激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【官能編】

戸影絵麻

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第8部 妄執のハーデス

#28 反乱

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「そんなやつ、放っておけばいい」

 よく通る声が、教室の中に響き渡った。

 杏里は目を細め、、声の主を求めてこうべをめぐらせた。

 窓側の最前列からこちらを見つめている少年と、目が合った。

 長身でやせ型の、落ちついた雰囲気の少年である。

 少し長めの前髪の下で、銀縁の眼鏡が光っている。

「佐伯君…」

 隣の席で、唯佳がつぶやくのが聞こえてきた。

 佐伯?

 ああ。

 あの子ね。

 杏里は思い出した。

 まだほとんど名前を覚えていないクラスメートの中でも、佐伯忠雄の名にはかすかに聞き覚えがある。

 成績優秀で、しかもクラス委員。

 クラスの中で、佐伯は、確かそんなポジションだったはずだ。

「それより、いい機会だ。今のこの状況を、なんとかしてみないか」

 佐伯がぐるりとクラスメートたちを見渡して、意味ありげに言った。

「きょうは璃子がいないから、代わりに俺が提案しよう。幸い、まだ30分近く、社会の授業時間は残っている。ここで今、何が起こっても、他の教師たちに乱入される心配はないだろう。だから、この閉塞的な状況を打ち破るのは、今しかない」

「この状況って…?」

 佐伯の隣の席のポニーテールの少女がたずねた。

「美里先生がいなくなって、俺たちが置かれたこの状況さ」

 何のことを言っているの?

 顔にその疑問が浮かんだのだろう。

 それにいち早く気づいたのか、佐伯がきっと杏里を睨みつけた。

「正直に言おう。美里先生は、いわば俺たちの防波堤だった。クールに見えて、俺たちの苦悩をいちばんわかってくれていた。みんなもそうだろう? 爆発寸前の体と心を、何度先生の面談に救われたことか。ところが、その先生が消えてしまった。そして、代わりにやってきたのが、あの女だ。あの女は、いわば先生とは真逆の存在だ。あの姿を見ろ。まるで俺たちに襲ってくれと言わんばかりじゃないか。あいつといるだけで、俺たちのストレスはどんどん溜まっていく。それは、俺たちが懸命に抑え込んでいる獣の部分を、いたずらにあいつが引き出そうとするからだ」

  あの女って、笹原かよ。

 あ、俺もそれ、思ってた。

 あいつ見てると、ムラムラがたまんない。

 同感。このムラムラ感、どうにかしてえよな。

 さすが佐伯、よく言った。おまえのゆーとおり。

   いくらなんでもエロ過ぎるよな。あいつガチで巨乳過ぎ。

 いつもパンツ見せて歩いてるし、だいたいあの身体、中学生のレベルじゃないし。

 まさにエロ原。

  何人かの男子が相づちを打つ。


 私も。

 私もそう思うよ。

 あの子、璃子も言ってたけど、なんだか娼婦みたい。

 絶対、エンコーとかしてるよね。

 顔だってさ、いかにも処女じゃありませんって、ツラしてるもの。

 先生も、きっと何かやらしいことされたんじゃない? それでゼッチョーに達して、気絶しちゃったとか。

 口々に女子もしゃべり出す。

 予想はしていたが、誰ひとりとして杏里に好感を抱いている者はいないようだ。

 ただひとり、心配そうに杏里を見やる、隣の席の唯佳を除いては。

「それで、佐伯君は、杏里をどうするつもりなの?」

 恐る恐るといった感じで、その唯佳がたずねた。

「決まってるだろ」

 佐伯が整った顔に酷薄な笑みを浮かべた。

「今から俺たちみんなでその女を犯すんだ。そう。そいつに、美里先生の代わりを務めてもらおうというわけさ」

 

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