6 / 7
6. 代償のジレンマ
しおりを挟む
◆2611年
「俺の仕事を引き継ぐんだ」
「……どうして俺なんだ?」
「犯人を捕まえようと、何度も挑んだが俺には捕まえられなかった。局の規制を無視して何度も時空を超えたが無駄だった。もうこの体は限界に近い。俺はあんたに仕事を引き継いで、爆破テロの現実を受け入れ、残りの人生を過ごすつもりだ」
「諦めたのか?」
「……俺はな。あんたが通り魔の爆破テロを止めてくれ。500人の命を救うんだ」
仕事を引退するつもりで、真に仕事を引き継いだ。
シャワーを浴び、鏡を見る。
上半身には帝王切開と胸を切除した傷痕が残っている。
なんとなく通り魔事件の資料を見返す。
犯人の行動パターンや爆破テロまでの殺人事件。
毎日20時前には決まって、公園のベンチで小説を読んでいるという。
妙な胸騒ぎがした。
俺はすぐさま爆破テロが起きる前日に飛んだ。
◆爆破テロ前日
ひどい目眩がする。
やはり時空を超えすぎたようだ。
今までの時空移動の乱用の副作用が襲ってくる。
なんとか意識を正して、公園へと向かった。
腕時計の針は20時の少し手前を指していた。
資料通り、ベンチには小説を熱心に読む男が座っていた。
俺は拳銃を男に向けながら近付いた。
長髪で髭面、見慣れた老人が驚いた顔をして嬉しそうに話し掛けてきた。
「やっとここへ辿り着いたか、会いたかったよ」
「じいさん、あんたが通り魔の犯人か?」
「そうだ、俺こそが俺たちが追ってた男だ。俺のことだ、局のルールを無視して時空を飛び回っただろ?思考力、認知能力に支障をきたしているお前は、俺の存在なんてまるで覚えちゃいない」
爆破テロが起きた当日、居酒屋でじいさんと真と会話をして……
確かじいさんは19時に『そろそろ時間だ』と言って帰っていった。
爆破が起きたのは……20時。
居酒屋で何度も顔を合わせていたはずだが、どうやら俺の記憶力は度を超えた時空移動の影響でかなり衰えてしまっているようだった。
「乱用の副作用か……お前が、未来の俺なんだな。全く……気付くのが遅すぎた」
「そのおかげで32件の犯行を完遂できたんだ。残るは明日の爆破だ」
「なぜこんなこと……」
「俺たちは未来を救ったんだ。お前の時代で罪を犯していないように見える人間たちが、お前の知らない未来で罪を犯すとしたら?俺たちが殺した32人……彼らは全員犯罪者だ。俺たちが犯罪を防いだんだよ!……分かるだろ?」
「なんだと?だったら爆破テロはなんだ!」
「核物質を含む原油の流出で国民の7割が減るところだった!だから原因となる工場ごと吹っ飛ばしたんだ!ほら、この資料をよく見ろ!思い出せないか?2612年以降に水質汚染で8500万人の命が失われるはずだった。俺たちは500人の命と引き換えに、我が国の人口8500万人の命を救ったんだよ!」
老いた俺は、笑いながらも興奮気味にまくし立てるように話す。
俺を納得させるようにも見えるが、その話し方は達成感が満ち溢れているようにも感じ取れた。
確かに資料にある通り、通り魔が起こした事件の32人の被害者たちは2611年以降に死者が出る大規模な事故や事件を起こしていた。
例えば、ヒューマンエラーが原因とされる旅客機事故を起こしたパイロット。
その事故での死亡者の人数は、683名。
軍事兵器の1つとして人工地震をとある国に実験を行った研究者。
その地震被害での行方不明者含め死亡者の人数は、24万6000人。
AIテクノロジーを用いた特殊国防作戦と称して歴史的大戦争の引き金を引いた、次の選挙で当選するはずの大統領。
その戦争被害での飢餓・殺戮が原因であるとされる死亡者の人数は、5500万人。
「他に俺にどうしろと?!いいか、俺は後悔なんてしてないぞ。お前も必ず同じことをする。必ずリピートし続けるんだ。未来を知らない人間どもは、罪のない人が無差別に殺されたとメディアに踊らされ喚き散らした。でも実際はどうだ?起こるはずだった事故もなければ、戦争も起きていないのはどうしてだ?これが俺たちの功績なんだよ」
「違う……俺は……俺はお前にはならない」
「変えられない過去があるように、変えられない未来もある。俺がお前を作り、お前が俺を作った。俺たちは矛盾する存在だ。今俺を殺しても、お前がいずれ俺になるだけだ。それが真理だ」
「お前の……俺の、真理……」
「早く俺を殺しろみろ!それでようやく俺は解き放たれるんだ!……やっと、終えられる」
「……なに?」
「この世に降りかかる悲劇の背景には全て根拠がある。純真無垢な穢れのない人間などいない」
イカれているようにも見えるが、通り魔がこの32人を殺したことによって救われた命も大勢あるのは事実だ。
明日、こいつが爆破テロを起こさなければ資料通りこの国の人口の7割は減ってしまう。
それでも、違う方法で止める手立てはないのかと思考を張り巡らせる。
何が間違いで正しいのか……
今の俺に答えは出せずとも、32件の殺人は止めなけれはいけないという思いが揺らぐ事はなかった。
俺たちは、その為のタイムパトローラーだったはずだろう。
やはり今俺の目の前にいる男は葬らなければいけない存在だと脳に指令が下る。
通り魔が葬ってきた者たちの対処は、若きタイムパトローラーに託すことを改めて決意し、俺は今の俺が成すべきことに専念することにした。
考え、迷い、葛藤し、正しく対処してくれ。
『犯罪を未然に防ぐための犯罪』は俺たちタイムパトローラーのやり方ではない。
後は頼んだぞ、真。
「俺の仕事を引き継ぐんだ」
「……どうして俺なんだ?」
「犯人を捕まえようと、何度も挑んだが俺には捕まえられなかった。局の規制を無視して何度も時空を超えたが無駄だった。もうこの体は限界に近い。俺はあんたに仕事を引き継いで、爆破テロの現実を受け入れ、残りの人生を過ごすつもりだ」
「諦めたのか?」
「……俺はな。あんたが通り魔の爆破テロを止めてくれ。500人の命を救うんだ」
仕事を引退するつもりで、真に仕事を引き継いだ。
シャワーを浴び、鏡を見る。
上半身には帝王切開と胸を切除した傷痕が残っている。
なんとなく通り魔事件の資料を見返す。
犯人の行動パターンや爆破テロまでの殺人事件。
毎日20時前には決まって、公園のベンチで小説を読んでいるという。
妙な胸騒ぎがした。
俺はすぐさま爆破テロが起きる前日に飛んだ。
◆爆破テロ前日
ひどい目眩がする。
やはり時空を超えすぎたようだ。
今までの時空移動の乱用の副作用が襲ってくる。
なんとか意識を正して、公園へと向かった。
腕時計の針は20時の少し手前を指していた。
資料通り、ベンチには小説を熱心に読む男が座っていた。
俺は拳銃を男に向けながら近付いた。
長髪で髭面、見慣れた老人が驚いた顔をして嬉しそうに話し掛けてきた。
「やっとここへ辿り着いたか、会いたかったよ」
「じいさん、あんたが通り魔の犯人か?」
「そうだ、俺こそが俺たちが追ってた男だ。俺のことだ、局のルールを無視して時空を飛び回っただろ?思考力、認知能力に支障をきたしているお前は、俺の存在なんてまるで覚えちゃいない」
爆破テロが起きた当日、居酒屋でじいさんと真と会話をして……
確かじいさんは19時に『そろそろ時間だ』と言って帰っていった。
爆破が起きたのは……20時。
居酒屋で何度も顔を合わせていたはずだが、どうやら俺の記憶力は度を超えた時空移動の影響でかなり衰えてしまっているようだった。
「乱用の副作用か……お前が、未来の俺なんだな。全く……気付くのが遅すぎた」
「そのおかげで32件の犯行を完遂できたんだ。残るは明日の爆破だ」
「なぜこんなこと……」
「俺たちは未来を救ったんだ。お前の時代で罪を犯していないように見える人間たちが、お前の知らない未来で罪を犯すとしたら?俺たちが殺した32人……彼らは全員犯罪者だ。俺たちが犯罪を防いだんだよ!……分かるだろ?」
「なんだと?だったら爆破テロはなんだ!」
「核物質を含む原油の流出で国民の7割が減るところだった!だから原因となる工場ごと吹っ飛ばしたんだ!ほら、この資料をよく見ろ!思い出せないか?2612年以降に水質汚染で8500万人の命が失われるはずだった。俺たちは500人の命と引き換えに、我が国の人口8500万人の命を救ったんだよ!」
老いた俺は、笑いながらも興奮気味にまくし立てるように話す。
俺を納得させるようにも見えるが、その話し方は達成感が満ち溢れているようにも感じ取れた。
確かに資料にある通り、通り魔が起こした事件の32人の被害者たちは2611年以降に死者が出る大規模な事故や事件を起こしていた。
例えば、ヒューマンエラーが原因とされる旅客機事故を起こしたパイロット。
その事故での死亡者の人数は、683名。
軍事兵器の1つとして人工地震をとある国に実験を行った研究者。
その地震被害での行方不明者含め死亡者の人数は、24万6000人。
AIテクノロジーを用いた特殊国防作戦と称して歴史的大戦争の引き金を引いた、次の選挙で当選するはずの大統領。
その戦争被害での飢餓・殺戮が原因であるとされる死亡者の人数は、5500万人。
「他に俺にどうしろと?!いいか、俺は後悔なんてしてないぞ。お前も必ず同じことをする。必ずリピートし続けるんだ。未来を知らない人間どもは、罪のない人が無差別に殺されたとメディアに踊らされ喚き散らした。でも実際はどうだ?起こるはずだった事故もなければ、戦争も起きていないのはどうしてだ?これが俺たちの功績なんだよ」
「違う……俺は……俺はお前にはならない」
「変えられない過去があるように、変えられない未来もある。俺がお前を作り、お前が俺を作った。俺たちは矛盾する存在だ。今俺を殺しても、お前がいずれ俺になるだけだ。それが真理だ」
「お前の……俺の、真理……」
「早く俺を殺しろみろ!それでようやく俺は解き放たれるんだ!……やっと、終えられる」
「……なに?」
「この世に降りかかる悲劇の背景には全て根拠がある。純真無垢な穢れのない人間などいない」
イカれているようにも見えるが、通り魔がこの32人を殺したことによって救われた命も大勢あるのは事実だ。
明日、こいつが爆破テロを起こさなければ資料通りこの国の人口の7割は減ってしまう。
それでも、違う方法で止める手立てはないのかと思考を張り巡らせる。
何が間違いで正しいのか……
今の俺に答えは出せずとも、32件の殺人は止めなけれはいけないという思いが揺らぐ事はなかった。
俺たちは、その為のタイムパトローラーだったはずだろう。
やはり今俺の目の前にいる男は葬らなければいけない存在だと脳に指令が下る。
通り魔が葬ってきた者たちの対処は、若きタイムパトローラーに託すことを改めて決意し、俺は今の俺が成すべきことに専念することにした。
考え、迷い、葛藤し、正しく対処してくれ。
『犯罪を未然に防ぐための犯罪』は俺たちタイムパトローラーのやり方ではない。
後は頼んだぞ、真。
21
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした
セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。
牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。
裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる