17 / 32
#16
しおりを挟む
「人に寄生してゾンビ化するパラサイト生物ですか…」
たどたどしい私の説明を聞き終えると、丸眼鏡の奥で流伽がつぶらな瞳を細め、ぽつりとそうつぶやいた。
こんな話、ふつうだったら笑い飛ばされるのがオチだと思うんだけど、さすが変人、流伽は疑うそぶりも見せず、きわめて真剣に受け止めてくれたようだ。
「原因は、新種のロイコである可能性が大だと思います。それが本当なら、こうしてはいられません」
ぱたんとノートパソコンの蓋を閉じ、立ち上がった。
「こうしてはいられませんって、いったいどうする気なんだよ?」
窓辺に立った由羅が、呆れたように言う。
「裏山の湿地帯に行って、現物を採取するのです。翔子の話だと、ロイコに寄生された蛞蝓は一匹じゃないって話だから」
そうなのだ。
あの、葦の茂みで光ってたたくさんのオレンジ色。
あれが全部、その寄生生物に冒されたナメクジだとしたら…。
「あんまり気が進まねーな」
心から嫌そうに、由羅がぼやいた。
「湿地帯って、学校の裏の森の奥だろ? 蚊は出るわ蛭は出るわ野犬は出るわで、ろくなとこじゃねーぞ」
「だから行くのよ」
翔ちゃんが流伽の肩を持つ。
「ナメクジ→野犬→人間と感染が拡大していくのだとしたら、これ以上放ってはおけないでしょう」
「そんなの、保健所に任せればいいじゃんか」
「行政が、証拠もなしに動くと思う? ただでさえお役所気質なんだから、このまま4人で窓口に乗りこんで行ったとしても、誰も私たち中学生の言うことなんて、聞いてくれないわ。だから流伽の言う通りだと思う。まずは物的証拠を集めないと」
「物的証拠かあ。でも、まあ、そうだよね」
私はため息をついた。
きのうのゾンビ事件だって、あれからどうなったのか、駐在所からは何の連絡もないままなのだ。
「虫よけスプレーならありますし、野良犬の襲撃に備えて色々準備していけばいいと思います。幸い、ここは理科準備室ですから、薬品の類いには事欠きません」
いそいそとリュックに小道具を詰め込みながら、流伽が言う。
「できれば湿地帯の向こうの里山も調べたいな。ほら、ドルメンが発掘されたあたり」
と、こちらも行く気満々の翔ちゃんだ。
「発掘現場って、もしかして、翔ちゃんのお父さんがいたりする?」
ふと思いついて、私はたずねた。
翔ちゃんの父親は、考古学かなんかを専攻する大学の准教授だ。
確か、その遺跡の調査のために呼ばれたのではなかったか。
「それがね、発掘中止になって、ずっと家にいるの。何があったのか、全然教えてくれないんだけど、どうもあそこ、ふつうじゃないみたい」
「臭いますね」
流伽はなんだかうれしそうだ。
こういうオカルトチックな話題が三度の飯より好きって感じである。
「ま、なんでもいいけど、暗くなる前に戻ろうぜ」
根負けしたのか、外人っぽいジェスチャーで、首をすくめて由羅が言った。
「無事に帰って来られるといいけど」
仕方なく、私もうなずいた。
怖いし、気味悪いけど、好奇心には勝てなかった。
まさに謎が謎を呼ぶとはこのことだ。
ゾンビに襲われた由羅が助かった理由。
翔ちゃんが指摘したように、それすらまだわからないままなのだから…。
たどたどしい私の説明を聞き終えると、丸眼鏡の奥で流伽がつぶらな瞳を細め、ぽつりとそうつぶやいた。
こんな話、ふつうだったら笑い飛ばされるのがオチだと思うんだけど、さすが変人、流伽は疑うそぶりも見せず、きわめて真剣に受け止めてくれたようだ。
「原因は、新種のロイコである可能性が大だと思います。それが本当なら、こうしてはいられません」
ぱたんとノートパソコンの蓋を閉じ、立ち上がった。
「こうしてはいられませんって、いったいどうする気なんだよ?」
窓辺に立った由羅が、呆れたように言う。
「裏山の湿地帯に行って、現物を採取するのです。翔子の話だと、ロイコに寄生された蛞蝓は一匹じゃないって話だから」
そうなのだ。
あの、葦の茂みで光ってたたくさんのオレンジ色。
あれが全部、その寄生生物に冒されたナメクジだとしたら…。
「あんまり気が進まねーな」
心から嫌そうに、由羅がぼやいた。
「湿地帯って、学校の裏の森の奥だろ? 蚊は出るわ蛭は出るわ野犬は出るわで、ろくなとこじゃねーぞ」
「だから行くのよ」
翔ちゃんが流伽の肩を持つ。
「ナメクジ→野犬→人間と感染が拡大していくのだとしたら、これ以上放ってはおけないでしょう」
「そんなの、保健所に任せればいいじゃんか」
「行政が、証拠もなしに動くと思う? ただでさえお役所気質なんだから、このまま4人で窓口に乗りこんで行ったとしても、誰も私たち中学生の言うことなんて、聞いてくれないわ。だから流伽の言う通りだと思う。まずは物的証拠を集めないと」
「物的証拠かあ。でも、まあ、そうだよね」
私はため息をついた。
きのうのゾンビ事件だって、あれからどうなったのか、駐在所からは何の連絡もないままなのだ。
「虫よけスプレーならありますし、野良犬の襲撃に備えて色々準備していけばいいと思います。幸い、ここは理科準備室ですから、薬品の類いには事欠きません」
いそいそとリュックに小道具を詰め込みながら、流伽が言う。
「できれば湿地帯の向こうの里山も調べたいな。ほら、ドルメンが発掘されたあたり」
と、こちらも行く気満々の翔ちゃんだ。
「発掘現場って、もしかして、翔ちゃんのお父さんがいたりする?」
ふと思いついて、私はたずねた。
翔ちゃんの父親は、考古学かなんかを専攻する大学の准教授だ。
確か、その遺跡の調査のために呼ばれたのではなかったか。
「それがね、発掘中止になって、ずっと家にいるの。何があったのか、全然教えてくれないんだけど、どうもあそこ、ふつうじゃないみたい」
「臭いますね」
流伽はなんだかうれしそうだ。
こういうオカルトチックな話題が三度の飯より好きって感じである。
「ま、なんでもいいけど、暗くなる前に戻ろうぜ」
根負けしたのか、外人っぽいジェスチャーで、首をすくめて由羅が言った。
「無事に帰って来られるといいけど」
仕方なく、私もうなずいた。
怖いし、気味悪いけど、好奇心には勝てなかった。
まさに謎が謎を呼ぶとはこのことだ。
ゾンビに襲われた由羅が助かった理由。
翔ちゃんが指摘したように、それすらまだわからないままなのだから…。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる