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#150 魔王軍基地潜入計画⑩
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飛空艇を降りると、周りにぞろぞろと人が集まってきた。
どれも筋骨隆々とした、荒くれ男たちばかりである。
全員の視線が集中しているのは、当然のことながら、この私。
これほど女っ気のなさそうな職場に、ストリッパーみたいな恰好の女体が降臨したのだ。
見るなというのが、無理な話だろう。
「何だ、お前たちは?」
人垣を割って歩み出てきたのは、ひときわたくましいガタイをした、海賊みたいな中年男だった。
つば広の帽子を斜めにかぶり、ご丁寧に左目には黒のアイパッチをつけている。
むき出しの二の腕には人魚の入れ墨。
あの鉄甲船の横っ腹に描かれているのと、同じ図柄である。
「見てわからないか? 魔王退治の勇者の一行さ」
まったく物おじせず、そんなことを平気で口にするラルクは、ある意味すごい。
「魔王退治? 勇者? 女子どもと、もやし男の分際でか?」
「馬鹿にしないで。なんなら試してみる?」
大剣グランディルを両手に構えて、ソフィアが前に進み出た。
「まあ、待て」
はやるソフィアを制止して、ラルクが言う。
「ひとつ、頼みがあってきた。あの船をチャーターしたい。人魚の絵のついているやつだ」
「轟天号なら俺の船だが、チャーターして、どうするつもりだ?」
答えたのは、例のアイパッチの大男である。
「地獄島まで送ってほしい。魔王退治の前に、どうしてもあの島に渡っておきたいんだ」
「地獄島だと?」
男が血相を変えた。
「馬鹿も休み休み言え」
周囲の漁師たちも驚きの色を隠せないようだ。
ざわつき始めた男たちの中から、
「正気の沙汰じゃねえ」
「こいつら、リヴァイアさんの祟りを知らねえのか?」
そんな声が、口々に上がるのが聞こえてきた。
「礼ならする」
ラルクが言って、肩にかけていた布袋から長い直方体の紙包みを取り出した。
え?
マジでそれ?
私は思わず目を覆いたくなった。
ラルクの手にあるのは、名古屋駅のキオスクで買った『ういろう』の包みである。
2本あるけど、それ、合計しても2000円もしないよ。
が。
男の反応は、予想外のものだった。
「な、なんと、これは…」
目を皿のように見開いて、ラルクの手の中を凝視している。
「名古屋名物、『ういろう』だ。これはプレーンだが、このほかにも、抹茶味、ココア味と色々そろっている」
周囲からも感嘆の声が沸き起こった。
みんな、もの欲しそうに『ういろう』に釘づけだ。
「うぬぬぬ…。おまえら、どうやら、本物の勇者らしいな。異界土産を、そんなに持っているとは」
「納屋橋饅頭ときしめんもあるが。それとも八丁味噌がいいか」
むむ。ラルクったら、そんなものまで仕入れてたのね。
「全部だ。全部ここに置いて行け。そしたら、いつでも船ぐらい出してやる」
男が勢い込んで言った。
なんと。
これで、商談成立ってわけ?
私は呆れてしまった。
恐るべし、名古屋名物。
まさか、あの不人気土産の代名詞『ういろう』に、こんな潜在能力があったとは…。
どれも筋骨隆々とした、荒くれ男たちばかりである。
全員の視線が集中しているのは、当然のことながら、この私。
これほど女っ気のなさそうな職場に、ストリッパーみたいな恰好の女体が降臨したのだ。
見るなというのが、無理な話だろう。
「何だ、お前たちは?」
人垣を割って歩み出てきたのは、ひときわたくましいガタイをした、海賊みたいな中年男だった。
つば広の帽子を斜めにかぶり、ご丁寧に左目には黒のアイパッチをつけている。
むき出しの二の腕には人魚の入れ墨。
あの鉄甲船の横っ腹に描かれているのと、同じ図柄である。
「見てわからないか? 魔王退治の勇者の一行さ」
まったく物おじせず、そんなことを平気で口にするラルクは、ある意味すごい。
「魔王退治? 勇者? 女子どもと、もやし男の分際でか?」
「馬鹿にしないで。なんなら試してみる?」
大剣グランディルを両手に構えて、ソフィアが前に進み出た。
「まあ、待て」
はやるソフィアを制止して、ラルクが言う。
「ひとつ、頼みがあってきた。あの船をチャーターしたい。人魚の絵のついているやつだ」
「轟天号なら俺の船だが、チャーターして、どうするつもりだ?」
答えたのは、例のアイパッチの大男である。
「地獄島まで送ってほしい。魔王退治の前に、どうしてもあの島に渡っておきたいんだ」
「地獄島だと?」
男が血相を変えた。
「馬鹿も休み休み言え」
周囲の漁師たちも驚きの色を隠せないようだ。
ざわつき始めた男たちの中から、
「正気の沙汰じゃねえ」
「こいつら、リヴァイアさんの祟りを知らねえのか?」
そんな声が、口々に上がるのが聞こえてきた。
「礼ならする」
ラルクが言って、肩にかけていた布袋から長い直方体の紙包みを取り出した。
え?
マジでそれ?
私は思わず目を覆いたくなった。
ラルクの手にあるのは、名古屋駅のキオスクで買った『ういろう』の包みである。
2本あるけど、それ、合計しても2000円もしないよ。
が。
男の反応は、予想外のものだった。
「な、なんと、これは…」
目を皿のように見開いて、ラルクの手の中を凝視している。
「名古屋名物、『ういろう』だ。これはプレーンだが、このほかにも、抹茶味、ココア味と色々そろっている」
周囲からも感嘆の声が沸き起こった。
みんな、もの欲しそうに『ういろう』に釘づけだ。
「うぬぬぬ…。おまえら、どうやら、本物の勇者らしいな。異界土産を、そんなに持っているとは」
「納屋橋饅頭ときしめんもあるが。それとも八丁味噌がいいか」
むむ。ラルクったら、そんなものまで仕入れてたのね。
「全部だ。全部ここに置いて行け。そしたら、いつでも船ぐらい出してやる」
男が勢い込んで言った。
なんと。
これで、商談成立ってわけ?
私は呆れてしまった。
恐るべし、名古屋名物。
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