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第6章 ネオ・チャイナの野望
#27 禁断への誘い
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ルビイは”眼”を見ていた。
闇に浮かぶ、燃え盛るふたつの眼。
猫か蛇のような縦長の瞳孔を持つそれは、明らかに人間のものではない。
睫毛の代わりに紅蓮の炎に縁取られ、ルビイの脳裏で不気味な輝きを放っている。
その双眸から流れ出る邪悪な波動は、忘れようとしても忘れることのできないものだった。
凶器のような童子の肉槌に躰を貫かれた地獄の苦しみが、うそのように遠のいていく。
代わりにひたひたと全身を満たし始めたのは、あろうことか、性的な疼きに似た快感だった。
ーおまえは…魔王ー
心の中で、茫然とルビイはつぶやいた。
なぜここに魔王が…?
これは幻覚?
それとも?
-懲りないやつだな。またそんな死に方をしようというのかー
魔王が嗤った。
-この前、機械知性体アダムに、同じことをされたばかりだろうー
ルビイは唇を噛んだ。
その通りだった。
あの時も、私はアダムの鋼鉄の尾に串刺しにされ、躰をバラバラに引き裂かれたのだ…。
-そこまでやられてしまっては、常世の虫もイブの加護も、もはやおまえを救うことは不可能だー
-余計なお世話。私が死のうが生きようが、おまえにはもはや何の関係もないはずー
ルビイの中に怒りが湧きあがった。
よりによって、こんな無様な姿を魔王の前にさらしてしまうとは。
こいつは遠い魔王城の中に居て、にやにや笑いながらこれまでの私の醜態をことごとく観察してきたのに違いない。
-それがそうでもないー
含み笑いを続けながら、魔王が続けた。
-わからないのか? 私はおまえを待っているのだー
-待っている? ばかなー
-うそではない。おまえは私の娘であり、妻。その体に流れる血液がその何よりの証拠だろうー
-い、言うな! 私はおまえの眷属などではない。れっきとした人間だ!ー
-あの時の快楽を忘れたとは言わせない。火の山の火口で一度、おまえの故郷の村で一度、おまえは私に抱かれ、愉悦の中で歓び泣き叫んだのだ。あの法悦を、もう一度味わいたいと思わないのか?-
-断る! 誰が魔王などと! 私はおまえを倒す! 絶対に!-
-ふふふ、威勢のいいやつだ。さすが私の正妻になるべき女だよー
-去れ! 私はおまえなぞに用はない!-
屈辱と憤怒で、ルビイの胸は張り裂けそうだった。
-それでいいのか?-
からかうように魔王が嗤う。
-私を倒すにせよ、殺すにせよ、そのままではおまえはもうおしまいだぞ?-
-だから、何が言いたいのだ!-
嫌な予感がした。
だが、ルビイはあえてその先に踏み込まざるを得なかった。
魔王の言う通りなのだ。
このままでは、せっかくの蘇生もむなしく、私はまた死ぬだろう…。
-力をやろうというのだよー
”声”をひそめるようにして、魔王が言った。
-この場を切り抜けるために、私の力の一部を、なー
闇に浮かぶ、燃え盛るふたつの眼。
猫か蛇のような縦長の瞳孔を持つそれは、明らかに人間のものではない。
睫毛の代わりに紅蓮の炎に縁取られ、ルビイの脳裏で不気味な輝きを放っている。
その双眸から流れ出る邪悪な波動は、忘れようとしても忘れることのできないものだった。
凶器のような童子の肉槌に躰を貫かれた地獄の苦しみが、うそのように遠のいていく。
代わりにひたひたと全身を満たし始めたのは、あろうことか、性的な疼きに似た快感だった。
ーおまえは…魔王ー
心の中で、茫然とルビイはつぶやいた。
なぜここに魔王が…?
これは幻覚?
それとも?
-懲りないやつだな。またそんな死に方をしようというのかー
魔王が嗤った。
-この前、機械知性体アダムに、同じことをされたばかりだろうー
ルビイは唇を噛んだ。
その通りだった。
あの時も、私はアダムの鋼鉄の尾に串刺しにされ、躰をバラバラに引き裂かれたのだ…。
-そこまでやられてしまっては、常世の虫もイブの加護も、もはやおまえを救うことは不可能だー
-余計なお世話。私が死のうが生きようが、おまえにはもはや何の関係もないはずー
ルビイの中に怒りが湧きあがった。
よりによって、こんな無様な姿を魔王の前にさらしてしまうとは。
こいつは遠い魔王城の中に居て、にやにや笑いながらこれまでの私の醜態をことごとく観察してきたのに違いない。
-それがそうでもないー
含み笑いを続けながら、魔王が続けた。
-わからないのか? 私はおまえを待っているのだー
-待っている? ばかなー
-うそではない。おまえは私の娘であり、妻。その体に流れる血液がその何よりの証拠だろうー
-い、言うな! 私はおまえの眷属などではない。れっきとした人間だ!ー
-あの時の快楽を忘れたとは言わせない。火の山の火口で一度、おまえの故郷の村で一度、おまえは私に抱かれ、愉悦の中で歓び泣き叫んだのだ。あの法悦を、もう一度味わいたいと思わないのか?-
-断る! 誰が魔王などと! 私はおまえを倒す! 絶対に!-
-ふふふ、威勢のいいやつだ。さすが私の正妻になるべき女だよー
-去れ! 私はおまえなぞに用はない!-
屈辱と憤怒で、ルビイの胸は張り裂けそうだった。
-それでいいのか?-
からかうように魔王が嗤う。
-私を倒すにせよ、殺すにせよ、そのままではおまえはもうおしまいだぞ?-
-だから、何が言いたいのだ!-
嫌な予感がした。
だが、ルビイはあえてその先に踏み込まざるを得なかった。
魔王の言う通りなのだ。
このままでは、せっかくの蘇生もむなしく、私はまた死ぬだろう…。
-力をやろうというのだよー
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-この場を切り抜けるために、私の力の一部を、なー
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