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抗えない誘惑 *

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ホテルまでの順路は覚えていない。
情けなく彼女の肩を借り、気が付いた時にはベッドの上に横たわっていた。

ぼやっとした視界から、そこだけハッキリと映る彼女の横顔。

「キレイな顔してんなぁ…」

彼女が嬉しそうに微笑んだ。
あれ、今の声に出てたのかな。
そんな事を考えていると、だんだんと彼女の顔が近づいてきた。
…と思った矢先、口で口を塞がれた。
これはキス、ではない、と思う。

「っ…ん………ごくっ」 

「ほら、水飲まないと酔い冷めないよ」

彼女の手元にはペットボトルの水があった。
どうやら口移しで水を飲まされたようだ。
なにをしてくれたんだ。
彼女も酔ってるのか?
彼女の頬に手をやると、火照っていた。

「酔ってるのは…そっちもじゃん」

「っ…ん………んんっ……」

彼女のペットボトルを奪い取り、自分の口に水を含ませ、彼女に流し込む。

「…ねぇ、しよっか?」

彼女が私の耳元で呟いた。

狙った獲物を確実にオトせるような眼差し。
私を見つめている彼女の瞳に、思わず吸い込まれそうな感覚になった。
彼女が何を考えているのか、それとも何も考えていないのかそれは分からない。
けれど、これだけは言える。
私が彼女に触れるたびに、彼女に惹かれ、私の中の彼女がまた一回り大きくなる。
この一晩を過ぎると、私にまとまりつく彼女の影にまた苦しむ時間が増えるだろう。

ーー上等だ。
今だけでも私のものでいて。

「ねぇ、こっち向いて」

「……なに?」

「私の目に誰が映ってる?」

「え?」

こんな抽象的な会話、彼女に伝わるはずがない。
すぐに諦め、唇を重ねた。

「んんっ、ねぇ…もっと」

「ほんと綺麗な体してんね」

「ここ触って」

彼女は私の手を取り、自らの秘部に持っていった。
私は彼女の乳首を舌で弄びながら彼女の弱いところをピンポイントで責めていく。

「はぁっ、あ、あぁん。そこだめっ。あっあっ。気持ちいい、あぁ!」

秘部から溢れ出す卑猥な音と共鳴するかのように、彼女の喘ぎ声もどんどん大きくなっていく。
久しぶりに伝わってくる彼女の素肌の温もりや声に泣きそうになった。

狂いそうな気持ちを必死で堪える。
めちゃくちゃにしたい。
私だけを見てよ。

「そこ…はぁ、気持ちいい。もうっ、そこだめ。あぁん、あっ、あぁ、んっ!そこイッちゃいそう」

彼女の声を、頭の中で何度も反芻はんすうする。
恍惚こうこつの表情を浮かべる彼女の顔は、世界一美しい。
彼女の弱いところ、好きなところ。
こんなにも分かっているのに。
どうして心じゃ分かり合えないのだろう。
何を考えても気が狂いそうになる私に残った感情は、結局、彼女への強い愛おしさだった。

「イキたい?イっていいよ」

私は彼女の耳を甘噛みしながら、囁いた。

「あっ!だめだめだめっ!あぁあ、イっちゃう!あぁ…っ!イく……っ」

ガクガクと下半身を震わせながら、彼女は深く果てた。
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