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第7部 蹂躙のヤヌス

#5 酒池肉林

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 ふつうではなかった。
 タナトスの影響を受け、徐々にエロスに目覚めていくのなら、まだわかる。
 が、今杏里を取り囲んでいる女たちは、最初から一様に狂った獣の目をしていた。
 年齢層はさまざまだ。
 20代の若い女性もいれば、身体に脂の乗り切った3、40代らしき熟女もいる。
 ほとんど歯のない老婆すらも数人混じっているのは、何か悪い冗談のように見える。
 それが、全員、まるで行為の途中で獲物に逃げられたメスのように、誰もが目をぎらぎらと血走らせて杏里に迫ってくるのだ。
 いつのまにか、身体が柔らかい物の上に引き上げられ、半分以上、お湯から出てしまっていた。
 大きなクッションかと思ったら、そうではなかった。
 ビア樽のように太った女がベッド代わりになり、杏里を腹の上に乗せているのだった。
 四方に引っ張られた手足の指を、4人の女が舐め始める。
 指と指の間にまで舌を這わせて来る者。
 フェラチオよろしく指をくわえ、チュウチュウ音を立てて吸い出す者。
「くう…」
 杏里は身もだえした。
 四肢の先端から体の中心に向かって快感のさざ波が走る。
 首筋や腋の下、下腹や太腿のつけ根も同様だった。
 我も我もと縋りついてくる女たちが、杏里の全身を手当たり次第に舐め、指で愛撫し、入念に責めてくる。
 熱くすべらかな女体が、蛇のように小柄な杏里の身体をしめつける。
 別々の女が乳房をつかみ、揉みしだく。
 固く尖った乳首をつままれ、左右に強く引っ張られた。
「あんっ!」
 思わず跳ね上げた腰を、下から大女がつかむ。
 ブリッジの姿勢で反り返った杏里の恥丘に、誰かが太い舌を入れてきた。
「そこは、だめえ!」
 脚が広げられていく。
 指の代わりに顔が来た。
 もみくちゃにされている乳房の間から、上気した中年女の顔がのぞいている。
 水商売ふうの、なかなかの美女だった。
 その美女が、陰唇に沿って、舌を使い始めた。
 女は、かなりのテクニシャンだった。
 たちまちのうちに、杏里のクリトリスが硬くなる。
 と、突然、美女の顔を押し退け、今度は豚のようにひしゃげた醜悪な顔が現れた。
 ハムのように分厚い唇が膣にむしゃぶりつき、しみ出す杏里のエキスを吸い始める。
「ああああんっ」
 叫ぶ杏里。
 乱暴にされると、逆に新鮮で感じてしまう。
「き、気持ち、いい…」
 思わずそうつぶやいた時、ソーセージ並みに太い舌がめり込んできて、杏里はあまりの快感に自分から腰を振りたくった。
 芋虫みたいな指がクリトリスを探り当て、包皮をめくり、弄り出す。
「あふっ」
 ふと見ると、知らぬ間に、乳房を吸う役が、ふたりの老婆に代わっていた。
 葉のない口で乳首を吸われるのに、杏里は弱い。
 皺だらけの梅干しのような老婆の口が動くたび、びんびんと乳首から快感がほとばしった。
 杏里を支える大女が、杏里を背後から抱きかかえたまま、湯船の中に壁のように立ち上がる。
 裸で張りつけにされた杏里の裸体が、浴場の壁にはめ込まれた鏡という鏡に映った。
 卑猥すぎるその光景に、杏里は恍惚となった。
 私の身体、おもちゃにされて、ぴくぴく、ふるえてる…。
 可愛いおっぱいもお尻も、もみくちゃにされて、ぴくぴく、ぴくぴく…。
 ああ、杏里、いじめられるあなたは、なんて、可愛いの…。
 いきなりじゅわっと股間が潤った。
 杏里の膣に吸いついている醜女の唇をもってしても防ぎきれないほどの愛液が、じゅるじゅるじゅるじゅるとにじみ出る。
「も、もう、いっちゃいそう…」
 杏里は喘いだ。
 小刻みに尻を振った。
 全身をくまなく触りまくられ、突き出た乳首とクリトリスを同時に責められ、もう痙攣が止まらない。
 それにこの女体の柔らかいことといったら…。
 おびただしい乳房がこすりつけられた。
 キリンみたいに長身の女が向かい合って立ち、杏里の口に勃起した己の乳首をねじ込んできた。
 その乳首を夢中になって吸う杏里。
 キリンが喘ぎ出す。
 それに呼応するように、浴槽中の女たちがうめき、身をよじる。
 明らかにお湯の成分が変わり始めていた。
 20人分の愛液が溶け出したお湯は、今や薬湯のように変色し始めているようだ。
「あ、いくう!」
 杏里が跳ね上がった。
 クリトリスをねじ切られるようにひねられたからだった。
「い、いっちゃうう!」
 潮が、しぶいた。
 醜女がたまらず口を離す。
 連続して、噴水のように汁が飛ぶ。
 一度噴き出した奔流は、なかなか止まらない。
 杏里のエキスが驟雨のように湯船に降り注ぎ、見る間に湯気を上げるお湯に溶けていく。
 それを肌で吸い込んだのか…。
 一斉に、女たちが悶え狂い始めた。
 ふたり3人とお互いに絡み合い、秘部をまさぐり合っては大声を上げて果てていく。
 妖しいうめき声がひとつになって、天井にうねるように上っていく。
 海老のように反り返り、膣から最後のエキスをばしゃばしゃとまき散らしながら、杏里は湯船にどぶんと落ちた。

 そうして、痺れるような心地よい闇がやってきた。

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