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第8部 妄執のハーデス
#129 人形少女③
シリンダー型のシャフトの壁面が開くと、中はエレベーターになっていた。
壁のコントロールパネルの上を、冬美が指先でなぞった。
一瞬の無重力状態の後、音もなく円柱が上昇し始める。
ドアが開くと、そこは宇宙船の内部を連想させるメタリックな通路だった。
細長いライトが延々と続くその先、遠近法の中心点に当たる位置に天井まで届くドアがある。
長い通路を無言で歩き、突き当りのドアの前に立つと、冬美が杏里を振り返った。
「私はここまで。中に入れるのは、杏里ちゃん、あなただけ」
杏里は能面のように無表情な冬美の貌から、目の前のドアに視線を移した。
窓も何もないそのドアは、周囲をゴムで囲まれ、まるでエアロックのように見える。
この向こうに、あのサイコジェニーがいるのだ。
そう思うと、複雑な気分になった。
零との死闘のさなか、テレパシーでヒントを与えてくれたのは、確かに彼女だった。
おかげで杏里は、触手を捨てる代わりに本来のタナトスの機能を取り戻し、零の残虐行為に最後まで耐え抜くことができたのだ。
だが、冬美の言葉が正しいとすると、杏里と由羅に零を差し向けたのも、あのサイコジェニーということになる。
いったい彼女は、何を企んでいるのだろう?
私は、由羅の仇として、彼女を憎むべきなのだろうか。
それとも、この一連の出来事の背後に隠された意図を、まずは探り出すべきなのか…。
「じゃ、行ってらっしゃい。済んだら1階に下りてきて。あなたの荷物は全部まとめて、重人や小田切君たちと一緒に、ラウンジで待ってるから。どうせ彼女の前では隠し事はできないし、危害を加えられることもないとは思うけど、くれぐれも自分をしっかり持って、洗脳されないように気をつけて。彼女の力は重人の比じゃない。それだけは言っておくわ」
冬美のヒールの音が通路を遠ざかっていくと、杏里はおずおずとドアの表面に右手の人差し指で触れてみた。
ドアにはノブもボタンもカードの差込口もない。
これでどうやって中に入れというのだろう?
そう頭の中で思った瞬間、空気の漏れる音がして、重そうなドアが内側にゆっくりと開き始めた。
中は真っ暗である。
いくら目を凝らしてみても、何も見えてこない。
仕方なく、手探りで内部に足を踏み入れると、また背後で空気の漏れる音を立て、ドアが閉まり始めた。
漆黒の闇の中に取り残される杏里。
周囲を手で探ってみる。
どうやらここは、狭い通路のような場所らしい。
左右の壁に両手をつけ、すり足で前へ進むと、ふいに指先から壁の感触が消え、杏里は危うく叫びそうになった。
周りから威圧感が消え、かすかな空気の流れが感じられる。
広いところに出たようだ。
「来たわ」
深い闇に向かって、杏里は言った。
「呼んだんでしょ? 私を。姿を見せて。ジェニー、あなたはどこにいるの?」
壁が防音処理をほどこされているのか、しゃべるそばから声は吸収されてしまうようだ。
そのうちに、闇の中心がぼうっと光り始め、杏里は思わず息を呑んだ。
床から、金色の液体を満たした大きなガラスの円柱が徐々にせりあがってくる。
その動きに合わせて投光器が息を吹き返し、斜め下からシリンダーを照らし出す。
黄金色の液体の中に、何かが浮かんでいる。
幼児ほどの大きさの、何か生き物のようなもの…。
-よく来たね。私がサイコジェニーだ。まずは、おめでとうを言わせてもらおうかー
あの”声”ー今ではおなじみのものになったあの思念が、杏里の脳裏でまたたいた。
シリンダーの中のそれに目を凝らす。
宇宙遊泳でもするかのように、液体の中をゆっくりと回転している、それ…。
”声”が、そこから来ていることは、ほぼ間違いない。
それにしても…。
杏里は無意識のうちに口を開け、魂を奪われでもしたかのように、目の前の光景に見入っていた。
あれが、サイコジェニー…?
信じられない…。
あの姿は、まるで…。
壁のコントロールパネルの上を、冬美が指先でなぞった。
一瞬の無重力状態の後、音もなく円柱が上昇し始める。
ドアが開くと、そこは宇宙船の内部を連想させるメタリックな通路だった。
細長いライトが延々と続くその先、遠近法の中心点に当たる位置に天井まで届くドアがある。
長い通路を無言で歩き、突き当りのドアの前に立つと、冬美が杏里を振り返った。
「私はここまで。中に入れるのは、杏里ちゃん、あなただけ」
杏里は能面のように無表情な冬美の貌から、目の前のドアに視線を移した。
窓も何もないそのドアは、周囲をゴムで囲まれ、まるでエアロックのように見える。
この向こうに、あのサイコジェニーがいるのだ。
そう思うと、複雑な気分になった。
零との死闘のさなか、テレパシーでヒントを与えてくれたのは、確かに彼女だった。
おかげで杏里は、触手を捨てる代わりに本来のタナトスの機能を取り戻し、零の残虐行為に最後まで耐え抜くことができたのだ。
だが、冬美の言葉が正しいとすると、杏里と由羅に零を差し向けたのも、あのサイコジェニーということになる。
いったい彼女は、何を企んでいるのだろう?
私は、由羅の仇として、彼女を憎むべきなのだろうか。
それとも、この一連の出来事の背後に隠された意図を、まずは探り出すべきなのか…。
「じゃ、行ってらっしゃい。済んだら1階に下りてきて。あなたの荷物は全部まとめて、重人や小田切君たちと一緒に、ラウンジで待ってるから。どうせ彼女の前では隠し事はできないし、危害を加えられることもないとは思うけど、くれぐれも自分をしっかり持って、洗脳されないように気をつけて。彼女の力は重人の比じゃない。それだけは言っておくわ」
冬美のヒールの音が通路を遠ざかっていくと、杏里はおずおずとドアの表面に右手の人差し指で触れてみた。
ドアにはノブもボタンもカードの差込口もない。
これでどうやって中に入れというのだろう?
そう頭の中で思った瞬間、空気の漏れる音がして、重そうなドアが内側にゆっくりと開き始めた。
中は真っ暗である。
いくら目を凝らしてみても、何も見えてこない。
仕方なく、手探りで内部に足を踏み入れると、また背後で空気の漏れる音を立て、ドアが閉まり始めた。
漆黒の闇の中に取り残される杏里。
周囲を手で探ってみる。
どうやらここは、狭い通路のような場所らしい。
左右の壁に両手をつけ、すり足で前へ進むと、ふいに指先から壁の感触が消え、杏里は危うく叫びそうになった。
周りから威圧感が消え、かすかな空気の流れが感じられる。
広いところに出たようだ。
「来たわ」
深い闇に向かって、杏里は言った。
「呼んだんでしょ? 私を。姿を見せて。ジェニー、あなたはどこにいるの?」
壁が防音処理をほどこされているのか、しゃべるそばから声は吸収されてしまうようだ。
そのうちに、闇の中心がぼうっと光り始め、杏里は思わず息を呑んだ。
床から、金色の液体を満たした大きなガラスの円柱が徐々にせりあがってくる。
その動きに合わせて投光器が息を吹き返し、斜め下からシリンダーを照らし出す。
黄金色の液体の中に、何かが浮かんでいる。
幼児ほどの大きさの、何か生き物のようなもの…。
-よく来たね。私がサイコジェニーだ。まずは、おめでとうを言わせてもらおうかー
あの”声”ー今ではおなじみのものになったあの思念が、杏里の脳裏でまたたいた。
シリンダーの中のそれに目を凝らす。
宇宙遊泳でもするかのように、液体の中をゆっくりと回転している、それ…。
”声”が、そこから来ていることは、ほぼ間違いない。
それにしても…。
杏里は無意識のうちに口を開け、魂を奪われでもしたかのように、目の前の光景に見入っていた。
あれが、サイコジェニー…?
信じられない…。
あの姿は、まるで…。
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