臓物少女

戸影絵麻

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#46 四天王 その一⑨

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「そんなこともあるかと思って、はい」
 笹原刑事が渡してきたのはガスマスクである。
「あたしはいいです。かえって邪魔になるから」
 紗英が被りを振って拒否したので、明が代わりに借りることにした。
「あなたも行くつもり?」
 やっと女刑事は明の存在に気づいたようだ。
 ゴーグルの中で大きな目をパチパチさせてそう訊いてきた。
「ええ、こう見えても一応、彼女を作った大神博士の息子ですから」
「ああ、そういえば、そうだったわね」
 笹原刑事はあっさりうなずいてガスマスクを渡してくれたが、紗英はなじるような眼で睨んでこう言った。
「邪魔しないでね。見たら殺すよ」
 相変わらずの嫌われぶりである。
 さすがの明もがっくり感を否めない。
 巷では、こういうのを、『心が折れる』と表現するのだろう。
 だが、明の場合、心は折れても男根は折れる気配がない。
 はだけた上着の前からのぞく紗英のレオタード姿に、勃起が収まらないのである。
「あらあら、こんな所まで来て、ケンカしないで。さ、行くよ。ついてきて」
 人垣をかきわけて笹原刑事が前に出る。
 続いて紗英が、少し離れて明がその後を追う。
 地下街への階段を下りる途中で、被害者を運ぶ救急隊員たちとすれ違った。
 担架に乗せられて搬送される者、肩を支えられてよろめきながら上がってくる者、皆苦しそうに顔を歪めている。
 ニュースで見た最後の場面が脳裏によみがえる。
 尻そのものの顏をした怪人が、口代わりの肛門から多量の糞便を撒き散らすあのシーンである。
 恐るべし、尻ノイド。
 明は戦慄におののいた。
 あのスカトロ大魔王みたいな強敵と、紗英はいったいどのようにして戦うつもりなのかー。
 一瞬、明の脳裏に、糞尿にまみれ、苦し気に喘ぐレオタード姿の美少女の姿が浮かび上がった。
 う。
 階段の途中で動けなくなる明。
 や、ヤバい。
 あまりといえばあまりに倒錯的なエロシーンに、危うく射精しそうになったからだった。
 
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