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第6章 ネオ・チャイナの野望
#9 鬼岩城④
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「以前は確かにそうだったかもしれないけれど、今はどうかしらね」
ルビイは娘と肩を並べて、海面から現れた白い道を歩いていく。
白砂と思われたものは、どうやら珊瑚の砕けた欠片らしく、ブーツで踏むたびにサクサク心地よい音を立てる。
正面に見える陸地は、島というより険しい山である。
島全体が峨峨たる列塔に取り囲まれた天然の要塞と化しているのだ。
明け方の潮風が頬を撫で、ほつれ毛を巻き上げる。
南国とはいえ、さすがにこの時間帯は空気が澄み、ひんやりとしている。
朝陽は鬼岩城の列塔に間に顔をのぞかせるほど、高くなっていた。
「あなたたち鬼族は、もう100体も残っていないと聞いている。それに比べて、私たち人間はこの星を覆い尽くすほど繁栄しているわ。全面戦争になったら、いくら身体能力に優れていても、あなたたち鬼族に勝ち目はない」
「数が多ければいいってもんじゃないだろう。人間なんて大半が役立たずのゴミだ。しょせん、うちらの餌として生きるのが分相応ってやつらばかりじゃないか」
「手厳しいのね」
ルビイは苦笑した。
「それを否定するつもりはないわ。私がこれまで出会った人間たちも、その大半がクズだった」
「ならばなぜおまえは人間の味方をする? その身体に本当に魔王の血が流れているのなら、魔王の軍門に下って人間など滅ぼしてしまえばいい」
若いからなのか、混沌は好奇心旺盛だ。
敵と肩を並べて歩いているという特異な状況にもかかわらず、いつまでたっても質問をやめようとはしない。
「人間にも、わずかだけど、素晴らしい資質を備えた者、心の清らかな者がいる。理由なんて、それだけで十分でしょ? それに、私のこの肉体は、確かに魔王の血を引いてはいるけれど、心はそうじゃない。私は、魔王と私の間に生まれた娘の躰に、20年の時を超え、精神だけ転生した。まあ、なんて説明しても、あなたには何のことだかわからないでしょうけど」
包み隠さず、ルビイは話して聞かせた。
魔王の血の波動に気づいたということは、鬼族の主、主転童子はルビイの存在を熟知している可能性がある。
どのみち、相手が魔族ならば、隠したってせんのないことだ。
宮中のしがらみと違って、それで地位を剥奪されるということもない。
「変なやつだな。人間の女にしては馬鹿に強いから一目置いてやってるけどさ、言ってることは無茶苦茶だぞ」
一目置いてやっている。
その上からの物言いがルビイの微笑を誘う。
「そうね。それだけ、これまでの私の人生がめちゃめちゃだったってことなんだよね」
苦笑いして言った時、突然混沌が足を止めて、前方を指差した。
「着いた。ああ、羅生門が開いてる。さてはうちらの行動、童子さまに全部ばれてたのかな」
ルビイは娘と肩を並べて、海面から現れた白い道を歩いていく。
白砂と思われたものは、どうやら珊瑚の砕けた欠片らしく、ブーツで踏むたびにサクサク心地よい音を立てる。
正面に見える陸地は、島というより険しい山である。
島全体が峨峨たる列塔に取り囲まれた天然の要塞と化しているのだ。
明け方の潮風が頬を撫で、ほつれ毛を巻き上げる。
南国とはいえ、さすがにこの時間帯は空気が澄み、ひんやりとしている。
朝陽は鬼岩城の列塔に間に顔をのぞかせるほど、高くなっていた。
「あなたたち鬼族は、もう100体も残っていないと聞いている。それに比べて、私たち人間はこの星を覆い尽くすほど繁栄しているわ。全面戦争になったら、いくら身体能力に優れていても、あなたたち鬼族に勝ち目はない」
「数が多ければいいってもんじゃないだろう。人間なんて大半が役立たずのゴミだ。しょせん、うちらの餌として生きるのが分相応ってやつらばかりじゃないか」
「手厳しいのね」
ルビイは苦笑した。
「それを否定するつもりはないわ。私がこれまで出会った人間たちも、その大半がクズだった」
「ならばなぜおまえは人間の味方をする? その身体に本当に魔王の血が流れているのなら、魔王の軍門に下って人間など滅ぼしてしまえばいい」
若いからなのか、混沌は好奇心旺盛だ。
敵と肩を並べて歩いているという特異な状況にもかかわらず、いつまでたっても質問をやめようとはしない。
「人間にも、わずかだけど、素晴らしい資質を備えた者、心の清らかな者がいる。理由なんて、それだけで十分でしょ? それに、私のこの肉体は、確かに魔王の血を引いてはいるけれど、心はそうじゃない。私は、魔王と私の間に生まれた娘の躰に、20年の時を超え、精神だけ転生した。まあ、なんて説明しても、あなたには何のことだかわからないでしょうけど」
包み隠さず、ルビイは話して聞かせた。
魔王の血の波動に気づいたということは、鬼族の主、主転童子はルビイの存在を熟知している可能性がある。
どのみち、相手が魔族ならば、隠したってせんのないことだ。
宮中のしがらみと違って、それで地位を剥奪されるということもない。
「変なやつだな。人間の女にしては馬鹿に強いから一目置いてやってるけどさ、言ってることは無茶苦茶だぞ」
一目置いてやっている。
その上からの物言いがルビイの微笑を誘う。
「そうね。それだけ、これまでの私の人生がめちゃめちゃだったってことなんだよね」
苦笑いして言った時、突然混沌が足を止めて、前方を指差した。
「着いた。ああ、羅生門が開いてる。さてはうちらの行動、童子さまに全部ばれてたのかな」
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