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第2章 跪いて足をお舐め

#11 腕試し⑨

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 もはや一刻の猶予もなかった。

「どいて!」

 カイルの巨体を押しのけると、ルビイはレイピアを逆手に持ち替えた。

 破れた扉の隙間から、血走った眼が覗いている。

 黒目の部分のない、薄気味悪く白濁した眼球だ。
 
「くらええ!」

 その中央めがけて、レイピアの鋭い切っ先を突き立てる。

 同時に、扉の向こうで魂消るような絶叫が轟いた。

 潰れた眼玉が消え、代わりにどぼっと血の塊が噴き出してくる。

「今よ!」

 ルビイは扉を押し開いた。

 かろうじて身体が通るだけの隙間をすり抜ける。

「ま、待てよ!」

 扉にぶち当たりながら、カイルが後から飛び出してきた。

「サト! 閉めて!」

 命じておいて、正面を振り返る。

 集落に囲まれた広場に、異形の者たちが降り立っていた。

 熊ほどもある巨大な大鷲である。
 
 だが、普通の鷲と違うのは、その大きさだけではない。

 首から上は、髪を振り乱した人間の女。

 しかも胸には、肌色の乳房がこんもりと盛り上がっている。

 予想通りだった。

 空の悪魔、ハルピュイア。

 闇の世界に引きずりこまれたエルフが、魔王に改造されて生み出されたという、地獄の悪鬼である。

 ルビイは油断なく周囲を見回した。

 地面に降りているハルピは三体。

 残り二体は、様子をうかがうように頭上を旋回している。
 
 ぎゃあぎゃあ喚いてのたうちまわっているのは、ルビイに片目を潰された個体である。

 レイピアを構えると、横っ飛びにルビイは跳んだ。

 細身の剣を振り上げ、着地と同時に手負いのハルピの首に刃先を叩きつける。

 血潮がしぶき、断末魔の絶叫とともに、跳ねられた首が宙を舞う。

「す、すげえ…」

 カイルが茫然とつぶやいた。

「ボーっとしてんじゃないよ!」

 立ち尽くす大男に向かって、ルビイは怒鳴った。

「男なら、あんたも戦いなさい!」

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