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第6章 アンアン魔界行
#36 アンアンのいない夜⑤
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「スライム?」
ははあ。
そう言われてみれば、そうだ。
あの末広がりのぷよぷよした富士山型の体型。
つぶらなふたつの目。
湯船の底にたまったヘドロの中にひしめくそれは、確かにかつて僕がゲームで倒したスライムにそっくりだ。
ただ、問題は、この匂いである。
はっきり言って、臭い。
いや、臭いなんてもんじゃない。
似ている匂いをひとつ挙げるとすれば、間違いなくそれは汲み取り式便所の臭気だった。
田舎育ちの僕は、物心つくかつかないかの幼い頃に、何度かその臭いを嗅いだことがあった。
実家は一応水洗だったのだが、その頃周囲にはまだポットン便所を備えた農家がいくつも残っていたのである。
「ううう…」
苦しげな声に振り向くと、阿修羅が両手で独鈷を握りしめてわなわなと震えていた。
独鈷はすでに長槍ほどのサイズに伸びていて明らかに戦闘準備万端といった感じなのだが、阿修羅ときたらぴくりとも動かない。
無理もない、と思う。
阿修羅は小麦色の肌を強調するために、純白のタンクトップにショーパンをコーディネートしているのだ。
今ここであのスライムたちと乱闘になったら、そのオフホワイトの衣装はたちまちウンコ色に染まってしまうに違いない。
「でもさ、スライムって、こんなに臭かったな?」
固まっている阿修羅は置いといて、僕はとりあえず一ノ瀬と玉に話しかけることにした。
「うーん、どうだかなあ。ゲームの中じゃ、匂いまではわかんねえもんなあ」
腕組みをして、一ノ瀬が首をひねった。
こういうどうでもいい話題になると、ひどく真剣に思考を巡らすのが、この男の特技である。
「ですよねえ。そのうち、匂い付きの4Dゲームとか、開発されたりして」
けっこう親身に答える玉。
このふたり、思考回路が似ているのか。
「だけど、これ、どう考えても、ウンチの匂いだろ? あいつ、本当にスライムなのか? スライムに似て非なるモノって気がするけど」
僕が根源的な疑義をはさんだ時である。
「あれえ、見てください!」
玉が丸眼鏡の奥の眼を真ん丸にして、スライムたちのほうを指さした。
「おお、一か所に集まっていくぞ」
一ノ瀬が頷く間にも、タールのように真っ黒なスライムたちは互いにぶつかり合ってはどんどん融合していく。
「うは、なんてこったい!」
腰を抜かす一ノ瀬。
ぶくぶく膨れ上がり、スライムが天井に届くほど巨大化するのに、1分とかからなかった。
目の前にそびえ立ち、ぷるぷる震える怪物を見上げて、一ノ瀬がぼやいた。
「うう…こりゃ、スライムというより、まるで巨大なとぐろウンチだな。恐竜のウンチっていうかさ」
「どうする?」
僕はもう一度、阿修羅のほうを振り向いた。
「やだよ」
僕の視線を受け止めると、阿修羅が激しくかぶりを振った。
完全に顔が引きつっている。
「私、絶対触りたくないからね。んもう、あんなバッチィもの」
ははあ。
そう言われてみれば、そうだ。
あの末広がりのぷよぷよした富士山型の体型。
つぶらなふたつの目。
湯船の底にたまったヘドロの中にひしめくそれは、確かにかつて僕がゲームで倒したスライムにそっくりだ。
ただ、問題は、この匂いである。
はっきり言って、臭い。
いや、臭いなんてもんじゃない。
似ている匂いをひとつ挙げるとすれば、間違いなくそれは汲み取り式便所の臭気だった。
田舎育ちの僕は、物心つくかつかないかの幼い頃に、何度かその臭いを嗅いだことがあった。
実家は一応水洗だったのだが、その頃周囲にはまだポットン便所を備えた農家がいくつも残っていたのである。
「ううう…」
苦しげな声に振り向くと、阿修羅が両手で独鈷を握りしめてわなわなと震えていた。
独鈷はすでに長槍ほどのサイズに伸びていて明らかに戦闘準備万端といった感じなのだが、阿修羅ときたらぴくりとも動かない。
無理もない、と思う。
阿修羅は小麦色の肌を強調するために、純白のタンクトップにショーパンをコーディネートしているのだ。
今ここであのスライムたちと乱闘になったら、そのオフホワイトの衣装はたちまちウンコ色に染まってしまうに違いない。
「でもさ、スライムって、こんなに臭かったな?」
固まっている阿修羅は置いといて、僕はとりあえず一ノ瀬と玉に話しかけることにした。
「うーん、どうだかなあ。ゲームの中じゃ、匂いまではわかんねえもんなあ」
腕組みをして、一ノ瀬が首をひねった。
こういうどうでもいい話題になると、ひどく真剣に思考を巡らすのが、この男の特技である。
「ですよねえ。そのうち、匂い付きの4Dゲームとか、開発されたりして」
けっこう親身に答える玉。
このふたり、思考回路が似ているのか。
「だけど、これ、どう考えても、ウンチの匂いだろ? あいつ、本当にスライムなのか? スライムに似て非なるモノって気がするけど」
僕が根源的な疑義をはさんだ時である。
「あれえ、見てください!」
玉が丸眼鏡の奥の眼を真ん丸にして、スライムたちのほうを指さした。
「おお、一か所に集まっていくぞ」
一ノ瀬が頷く間にも、タールのように真っ黒なスライムたちは互いにぶつかり合ってはどんどん融合していく。
「うは、なんてこったい!」
腰を抜かす一ノ瀬。
ぶくぶく膨れ上がり、スライムが天井に届くほど巨大化するのに、1分とかからなかった。
目の前にそびえ立ち、ぷるぷる震える怪物を見上げて、一ノ瀬がぼやいた。
「うう…こりゃ、スライムというより、まるで巨大なとぐろウンチだな。恐竜のウンチっていうかさ」
「どうする?」
僕はもう一度、阿修羅のほうを振り向いた。
「やだよ」
僕の視線を受け止めると、阿修羅が激しくかぶりを振った。
完全に顔が引きつっている。
「私、絶対触りたくないからね。んもう、あんなバッチィもの」
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