激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【官能編】

戸影絵麻

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第8部 妄執のハーデス

#53 バトルロイヤル⑦

 部屋の中に、重苦しい沈黙が垂れ込めた。

 研修の内容が、殺し合い…?

 杏里は呆然と、壇上のいかめしい男の顔を見つめた。

 いくらここに集められたのが不適合者ばかりだとはいえ、それはいくらなんでも、過激すぎる…。

 そういえば、と思う。

 あの柚木という少年は、このことを知っていたのだろうか。

 柚木がマコトに投げつけた言葉が、耳の奥によみがえる。

 -君たちが、最終ラウンドまで生き残ってくれることを、祈ってるよー

 彼は確か、そう言ったのではなかったか?

「マジで殺しちゃっていいのかい?」
 
 沈黙を破ったのは、マコトだった。

「俺っちはタナトスを殺してここに呼ばれたんだぜ。なのにここではそいつが許されるっていうのかよ?」

 針金のような脚を机に乗せ、ふんぞり返ってへらへら笑っている。

 北条の鋭い蛇のような眼が、マコトを捉えた。

「ああ、かまわん。ここに集められたのは、おまえのようなタナトス殺し、大量殺人の犯人、肉体が外来種化している者、人間を発狂させる力を持つ怪物、そんなのばかりだ。どれも矯正不能というのが委員会の判断なのだよ。それに、おまえたちもよく知っているように、タナトスもパトスも、厳密にいえば、人間ではない。だから、いくら殺しても、殺人罪には問われない。遠慮することはない。持てる力を振り絞って、勝ち上がれ。もしもおまえが生き延びて、自由を手にしたいのならな」

「聞いたか、ユウ」

 笑い声を上げながら、マコトが隣の美少年の肩を肘でこづいた。

「楽しみだぜ、殺したい放題なんだってよ! こりゃ、ちょっとしたパーティみてえなもんじゃねーか」

 他のメンバーは、そんなマコトを冷ややかな目で見つめている。

 -なに喜んでるんだか。あいつ。あったま、おっかしーんじゃない?

 こそこそ囁き合っているのは、例の3人組だろう。

「では、チームを決める。それぞれのユニットから、パトス、前へ出ろ」

 警備員が箱を持ってきて、北条の前へ置いた。

 くじ引きに使うような、立方体の紙の箱である。

 しばしの逡巡を経て、まず由羅が、それから柚木、マコトがそれに続いて前へ出ていった。

 その後に、パラパラと立ち上がった他の5人が続く。

「中にアルファベットの書かれた紙が入っている。それを取るだけだ。チーム名が決まったら、組み合わせは私が決定して、後ほど発表する」

「バカバカしい。子供の遊びじゃあるまいし」

 マコトが減らず口を叩くが、北条は無関心だった。

「始めるぞ。誰からでもいい。紙を取れ」

 由羅が手を伸ばすのが見えた。

 三角に折り畳んだ紙を箱の丸い穴から抜き出すと、開いて杏里のほうに見せた。

「Cだ、杏里」

 北条にも紙を見せると、由羅が一歩退いた。

 柚木、マコト、長身の少女、あの3人組のひとり、相撲取りじみた娘と、順に紙を取っていく。

「俺っちはAだ。柚木、おめえは?」

 全員が撮り終えると、柚木を捕まえ、マコトが訊いた。

 相変わらず、コートの懐に右手は突っ込んだままだ。

 そういえば、紙を取る時も、マコトは左手を使っていた。

 右手を怪我しているとでもいうのだろうか。

「Gさ」

 箱に紙を戻しながら、平然と柚木が答えた。

「君と次で当たらないことを祈るよ。楽しみが減っちゃうからね」

「そりゃ、こっちの台詞だぜ。美晴ともども、血まみれの挽き肉に変えてやるから、楽しみに待ってろよ」

「とんだ茶番だな」

 戻ってきて、身を投げ出すようにパイプ椅子に腰かけると、苦々しげに由羅がつぶやいた。

「由羅…」

 杏里が口を開きかけた時、壇上から北条がよく通る声で言った。

「第1回戦は、今晩7時からとする。食堂にトーナメント表を張っておくから、あとで見ておけ。試合までは自由時間だ。それまでに、食事や準備を済ませておくことだ」

「自由時間? じゃ、家に帰ってもいいのかい? ひょっとしてさ、二度と戻ってこないやつがいたりしてな」

 挑発するように、マコトが言い返す。

 と、北条の顔に笑みのような影が浮かんだ。

「ひとつだけ言っておく。この建物から出たら最後、電波が途絶えておまえたちは死ぬ。悪いが、その手首の認識票には、電子制御の毒針が仕込んであるんだよ。もちろん、無理に外そうとしても作動する仕組みになっている」


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