夜通しアンアン

戸影絵麻

文字の大きさ
133 / 249
第6章 アンアン魔界行

#36 アンアンのいない夜⑤

しおりを挟む
「スライム?」
 ははあ。
 そう言われてみれば、そうだ。
 あの末広がりのぷよぷよした富士山型の体型。
 つぶらなふたつの目。
 湯船の底にたまったヘドロの中にひしめくそれは、確かにかつて僕がゲームで倒したスライムにそっくりだ。
 ただ、問題は、この匂いである。
 はっきり言って、臭い。
 いや、臭いなんてもんじゃない。
 似ている匂いをひとつ挙げるとすれば、間違いなくそれは汲み取り式便所の臭気だった。
 田舎育ちの僕は、物心つくかつかないかの幼い頃に、何度かその臭いを嗅いだことがあった。
 実家は一応水洗だったのだが、その頃周囲にはまだポットン便所を備えた農家がいくつも残っていたのである。
「ううう…」
 苦しげな声に振り向くと、阿修羅が両手で独鈷を握りしめてわなわなと震えていた。
 独鈷はすでに長槍ほどのサイズに伸びていて明らかに戦闘準備万端といった感じなのだが、阿修羅ときたらぴくりとも動かない。
 無理もない、と思う。
 阿修羅は小麦色の肌を強調するために、純白のタンクトップにショーパンをコーディネートしているのだ。
 今ここであのスライムたちと乱闘になったら、そのオフホワイトの衣装はたちまちウンコ色に染まってしまうに違いない。
「でもさ、スライムって、こんなに臭かったな?」
 固まっている阿修羅は置いといて、僕はとりあえず一ノ瀬と玉に話しかけることにした。
「うーん、どうだかなあ。ゲームの中じゃ、匂いまではわかんねえもんなあ」
 腕組みをして、一ノ瀬が首をひねった。
 こういうどうでもいい話題になると、ひどく真剣に思考を巡らすのが、この男の特技である。
「ですよねえ。そのうち、匂い付きの4Dゲームとか、開発されたりして」
 けっこう親身に答える玉。
 このふたり、思考回路が似ているのか。
「だけど、これ、どう考えても、ウンチの匂いだろ? あいつ、本当にスライムなのか? スライムに似て非なるモノって気がするけど」
 僕が根源的な疑義をはさんだ時である。
「あれえ、見てください!」
 玉が丸眼鏡の奥の眼を真ん丸にして、スライムたちのほうを指さした。
「おお、一か所に集まっていくぞ」
 一ノ瀬が頷く間にも、タールのように真っ黒なスライムたちは互いにぶつかり合ってはどんどん融合していく。
「うは、なんてこったい!」
 腰を抜かす一ノ瀬。
 ぶくぶく膨れ上がり、スライムが天井に届くほど巨大化するのに、1分とかからなかった。
 目の前にそびえ立ち、ぷるぷる震える怪物を見上げて、一ノ瀬がぼやいた。
「うう…こりゃ、スライムというより、まるで巨大なとぐろウンチだな。恐竜のウンチっていうかさ」
「どうする?」
 僕はもう一度、阿修羅のほうを振り向いた。
「やだよ」
 僕の視線を受け止めると、阿修羅が激しくかぶりを振った。
 完全に顔が引きつっている。
「私、絶対触りたくないからね。んもう、あんなバッチィもの」


 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

三分で読める一話完結型ショートホラー小説

ROOM
ホラー
一話完結型のショートショートです。 短いけれど印象に残るそんな小説を目指します。 毎日投稿して行く予定です。楽しんでもらえると嬉しいです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

処理中です...