夜通しアンアン

戸影絵麻

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第5章 見えない侵略者

#1 いじいじアンアン

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 アンアンが鬱になった。
 2日ほど部屋にこもって出てこないと思ったら、すっかり鬱になってしまっていた。
 いつもなら、
 やれマックに連れていけだの、やれ一緒に風呂に入ろうだの、やれ新しい下着を買ったから見ろだのとうるさいくらいなのに、きょうはすっかりふさぎこんでしまっている。
 お昼すぎに起きてきてテーブルについたアンアンは、真夏だというのになぜかトレンチコートを着込んでいた。
「どうした? なんかすごい久しぶりって気がするんだけど」
 僕はちょうど昼食にソーメンをつくったところだった。
「まあ、いいや。多めにつくったから食えよ」
 ゆで上がった麺はすでに水に通し、ざるに盛ってある。
 ガラスの鉢につゆを入れて出してやると、アンアンが何か言いたそうな顔で僕を見た。
「あれから何も食べてないんだろ? 一歩も部屋から出てこなかったし、冷蔵庫の中身も減ってない」
 あれから、というのは、流水プールでのあの一件から、という意味である。
 アンアンの引きこもりの原因があの時の悲惨な体験にあることは、わざわざ訊くまでもない。
 サマエル戦に続き、アンアンは自らの意に反して、またしても僕らの前ではしたなくも悩ましいエロエロの痴態を演じてしまったのだ。
 アンアンは、自称バージンだ。
 娘に対する魔王のしつけは厳しく、門限は午後7時。
 あまりの監視の厳しさに、これまでカレシのひとりもつくる隙がなかったのだという。
 そんな窮屈な生活から逃げ出したい。
 アンアンの家出の理由のひとつは、どうやらそれだったようだ。
 あの発育を極めたミラクルバディからは想像もつかないことだが、これでアンアンは意外にはにかみ屋だった。
 本人に言わせると、本来はアンアンは激しい人見知りで、他人の前に出るのが昔から大の苦手なのだという。
 そんなアンアンだったから、サマエルとダゴンから連続で受けた辱めは、消せないトラウマとなって彼女を追いこんだらしかった。
「ありがとう。やっぱり元気はやさしいな」
 はああと深いため息をつき、しみじみとした口調で、アンアンが言った。
「別にそういうわけじゃないけど、食欲のないアンアンはアンアンらしくない。ダイエットじゃないんだろ?」
「実は悩んでいる」
 ソーメンをつゆにつけ、力なく箸でかきまわしながらアンアンが言った。
「あたしは、その、性欲が強すぎるのだろうか?」
「はあ?」
 いきなり性欲かよ。
 僕は箸を宙に浮かせたまま、凍りついた。
「サマエルにもダゴンにも、あんなことをされて…なのに、あの最中、あたしは悦んでいた。これって、あたしが変態だって証拠だろう?」
「いや、それは」
 ソーメン食べてる時に、突然そんな哲学的な話題を持ち出さないでほしい。
「あの場合、しかたなかったんじゃないか? 性感帯にその、電気クラゲが貼りつけば、誰だって…」
 僕は自分の乳首とペニスに電気クラゲが貼りつき、放電するさまを想像した。
 電圧にもよるだろうが、それはそれで気持ちがよさそうだ。
「それに、サマエルの時は、媚薬をサソリに打ち込まれた後だったしさ、アンアンでなくとも、ああなると思う」
「元気…」
 アンアンが箸を置いて、僕を見つめた。
 アーモンド形の大きな眼が、気のせいかうるうるしている。
「あたし、あんな姿、おまえにだけは見られたくなかったよ。好きな男と寝る時なら、いくら乱れたってかまわない。なのに、あたしは、望んでもいない相手に弄ばれて…」
 肩が震えている。
 テーブルの上に、透明なしずくがぽたぽた落ちた。
 信じられない。
 魔界の王女が泣いているのだ。
「だから元気、せめて」
 涙で潤んだ目を、アンアンが上げた。
「阿修羅に犯される前に、おまえにこの身をささげさせてくれないか」
 立ち上がって、ばっとコートを脱いだ。
「ぶ」
 僕は反射的に鼻を押さえた。
 コートの下のアンアンは、全裸だったからである。




 
 


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