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第3章 魔獣の巣窟

#29 王立生物学研究所⑮

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 ルビイは駆けた。

 その左側をマグナが、右側を双子が走っている。

 円形の闘技場ーバトルフィールドは、思いのほか広かった。

 全力疾走に近いスピードで駆けているつもりなのだが、なかなか敵との距離が縮まらない。

 こちらに向かって突進し始めたケルベロスが、ふいに制動をかけた。

 4本の列柱のような足を踏んばって停止すると、3つの頭部がくねり、金色の眼がねめつけるようにルビイたちを見た。

「気をつけて! 来るよ!」

 3つの口が開き始めたのを見て、ルビイは叫んだ。

 ケルベロスの向かって右の口からは白い氷の粒子が、真ん中の口からは燃え盛る炎が、向かって左側の口からは渦巻く竜巻が垣間見えている。

 私の相手は、炎。

 できれば盾が欲しかったけど。

 が、今更ないものねだりをしても始まらない。

 ブレスに備えて、ルビイが走る速度をゆるめた時だった。

 3つの口がぐわっと同時に開き切り、3種類の属性のブレスが大気を切り裂いた。

 目の前の口から紅蓮の炎が噴き上がったかと思うと、灼熱の空気の塊と化して、ルビイに襲いかかった。

 とっさに上体をかがめ、前方に身を投げてやり過ごす。

 頭上すれすれのところを熱波が通り過ぎ、ルビイの髪の一部を焼いた。

 かろうじて直撃を避け、何度も回転して身を起こしたルビイは、見た。

 氷のブレスから逃げられなかったのか、左側で、マグナが氷の像と化して固まってしまっている。

「うわーっ! やべえ!」

「誰か助けて!」

 悲鳴のした右手の方角を振り向くと、アニマとアニムスの姿がない。

「どうしたの?」

「ここだよ、ここ!」

 目を凝らすと、見えてきた。

 突風に吹き飛ばされたのだろう。

 双子は円盤状の大地の端に両手でしがみつき、今にも落っこちそうになっていた。

「頑張って! なんとかするから!」

 叫び返して、双子たちのほうに駆け寄ろうとした、その時だった。

 3つの頸が動き、表情のない3対の黄金の眼が正面からルビイを捉えた。

 まずい。

 ルビイの顔から音を立てて血の気が引いた。
 
 3種類のブレスを同時にくらったら、いくら私でも、逃げ場がない。

 そんなルビイの焦りをあざ笑うかのように、ケルベロスの3つの口がまたしても開きにかかる。

 開きかかった巨大な口の中で、吹雪が、炎が、竜巻が見る間に膨れ上がっていく。

 更に前へ、ジャンプしようと身構えた。

 こうなったら、ブレスが来る前に、敵の懐に転がり込むしかない。

 が、できなかった。

 右足のつけ根に、突如として激痛が走ったのだ。

 義足が、壊れかけている。

 キメラたちに手足をもぎ取られ、達磨女にされた時に、右の股関節か義足本体のどちらかにに異常が生じたのに違いない。

 右足に力が入らなくなっていた。

 これでは、走れない。

 それどころか、歩くことすらおぼつかない。

 くう、ここまでか。

 ルビイは、がくりとその場に膝をついた。

 どおおおおん。

 大地が揺れた。

 射程内にルビイを捕らえようと、ケルベロスが再び前進を開始したのだ。
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