創世の先生~抗世の物語~

真白な雪

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三時限目 怒れる先生

人の歩む道

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(これじゃ駄目だ……これでも駄目だ……兵を削いでも将が残っては意味が無い。まずローレンスを撃退しなきゃ……あの一撃から身を守るにはどうすれば……駄目だ駄目だ……ローレンスを撃退してもいずれまたやってくる、ならば亡くした方が良いか? ……どうすれば……どうすれば……)


 俺はわかりやすく焦っていた。帝国が攻めてくるのは一週間後か、一ヶ月後か、一年後か全くの見当も付かない。いつ攻めてくるか解らない状況の中でも手を抜くことだけは出来なかった。しかし期限が見えなければ早急に出来るものを作るべきかどうかも変わってくる。魔道具を作るにしても時間が掛かるため期日が解らない以上無闇に時間の掛かる物は作れないが、時間を掛けずに出来るものなどたかが知れている。それに加えてこの町の人達は兵では無くあくまでも民なのである。戦闘を生業とするわけでも無い彼らを守りながらの戦闘となると少しばかり厳しいものがある。

 国攻めとは兵糧や軍備を削ぐだけでは無く時として民を屠ることで決着をつけることもある。故に攻め入られる国は民を守る為の策も講じなければならなくなり苦しい戦いを強いられることが多い。

 仮に帝国が二世代前の武装をしてこようとも現状のエンデルでは勝つことは出来ないだろう。そうなると魔法の使えない一部武力を持つ人たちによって掃討する必要がある。しかしそんな兵器は思いつかない。あったとしても工業大国ディマシオで作られる銃と呼ばれる重火器がそれにあたるだろうが、剣や槍のように思った場所を狙い撃つには並々ならぬ研鑽が必要であり、即席の兵隊では無理があるだろう。それに仮に作ったとしても魔法壁で威力を削がれた銃弾は帝国兵の纏う堅い鎧を貫くことはできないだろう。

 俺は悩み続けた。すると上からコツコツと靴が地面を叩く音が鳴り、物を退かせる音が止むとブリックスが地下室へと訪れた。


「やぁソテル、作業は順調かね?」

「ブリックスさん……駄目ですね、エンデルには戦闘経験のある人間が少ない。それに戦闘経験があったとしても道具を作るだけの時間が足りない」

「八方塞がり、かね?」

「いえ……絶対に何か思いついて見せます!」

「そうか、頑張ってくれ……エンデルの命運は君に掛かっていると言っても過言では無い。ところで、ステラが泣いていたようだが何か知っているかね?」


 後ろめたい気持ちもあり、ブリックスと目を合わせる事が出来ないままに事の顛末を伝えた。


「……なるほど、まぁ実際ステラの甘い事を言っていることに対しては君自身がなにか気分の良くない経験をしてきたことがあるのだろう? 深くは聞かんが一つだけ僕の言葉をきいてくれるかね?」

「……なんでしょう?」

「僕は孤児だった。小さな頃は馬鹿にされ、疎まれ、いじめられた。しかし僕は自分が痛みを知ってしまったからこそ、この痛みを誰にも知ってほしくなかった。だから僕は自分の力の限りを尽くし、学べることは全て学んで、助けられるものは手の届く範囲で救ってきたつもりだ。そして僕は町長になった。みんなに称えられた。小さな頃は蔑まれ、少年の頃は夢見人と後ろ指を指され、青年になってようやくみんなは僕を認めてくれた。どんな無理であろうと貫き続ければそれは一つの道になる。道が出来れば人はその道を歩む事が出来る。人というものは未知が怖い。だからこそ誰かが道を作ってやらなければならない。人は人を見て学ぶ。いつだったか、全ての人が善人の世界を見て見たいと僕は言ったね? 僕はその夢を実現するために僕自身が僕の理想とする善人で居たいんだ。その僕を追いかけてくれる人をつくるために一生懸命に頑張っているだけなんだ。実際、結果も付いてきている。町の者も争いを好まず人助けをすることに喜びを感じられる。そんな町をつくることが出来たんだ。だから娘の意見全てを否定しないであげてほしい。貫き通した壁の厚さの分だけ人を惹き付ける事が出来ると僕は思っている。ソテル君もどうか、気高く生きてほしい。汚れを知らぬ生き方でいてほしいとは言わない。ただ、気高く。どうか幸せな人間を増やしてあげてほしい。ただそれだけが僕の願いだ」


 穏やかな声色で話すブリックス、ちらりと覗いた顔は優しく微笑んでいた。およそ一年前まで赤の他人であった俺だ。そんな俺が自慢の娘を傷付けたにも関わらず笑っていられるのは彼の言葉が、信念が本気だったからだろう。そんな気高い意志に泥を吐き捨ててしまった自分のことが今では狂おしいほどに痛ましく卑しい様に感じる。


「……ごめんなさい」


 彼の言葉に自分の情けなさを浮き彫りにされ、恥ずかしいような悔しいような複雑な気持ちでいた。それと共にブリックスという男の生き様への憧れも生まれた。


「俺はここをしばらく出る訳にはいきません。でもここから出たとき必ずステラに謝りたいと思います。よかったら伝えておいてください。ごめんね、と」


 ブリックスは目を細めて柔らかな微笑みを浮かべると静かに首を縦に振った。
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