臓物少女

戸影絵麻

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#25 敵か味方か⑤

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 うはあっ!
 明は顔面蒼白になった。
 バレてる。
 このヤニ臭いおっさん、かなり鋭いと見た。
 若い頃はきっと相当やり手の刑事だったに違いない。
 しかし。
 明にとっての目下の懸案事項は、なんといっても膀胱を圧迫する尿の始末である。
「あのう・・・」
 口を挟みかけた時、
「いいんですか? そんなこと言って」
 紗英が首だけ後ろに向けて、じろっと老刑事を睨んだ。
「後で後悔しても知りませんよ」
「ぐははははは。威勢のいい嬢ちゃんだな。いいから正体を見せてみろ。悪いようにはしないから」
 椅子にふんぞり返る老刑事。
 サデイストのケでもあるのか、完全に紗英をいたぶって楽しんでいる。
「あのう!」
 我慢できずに明は立ちあがった。
 ん?
 初めてその存在に気づいたように、老刑事の眼が明に向けられた。
「さっきも言いましたけど、俺、ションベンちびりそうなんですが」
 ニョウ、モレ!
 割れ鐘のように脳裏で鳴り響くCMの声。
 NO LIMITどころのさわぎではない。
 人間の膀胱にはおのずと限界があるのだ。
「ちっ、使えねえ野郎だな」
 唾を吐かんばかりの勢いで老刑事が吐き捨てた。
「しょうがない。おい、笹原、このガキを便所まで連れてってやれ。ここで漏らされちゃあ、かなわんからな」
「私がですか? は、はあい」
 不服そうに頬を膨らませたグラマラスな女性刑事に付き添われ、明は事務所を後にした。
 やっと出せる。
 安堵の吐息をついたとたん、ガチでちょっぴりチビってしまった。
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