夜通しアンアン

戸影絵麻

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第6章 アンアン魔界行

#11 アンアン、百鬼夜行②

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「下見って、ハワイまで?」
 僕が横から口を出すと、
「ゴールドコーストと迷ったんだけど、貿易風の向きとかさ、いろいろあって」
 阿修羅が、形よく尖った鼻の頭を指先でかいた。
 貿易風?
 てことは、おまえ、空飛んでハワイまで行ったのかよ!
「にしてもアンアン、あんたこそどうしたの? なんかすっごく顔色悪いよ? ああ、その恰好からして、二人で徹夜でニャンニャンしてたとか?」
 ニャンニャン?
 それって、いつの言葉だよ?
 もはや死語を通り越して化石だろ?
「そんなんじゃない。ラスがさらわれた。犯人は前鬼と後鬼だ」
「ラスってだれ?」
「生後0か月の、あたしの愛犬、ラスプーチンだ。目が3つあって、額に角もある」
「ってそれ、犬じゃないんじゃない? 第一、名前からして超ヤバそうだし」
「いや、たぶん犬だと思う。おまえが旅に出ているうちに、蚊トンボのとこの太郎が産んだのをもらって、飼ってたんだ」
「太郎って、名前からしてオスって気がするけど…」
「ああ。だが、本当に太郎が産んだのだから、仕方がない」
「それにしても…」
 無駄な追及をやめ、阿修羅が顎の手を当てた。
「前鬼後鬼っていったら、あれでしょ? 去年の魔界格闘技選手権の優勝者。確か鬼の夫婦だったよね」
「ああ。地獄界にタイトルを奪われたって、うちの親父が激怒してた覚えがある」
「そのチャンピオン・ペアが、なんで犬を拉致しなきゃならないわけ?」
「知らないよ。とりあえず、前鬼の腕は引っこ抜いてやった。庭に転がってるから、欲しかったら持っていけ」
「ふふふふ、アンアンらしいね。あ、わかった。それで、私に手伝ってほしいと? そういうことなのね?]
 茶目っ気たっぷりに、阿修羅がアンアンの顔を下からのぞき込む。
「はあ? まだ何も頼んでないぞ。あたしはこの元気と一緒に…」
「いいっていいって! 遠慮しなくても! あ、いいこと考えた! ついでにあの蚊トンボも呼んじゃおうか。
そうすりゃ、海水浴の代わりになるじゃない!」
 は?
 魔界行きが、海水浴の代わり?
 僕はその大胆な発言に舌を巻く思いだった。
 さすが究極の破壊神。
 スケールが違う。
 というか、感覚がずれすぎている。
「遊びじゃないんだぞ。地獄界のやつらは、魔人どもよりたちが悪い。強敵だ」
 眉をひそめて、アンアンがたしなめた。
 が、男の時はまだしも、女阿修羅には脅しなんてききっこない。
「だから面白いんじゃない。よし、決めた。じゃ、蚊トンボに電話するね。今からすぐ来いって」
 スマホを耳に当て、円を描いて歩き始めた阿修羅を横目で見ながら、アンアンが僕にささやいた。
「ということなら、元気、おまえも一緒に行ってくれるよな? そう。魔界まで」
 

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