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第3章 逃避行
#22 真夏の夜の悪夢⑤
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「ここが一番使えそうだな。墓が近いのが気になるが、風通しもいいし、中もきれいだ」
スナフが選んだのは、墓地に面した廃屋のひとつだった。
なるほど、中には部屋がいくつもあり、寝室らしき一角には大きなベッドも備わっている。
うっすらと表面を埃が覆ったシーツをはぎ取り、倉庫で新たに見つけた新しいシーツに替えると、その上にルビイを寝かせてスナフが言った。
「井戸は見つけたが、この様子じゃ、手を付けないほうがいい気がする。喉が渇いてるだろうが、もう少し待ってくれ」
「どういうこと?」
枕を腰に当てたルビイは、ベッドに上半身を起こす格好になっている。
寝たきりよりも、このほうが周囲を見回せるので、ルビイは好きだった。
「もし村人たちがウィルスの感染で全滅したのだとしたら、飲み水が最も危ないはずだ。ここでは少し休息をとるだけにして、落ち着いたらすぐにずらかろう」
「そうね…。でも、確か飲み水の残り、少なかったんじゃ?」
魔物の居た洞窟に入る前に飲んだ水筒の最後の一滴を思い出して、ルビイは言った。
「大丈夫。少し待てば嵐が来る。その雨水を飲んだほうが、ここの井戸水よりずっといい」
「嵐ですって? こんなに晴れてるのに?」
窓から見える青空を仰いで、ルビイは目を丸くした。
「朝陽に暈がかかってたし、東の空に真っ黒な雲塊が発生してる。この風だ。午後にはこのあたり、ゲリラ豪雨で水浸しさ」
ゲリラ豪雨?
聞いたことのない言葉だった。
「それよりルビイ、おまえ、少し体型が変わったんじゃないか?」
シーツにくるまっている半裸のルビイを見て、スナフが眉を上げた。
「そ、そんなこと、ないけど…」
ドキリとして、顔を背けるルビイ。
「気のせいか? ろくなものしか食ってないわりに、少し太った気がするんだが…」
「失礼ね」
内心の動揺を押し隠して、ルビイはスナフをにらみつけた。
「レディに軽々しく太ったなんて言わないの。そんなんだから、あなたはいつまでたっても風来坊なのよ」
スナフが選んだのは、墓地に面した廃屋のひとつだった。
なるほど、中には部屋がいくつもあり、寝室らしき一角には大きなベッドも備わっている。
うっすらと表面を埃が覆ったシーツをはぎ取り、倉庫で新たに見つけた新しいシーツに替えると、その上にルビイを寝かせてスナフが言った。
「井戸は見つけたが、この様子じゃ、手を付けないほうがいい気がする。喉が渇いてるだろうが、もう少し待ってくれ」
「どういうこと?」
枕を腰に当てたルビイは、ベッドに上半身を起こす格好になっている。
寝たきりよりも、このほうが周囲を見回せるので、ルビイは好きだった。
「もし村人たちがウィルスの感染で全滅したのだとしたら、飲み水が最も危ないはずだ。ここでは少し休息をとるだけにして、落ち着いたらすぐにずらかろう」
「そうね…。でも、確か飲み水の残り、少なかったんじゃ?」
魔物の居た洞窟に入る前に飲んだ水筒の最後の一滴を思い出して、ルビイは言った。
「大丈夫。少し待てば嵐が来る。その雨水を飲んだほうが、ここの井戸水よりずっといい」
「嵐ですって? こんなに晴れてるのに?」
窓から見える青空を仰いで、ルビイは目を丸くした。
「朝陽に暈がかかってたし、東の空に真っ黒な雲塊が発生してる。この風だ。午後にはこのあたり、ゲリラ豪雨で水浸しさ」
ゲリラ豪雨?
聞いたことのない言葉だった。
「それよりルビイ、おまえ、少し体型が変わったんじゃないか?」
シーツにくるまっている半裸のルビイを見て、スナフが眉を上げた。
「そ、そんなこと、ないけど…」
ドキリとして、顔を背けるルビイ。
「気のせいか? ろくなものしか食ってないわりに、少し太った気がするんだが…」
「失礼ね」
内心の動揺を押し隠して、ルビイはスナフをにらみつけた。
「レディに軽々しく太ったなんて言わないの。そんなんだから、あなたはいつまでたっても風来坊なのよ」
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