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12. 交代の答え合わせ

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あー、ねっむ。
体いてぇ。
寝過ぎて全身バキバキって感じ。
意識がいまいちハッキリしない。
遠くで誰か話してんなぁ。
なんか聞いたことあるような。

「いいから会わせなさいよ!」

「お断りします、もうあなたには今後一切関与しないと申しております」

「どうして?!お金はどうするのよ?!」

「その魂胆が見えていた上で今まであなたを切っていなかったんですよ。周りがいくら止めてもです。もういいでしょう!」

「何よ?何が言いたいわけ?向こうの魂胆だってなにかあったはずよ!愛されてない事くらい馬鹿でも分かるわよ!」

「なにか、とは?」

「それは私には結局分からなかったけど。あなたなら知ってるんじゃないの?」

「私にも理解できません。あなたみたいな方とは身も心も住む世界が違う。とにかく、お引き取り下さい。そして今後一切お近付きにならないで下さい。……こちらの小切手に好きな金額をと言伝ことづてを預かっております。約束を破られた場合、法的措置を取らせて頂きますのでご容赦ください」

「…あんたいちいち腹立つわね。……わかったわよ、好きな金額でいいのね?」

「はい」

揉めてんなぁ。
うるさいなぁ。
面白そうな会話だけど、うるさいわ。
てか、どこよここ。

とりあえず座って周りを見渡してみたら、えらい豪華な広い部屋のベッドの上だった。
扉のノックが鳴って返事をしたら、勢いよく扉が開いて私を見るなり

「教授お呼びしてきます!」

と走り去っていった。
今の……東堂さんだよね?
何してんの?

"先生"と"教授"と呼ばれてる人がベッドわきに座った。
え、なんでしょう?
怖いんですけど。

「よく眠れたかい?今、どちらですか?」

「いや、私が聞きたいです。ここは、どちらですか?」

なんかヒソヒソ話してて、東堂さんは心配そうこっちを見てる。

「あの、ちょっと東堂さんとお話させてもらえませんか?」

「教授、やはりまだ早いのでは?」

おい、無視かい。

「いや……もう"彼"がもたない」

「あの、そこの東堂さんと」

東堂さんは神妙な面持ちでこちらを見たり、下を向いたり落ち着きがない。

「最初は混乱するかもしれませんが、今教授の方からご説明しますね」

東堂さんとは話させてもらえないのね。
わかりましたよ。
はい、なんでしょう。

「陽ちゃん、でいいかな?」

「え、あ、はい」

「では、初めまして、陽ちゃん。いつもは東堂くんがうちの病院へ通っていてね。まぁ私は治療と研究のどちらもしてるんだけども。一年ほど前かな、東堂くんが陽ちゃんの様子がおかしいと。真島さんだっけ?……あぁ、先生は一旦席、外してもらった方がいいかな」

「いや、でも今回の入院の主治医は私ですし一応聞いておかないと……」

「この件の主治医は今も昔も私だよ。まとまった事は後で資料を渡すから。今はちょっと外してあげてよ。デリケートな話もあるから」

「教授がそう仰るなら……では失礼します」

"先生"が出ていった。

「えっと、続きね。その真島さんと関係を持ってから様子がおかしいと相談にきたんだよ。仕事の時間になっても出てこなくて、寂しいって泣いてるってね」

これは話が長くなりそうだぞ…。
てか東堂さんは私のこと、陽ちゃんなんて呼ばないし、真島さんの事をこのじいちゃんに相談する意味も分かんないし。
まず私、仕事行ってましたけどね。
今は無職ですけども。

ていうか、寂しいとは言ったけど泣いてないし。

いちいち突っ込んでたらキリないな。

「それで、東堂くんは陽ちゃんの守護者みたいな感じと思ってもらえればいいかな」

思わず吹き出しそうになった。
守護者って。
支えようとしてくれてはいたんだろうけど、一応感謝もしてるけど、ちょっと暴走クラッシャー気味のとこあったよ?

「僕と東堂くんは治療を続けながら色々と報告し合って、時には作戦を立てて」

あの人作戦とか、そういうの好きだなぁ。
私とも似たようなことしてましたよ。

「あの、結構長くなります?それ」

「そうだね、理解してもらわないといけないからね。ごめんね」

「はぁ……」

「東堂くんと陽ちゃんはどんな関係だったかな?」

まさかあの人、このじいちゃんにオナニー見せ合いっこしてますとかまで言っちゃってる感じ?
勘弁してよ、もう。

「どういうって、まぁご飯食べたり、そういう関係です」

はしょりすぎか?

「陽ちゃんは、寂しいが怒りに変わるって言ったんだね?」

「え?あぁ、はい」

「東堂くんは眠る間も惜しんで、ずっと陽ちゃんを見守ってたんだ。でも彼も完璧じゃない。矛盾も出てくる」

んー、よく分かんないけど、そりゃ人間ですもんねぇ。
私も矛盾だらけですよ。

「陽ちゃんは今までと違って東堂くんとよく会話するようになっていったよね?東堂くんにも妻はいたけど、陽ちゃんの事も大好きだった。彼はね、私に『好きな人が寂しいのは辛い』と言って陽ちゃんを救おうと必死だった。あの買収は彼も慣れないことをしたね。結局陽ちゃんと真島さんの関係を切ってしまって救えなかった。彼はとても純粋で、そもそも表に立つタイプじゃないんだよね。東堂くんと陽ちゃんはお互いを支え合う良きパートナーだったんだよ。陽ちゃんの家に、真島さんの奥さんが来たね?どんな話をしたのかな?」

「まだ子供が小さいのに旦那が無職で困るとか、どうにかしてくれって言われたからとりあえず100万渡しました」

「お金を要求されたのかい?」

「いえ……直接的にはされてませんけど、旦那の不倫相手の家に乗り込んであのセリフはお金以外ないじゃないですか」

「うーん、そうか。ではその渡した100万はどこから持ってきたかな?」

「家の引き出しです」

「君の職業は?」

「今は……無職ですけど、真島さんと同じ会社で派遣社員をしてました」

「なぜ、そんな大金を銀行に入れてなかったのかな?」

「特に意味は無いというか、覚えてないですけど、あったものはあったんで」

「無職になってからどれくらい経つ?」

「えーっと……半年くらいですかね?」

「どうやって生活してるの?失業保険は?」

「え?あぁ…貰ってないですね……まぁ、なんとなくやってます」

「陽ちゃんの自宅はマンション?」

「いえ、一軒家です」

「すごいねぇ、一人暮らしだよね?」

「はい、そうです」

「借家か何かかな?派遣社員のお給与で大変じゃなかった?」

「持ち家です。特に大変だと感じたことはないですね」

「真島さんの奥さんは陽ちゃんのこと、なんて呼んでたかな?」

「……陽ちゃんって呼ばれて、バレてるんだなって」

教授が東堂さんに向かって目配せをした。

「さっきの会話、聞かれてましたか?」

「え?あのなんか揉めてたっぽいやつですか?」

「はい。あれは真島さんの奥様です」

あぁ、通りで聞いたことあるなと。
ていうかやっと東堂さんと話せたよ。

「彼女へは今後一切、陽ちゃんに関与させない。そう判断したのは東堂くんだよ。小切手も、ね?」

「はい、そう伺っております」

「勝手なことをして申し訳ないと、言っていたよ。東堂くんの妻と真島さんの奥さんの関係は分かるかい?」

「あぁ……なんか、デキてたんですよね?」

「陽ちゃんは女性とそういう関係になったことはあるかな?」

東堂さんいる前で話すのこれ。

「一人だけ、あります」

「真島さんとの関係後かな?前かな?」

「後……ですね」

「きっかけは?」

きっかけ?
えー、なんだっけ。
酔った勢い?
いや、違う。
なんだっけ。
なんでしたんだっけ?
あー、あれだ、また例の。

「寂しくて、怒ったからですね。真島さんとそういう風になって、多くは望んでないつもりでも思うようには満たされなくて。怒って、嫌がらせみたいな感じで関係を持ちました」

「何度かお金も援助してたよね?ホストクラブに使うお金だと知りながら、見て見ぬふりをして」

なんか、そんなこともあったなぁ。

「ホストに使うお金だと分かってたから援助してたんですよ」

「それは、どうして?」

「女がホストにハマったりしてるうちは、幸せな家庭ではないだろうなと思って」

「……うん、陽ちゃんは、そのお金は誰に渡してたのかな?」

「真島さんの奥さんです」

はぁ?何言ってんの?私。
東堂さんずっと眉間に皺を寄せてるし。
なんとか言ってよ。

「つまり、陽ちゃんは真島さんの奥さんと肉体関係があったんだね?」

吐き気がする。
想像しただけでも気持ち悪い。
まじで夢なら覚めろ。
洗脳されてんの?
怖いってもう……。
東堂さん、助けてよ。

「大丈夫かい?今更だけどね、私の名前、朝比奈っていうんだけど聞いたことないかな?」

あ、あるある。
東堂さんの車の中で電話が鳴って……、秘書の人が薬が切れる頃だからとかなんとか。

「ここ一年東堂くんはね、ずっとギリギリだったんだよ。自分の妻の相手が、真島さんの奥さんだと知った時本当に驚いてたよ。そこは陽ちゃんのエリアだから知らなくて当たり前なんだけどね」

ちょっと待って、本当にさっきからこのじいちゃん何言ってるの。

「あの、帰りたいんですけど」

「もう少しだけ、話そう」

帰してくれる訳ないよな。
天罰かなんかですか?
真島さんと寝たから?
不倫してるやつなんてそこら辺に山ほどいるじゃん。
なんなの、これ。

「陽ちゃんの、名前聞いてもいいかな?」





…………………え?





東堂とうどう 陽希はるきです」






…………………………は?






派遣社員の私がどうやってあの女に貢げてたんだっけ?
無職の私がどうやって生活してきたんだっけ?
なんであんな豪邸住めてるんだ?




『イクとき…名前呼んでくれませんか……はるきって。お願いします』



『ありがとっ、はるちゃん。じゃあね』






なに………………これ






「うん、そう。
君の名前は《トウドウ ハルキ》
オルタネイトデイズ株式会社の社長さんだよ。たった3年で上場企業にまで成長させて、しかも32歳の女社長ときた。ほらこれ、雑誌のインタビュー、いくつか受けてるの覚えてないかな?」

「…………お、ぼえて、ますけど、あの」

「うん、ゆっくりで大丈夫だからね」

「でも、買収なんて、してません」

「それは東堂くんがしたんだよ。敏腕社長の陽ちゃんなら、まずあの会社の買収はしないだろうね」

「じゃあ、その、そこの東堂さんは?」

「彼は君の秘書の、渡瀬くんだよ」

東堂さんが深くお辞儀をしてる。

「彼は陽ちゃんの右腕だよね?彼も陽ちゃんに凄く慕っていて、僕から見ても従順すぎるほどの秘書だと思うよ。渡瀬くんも全て知った上で、ずっと今まで陽ちゃんについてきたんだよ。病院への付き添いや説明もね」

「いや、でも、その、どう見ても東堂さんです」

「……そうか、陽ちゃんにはそう見えてたんだね。でもね、陽ちゃんがこの一年今まで見たり話したりしてた東堂くんは、いるけど、いないんだ」

「どういう、ことですか」

「もうね、だんだん思い出せてると思うんだけどね。
陽ちゃんは、解離性同一性障害という病気でね。主人格と呼ばれる、まぁ一番表に長く出ている人格だね。それが陽ちゃん。副人格と呼ばれる立場にいるのが東堂くん。今まではね、副人格である東堂くんが、まぁさっきも言ったけど守護者というかね、陽ちゃんを見守ったり、裏方の働きをしてたんだよ。病院へ来たり、表立ってないところで陽ちゃんを支える行動をしていたのは基本的に東堂くん。
主人格の陽ちゃんは表に出てバリバリ社長業をやったり、普段の生活なんかも基本的には陽ちゃんなんだよ。
それがね、陽ちゃんが、真島さんと関係を持つようになってから心がちょっと疲れちゃったのかな。主人格と副人格の時間がスイッチしたみたいに交代してしまったんだよ。
東堂くんである時間が長くなって、それと同時にだんだんと陽ちゃんが東堂くんを渡瀬くんの姿に見立てて、会話や会議をしたりね」

さっきから衝撃的なことを言われてるんだろうけど、自分でも引くくらい冷静だわ。
もちろん驚いてはいるし、ほんとにそんなことってあるんだって感じ。
ただ、頭痛がひどい。

「じゃあ、行動してたのはその、"東堂さん"であってもそれは私で、私は見えない"私"と話してたんですか?」

「まぁ、そうだね。周りから見たら、一人でお喋りしてるように見えるだろうね」

「派遣社員っていうのも、妄想ですか?」

「そうなるね」

「東堂さんの、奥さんは?」

「彼もね、完璧じゃないんだよ。東堂くんも出てくる時間が多くなったとはいえ眠ることもあるから、その間に起こった事は知らないこともあるし。知ってる場合もあるからね、一概にこうとは言えないんだけど。東堂くんは東堂くんで"妻"を存在させてたんだろうね。陽ちゃんとの復讐の話を聞いたけど、彼は陽ちゃんが寂しいと辛く感じてしまうから復讐の話を持ち出したし、陽ちゃんが望んでいない事をした時は彼なりに陽ちゃんが今以上に寂しくならないようにと思った行動なんだよ。
ただね、守護者の役割を果たしている東堂くんが、陽ちゃんが望まないことを勝手にするなんてこと今まで一度だってなかった。
このままでは主人格と副人格が入れ替わってしまう。
今まで上手くコントロール出来ていたことがだんだんと出来なくなっていてね、陽ちゃんが主人格として記憶を取り戻して起きないとね、このままじゃあ東堂くんが消えてしまうんだよ。
難しい選択なんだけどね、このまま東堂くんを眠らせて主人格の陽ちゃん一人に統合するか、ちゃんと休ませてあげて今まで通り副人格として東堂くんと共生していくか。
陽ちゃんに決めてもらわないといけない」

「そんなこと急に言われたって。私は、これから東堂さんは見えなくなるんですか?私の寂しいが怒ったせいですか?」

「個人的な見解だけどね。統合するにしても、共生するにしても、見えなくなるんじゃないかな」

そっか。
東堂さんって私だったのか。
じゃあ、見せ合いっこはただ一人でやってただけか。
普通のオナニーじゃん。
なんだそれ。
真島さんへの寂しいの腹いせに大嫌いなあの女を抱いて、金までやって。
まぁあの女がホストに狂って、真島さんへの執着心とかなくなるんだったら夫婦円満には遠いしな。
それで良かったんだな、私は。

まだ頭ついていけてないこと多いし、一旦帰らせてはもらえないでしょうか?
確認したいこともあるし。

「あの、それでいつ帰れます?」

「うーん、自殺願望とかはないよね?」

「ないですね」

「暴れてもいないし、明日には退院許可出そうか」

「……お願いします」
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