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#17 戦禍の影に蠢くもの①
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刑事は、轟警部といって、やはり編集長と顔見知りだった。
さすが元華族だけあり、この冴えない若者、あちこちに相当顔が効くらしい。
私たちが警部と向かい合っているのは、近くの派出所の中だった。
戸を開けっ放しにして、扇風機を回しているのに、中は地獄の釜が開いたように蒸し暑い。
「失礼ですが、被害者との接点は?」
トドロキ警部の質問に、清磨編集長がよどみなく説明する。
「陸銀中野学校分校ってのが、かつて厚木のほうにありましてね。戦時中、そこで一年ほど一緒でした」
「中野というと、やはり諜報を?」
「まあ、そんなようなものです」
「その蒲生氏が、なぜ今頃あなたに会いに?」
「これです」
やっと私の出番だ。
編集長に目顔で催促され、私はかばんから例の油紙の包みを取り出し、事務机の上に置いた。
「特攻隊の資料です。彼は僕がこれに興味を示すと考えたらしい」
「特攻隊ですか? しかし、失礼ながら、おたくの出している雑誌は、三文記事にもならない嘘八百を集めたカストリ雑誌では?」
「嘘八百はひどいな」
編集長がのけぞって笑った。
こうまで面と向かって言われると、いい気分はしないけど、当たっているだけに、私自身、反論もできなかった。
「でもまあ、中を見てください。蒲生氏はなかなか慧眼だったということがわかります。その中には、とんでもなくオカルトな資料が入っている」
オカルトなどという耳慣れない言葉を口にすると、編集長は悪魔のようににたりと口角を吊り上げた。
さすが元華族だけあり、この冴えない若者、あちこちに相当顔が効くらしい。
私たちが警部と向かい合っているのは、近くの派出所の中だった。
戸を開けっ放しにして、扇風機を回しているのに、中は地獄の釜が開いたように蒸し暑い。
「失礼ですが、被害者との接点は?」
トドロキ警部の質問に、清磨編集長がよどみなく説明する。
「陸銀中野学校分校ってのが、かつて厚木のほうにありましてね。戦時中、そこで一年ほど一緒でした」
「中野というと、やはり諜報を?」
「まあ、そんなようなものです」
「その蒲生氏が、なぜ今頃あなたに会いに?」
「これです」
やっと私の出番だ。
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