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#43 魔の河
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あわや密林に急降下、かと思いきや。
私たちが落ちたのは、その手前の川の中だった。
高度不足でパラシュートが開かなかったから、まあこれはこれでよしとせねばならぬだろう。
そうなると邪魔なのは救命胴着である。
バスト90を超えるスイカップの私には、胸が苦しくてならないのだ。
ぷかぷか浮かびながら胴着を脱ぎ捨てた。
胴着なしでも浮力に問題はない。
乳房が浮袋の役割を果たしてくれるからである。
いわば私は、ふたつの大きなエアバッグを装備して水に浮かんでいるようなものなのだ。
スカートが、海草みたいにふわふわと、身体の周りに広がっている。
だから水面下はパンツ一枚の状態である。
それだけが不安と言えば不安だが、この川、川幅がかなり広いらしく、湖のように水面が凪いでいて波ひとつない。
岸の見えるほうに向かってゆっくり平泳ぎで水をかいでいると、少し離れたところをソフィアが泳いでいるのが見えてきた。
「翔子、大丈夫?」
手を振るソフィア。
「うん、平気。泳ぎはあまり得意じゃないけどね。ところでラルクは?」
あの唐変木、ついに死んだのだろうか。
だが、役立たずだからといってそうそう簡単に死んでしまっていいはずがない。
あれでも曲がりなりにも将軍の長男でソフィアの兄なのだ。
「あそこでゴムボートに乗ってるのがそうじゃない?」
「ゴムボート?」
なるほど、ソフィアの指さす方向を見ると、ひとりだけボートに乗って煙草をふかしている馬鹿がいる。
「ちょっと、何よそれ? なんでラルクだけボートなの?」
「操縦席には折り畳み式ボートのついた緊急射出装置があるからね。それ使ったんじゃない?」
ちゃっかりしたやつである。
どこまでも楽をすることに慣れているらしい。
「岸までかなりありそうだよ。私たちもボートに乗せてもらおうよ」
対岸のジャングルはまだ相当先である。
「そうだね。川の中には何がいるかわかんないからね」
ソフィアの返事が返ってきた。
「何かって、何がいるわけ?」
ぞっとなって、私は水をかく手を速めた。
考えてみればそうだ。
元の世界でも、熱帯の大河とくれば、アマゾン川にせよナイル川にせよ、人食いワニやらピラニアやらの宝庫なのである。
砂ダコだのおばけアリジゴクだのといった怪獣が実在するくらいだから、この川にもとんでもない魔獣の一匹や二匹、ひそんでいたっておかしくはない。
「だったら、のんびり泳いでる場合じゃないよね」
私はラルクに向かって声を張り上げた。
「ちょっとラルク、待ってよ。私たちもボートに…」
そこまで言った時である。
「あ、マズ」
水面に出ているソフィアの顔色が変わった。
「もう遅いみたい。何か来る」
振り向くと、10メートルほど先の水面が、すごい勢いで泡立っていた。
「そこのふたり。急げ」
双眼鏡でこちらを見たラルクが、ボートの上から叫んだ。
「あれはカンディルの大群だ。追いつかれたら最後だぞ」
「カンディルって?」
大声でソフィアが訊き返す。
「人食いドジョウだよ。獲物の身体の穴という穴から体内に入り込んで、内臓を食らい尽す殺人魚さ」
「マジか」
私は慄然とした。
なんでここはいつもこうなのだ?
ネット小説なら、戦いの描写も不要なくらい、よわっちい敵しか出てこないものを。
「仕方ないね、翔子」
気の毒そうな口調でソフィアが言った。
「またあなたの出番みたいだよ」
「え? なんで?」
訊き返す私に、ソフィアが意味ありげにウインクした。
「だって、”穴”は翔子の得意分野でしょ」
私たちが落ちたのは、その手前の川の中だった。
高度不足でパラシュートが開かなかったから、まあこれはこれでよしとせねばならぬだろう。
そうなると邪魔なのは救命胴着である。
バスト90を超えるスイカップの私には、胸が苦しくてならないのだ。
ぷかぷか浮かびながら胴着を脱ぎ捨てた。
胴着なしでも浮力に問題はない。
乳房が浮袋の役割を果たしてくれるからである。
いわば私は、ふたつの大きなエアバッグを装備して水に浮かんでいるようなものなのだ。
スカートが、海草みたいにふわふわと、身体の周りに広がっている。
だから水面下はパンツ一枚の状態である。
それだけが不安と言えば不安だが、この川、川幅がかなり広いらしく、湖のように水面が凪いでいて波ひとつない。
岸の見えるほうに向かってゆっくり平泳ぎで水をかいでいると、少し離れたところをソフィアが泳いでいるのが見えてきた。
「翔子、大丈夫?」
手を振るソフィア。
「うん、平気。泳ぎはあまり得意じゃないけどね。ところでラルクは?」
あの唐変木、ついに死んだのだろうか。
だが、役立たずだからといってそうそう簡単に死んでしまっていいはずがない。
あれでも曲がりなりにも将軍の長男でソフィアの兄なのだ。
「あそこでゴムボートに乗ってるのがそうじゃない?」
「ゴムボート?」
なるほど、ソフィアの指さす方向を見ると、ひとりだけボートに乗って煙草をふかしている馬鹿がいる。
「ちょっと、何よそれ? なんでラルクだけボートなの?」
「操縦席には折り畳み式ボートのついた緊急射出装置があるからね。それ使ったんじゃない?」
ちゃっかりしたやつである。
どこまでも楽をすることに慣れているらしい。
「岸までかなりありそうだよ。私たちもボートに乗せてもらおうよ」
対岸のジャングルはまだ相当先である。
「そうだね。川の中には何がいるかわかんないからね」
ソフィアの返事が返ってきた。
「何かって、何がいるわけ?」
ぞっとなって、私は水をかく手を速めた。
考えてみればそうだ。
元の世界でも、熱帯の大河とくれば、アマゾン川にせよナイル川にせよ、人食いワニやらピラニアやらの宝庫なのである。
砂ダコだのおばけアリジゴクだのといった怪獣が実在するくらいだから、この川にもとんでもない魔獣の一匹や二匹、ひそんでいたっておかしくはない。
「だったら、のんびり泳いでる場合じゃないよね」
私はラルクに向かって声を張り上げた。
「ちょっとラルク、待ってよ。私たちもボートに…」
そこまで言った時である。
「あ、マズ」
水面に出ているソフィアの顔色が変わった。
「もう遅いみたい。何か来る」
振り向くと、10メートルほど先の水面が、すごい勢いで泡立っていた。
「そこのふたり。急げ」
双眼鏡でこちらを見たラルクが、ボートの上から叫んだ。
「あれはカンディルの大群だ。追いつかれたら最後だぞ」
「カンディルって?」
大声でソフィアが訊き返す。
「人食いドジョウだよ。獲物の身体の穴という穴から体内に入り込んで、内臓を食らい尽す殺人魚さ」
「マジか」
私は慄然とした。
なんでここはいつもこうなのだ?
ネット小説なら、戦いの描写も不要なくらい、よわっちい敵しか出てこないものを。
「仕方ないね、翔子」
気の毒そうな口調でソフィアが言った。
「またあなたの出番みたいだよ」
「え? なんで?」
訊き返す私に、ソフィアが意味ありげにウインクした。
「だって、”穴”は翔子の得意分野でしょ」
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