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第8部 妄執のハーデス
#130 人形少女④
最初、それは蛹に見えた。
黄金色の液体に浮遊する、人間の幼児ほどの大きさの蛹…。
だが、目を凝らしているうちに、次第にその正体が明らかになってきた。
手足のない、裸の少女だ。
身体の発育具合からして、歳の頃は杏里と同じくらいだろうか。
未成熟なりに胸には乳房が隆起し、無毛の股間にはピンクの陰唇の一部が見えている。
小さな顔の周りでは、海藻のように色素の薄い髪の毛がたなびいている。
手足は生まれつき欠損しているらしく、肩やつけ根には肉が盛り上がっており、怪我でそうなったという感じではない。
が、杏里が驚いたのは、そのことではなかった。
少女には、目がひとつしかないのだ。
片方が潰れているわけではない。
おそらくこれも先天的なものなのだろう。
眉間の下あたりに大きなアーモンド形の目が開いていて、ルビーのように輝く瞳でじっと杏里を見つめている。
何度も脳裏に現れたあの”眼”に間違いなかった。
しかし、なんという奇怪な姿だろう。
芋虫のような肉体に、顔面の半ばを占める巨大なひとつ目。
その正体を知らなければ、まるで怪物である。
が、その醜い外見とは裏腹に、少女はある種の神々しさのようなものを、杏里に感じさせずにはおかないのだった。
「あなたが、サイコジェニー?」
茫然とシリンダーの中のそれを眺めながら、杏里はたずねた。
-そうさ。本名はほかにあるのだけどね。皆がそう呼びたいのなら、私はそれで構わないよー
「あなたは…何者なの?」
-この姿にかなり驚いているようだね。はは、まあ、無理もないか。でも、私は由羅とは違う。おまえの推測通り、この身体は生まれつきさ。別に、手足を零にもぎ取られたわけではないよ。こんなところに入っているのも、陸上じゃ、不便でとても生活できないからさ。だから、私の家はずっとここ、この羊水の中というわけだー
ジェニーは液体の中をふわふわ漂いながら、時折身体を反転させる。
そのさまは、以前水族館で見たクリオネそっくりだった。
-私が何者かという質問だが、それにはこう答えるしかないね。タナトスである、おまえの同族だと。ただ、ヒュプノスとしては、体が不自由な分、いささか精神が発達しているというべきかなー
ということは、この少女も人間の手でつくられたものだということか。
杏里や由羅、そして重人と同じように…。
-そうさ。ただし、私を生み出したことを、最近、人間たちは、少し後悔しているようだけどー
シリンダーのほうから、さざ波のようなかすかな波動が伝わってくる。
それがジェニーの笑い声だと気づくのに、しばらくかかった。
「ねえ、教えて。今度のことを仕組んだのは、あなたなんでしょ? あの、北条とかいう役人なんかじゃなくて」
-北条? あれはただの、軍人かぶれのでくの棒だよ。私はあれに司会者の役をさせたに過ぎない。そう、今回のイベントは、すべてこの私が考え、準備させた。黒野零の投入も含めてねー
「どうして? どうして、そんなことしたの? あなたのせいで、何人のパトスとタナトスが命を落としたと思ってるの? それに、挙句の果てには、由羅まで…」
杏里の悲痛な叫びは、しかし、ジェニーの次のひと言で、あっさりと打ち消されてしまった。
-どうしてって? わからないのかい? これは全部、おまえのためじゃないかー
「え…?」
杏里は言葉を失った。
あの凄惨極まりないバトルが、私のため…?
そんな…。
この子、いったい何が言いたいの?
黄金色の液体に浮遊する、人間の幼児ほどの大きさの蛹…。
だが、目を凝らしているうちに、次第にその正体が明らかになってきた。
手足のない、裸の少女だ。
身体の発育具合からして、歳の頃は杏里と同じくらいだろうか。
未成熟なりに胸には乳房が隆起し、無毛の股間にはピンクの陰唇の一部が見えている。
小さな顔の周りでは、海藻のように色素の薄い髪の毛がたなびいている。
手足は生まれつき欠損しているらしく、肩やつけ根には肉が盛り上がっており、怪我でそうなったという感じではない。
が、杏里が驚いたのは、そのことではなかった。
少女には、目がひとつしかないのだ。
片方が潰れているわけではない。
おそらくこれも先天的なものなのだろう。
眉間の下あたりに大きなアーモンド形の目が開いていて、ルビーのように輝く瞳でじっと杏里を見つめている。
何度も脳裏に現れたあの”眼”に間違いなかった。
しかし、なんという奇怪な姿だろう。
芋虫のような肉体に、顔面の半ばを占める巨大なひとつ目。
その正体を知らなければ、まるで怪物である。
が、その醜い外見とは裏腹に、少女はある種の神々しさのようなものを、杏里に感じさせずにはおかないのだった。
「あなたが、サイコジェニー?」
茫然とシリンダーの中のそれを眺めながら、杏里はたずねた。
-そうさ。本名はほかにあるのだけどね。皆がそう呼びたいのなら、私はそれで構わないよー
「あなたは…何者なの?」
-この姿にかなり驚いているようだね。はは、まあ、無理もないか。でも、私は由羅とは違う。おまえの推測通り、この身体は生まれつきさ。別に、手足を零にもぎ取られたわけではないよ。こんなところに入っているのも、陸上じゃ、不便でとても生活できないからさ。だから、私の家はずっとここ、この羊水の中というわけだー
ジェニーは液体の中をふわふわ漂いながら、時折身体を反転させる。
そのさまは、以前水族館で見たクリオネそっくりだった。
-私が何者かという質問だが、それにはこう答えるしかないね。タナトスである、おまえの同族だと。ただ、ヒュプノスとしては、体が不自由な分、いささか精神が発達しているというべきかなー
ということは、この少女も人間の手でつくられたものだということか。
杏里や由羅、そして重人と同じように…。
-そうさ。ただし、私を生み出したことを、最近、人間たちは、少し後悔しているようだけどー
シリンダーのほうから、さざ波のようなかすかな波動が伝わってくる。
それがジェニーの笑い声だと気づくのに、しばらくかかった。
「ねえ、教えて。今度のことを仕組んだのは、あなたなんでしょ? あの、北条とかいう役人なんかじゃなくて」
-北条? あれはただの、軍人かぶれのでくの棒だよ。私はあれに司会者の役をさせたに過ぎない。そう、今回のイベントは、すべてこの私が考え、準備させた。黒野零の投入も含めてねー
「どうして? どうして、そんなことしたの? あなたのせいで、何人のパトスとタナトスが命を落としたと思ってるの? それに、挙句の果てには、由羅まで…」
杏里の悲痛な叫びは、しかし、ジェニーの次のひと言で、あっさりと打ち消されてしまった。
-どうしてって? わからないのかい? これは全部、おまえのためじゃないかー
「え…?」
杏里は言葉を失った。
あの凄惨極まりないバトルが、私のため…?
そんな…。
この子、いったい何が言いたいの?
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