怪たち。
あと半数は天井や壁に激突してぺちゃんこになり、臭い液体をまき散らして絶命した。
当然ながら、僕の出番なんてない。
「妖怪までをも手下に引き入れるとは」
憮然とした表情で、アンアンがつぶやいた。
「サマエルめ。どこまで卑劣なやつなんだ」
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