メイド ナーシャの日常

うぃん

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第二章 濡羽色の魔術師

魔女の過去(2')

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「あぁ、もう、出来の悪い妹ができた気分よ……」

 私はインダルフと、久しぶりに外で一緒の昼食をとってる。

 あのナージャを引き取るって話になってから、忙しくてしばらくゆっくりする間もなかったもんね。

 孤児院から彼女引き取るときに、新しい生活はどうなるの? とか、保護監督者となる方の経歴は? とかいろいろ聞かれて、挙句に手続きのおばさんに、あなたのような若い方で大丈夫かしら? って言われるし。

 大丈夫な訳ないじゃない! 目の前のこの男が無責任なこと言わなきゃ、引き取ってないわよ。



「彼女はどう、騎士団の養成所ではうまくやっているかい」

 インダルフはナージャの騎士の訓練生としての様子を聞いてきた。

 私にも、いつもそのくらい気をかけろっていうのよ。

「ああうまくやっているわ、同クラスでは間違いなく最強。その剣の速度だけなら十分訓練生は卒業レベルよ」

 私の言葉を聞いて、なんだかインダルフは嬉しそう。

 なんだかもやもやするわ。

「そうだと思った。彼女ハイエルフの血をひいているから、肉体強化の魔術なんて、息をするくらいの無意識で使えるんだろうね」

「え? 彼女はハイエルフとのハーフなの? 私その話初めて聞いたんだけど」

「気づかなかったの? 最初見た時からマナが淀みなく身体をめぐっていて、綺麗だなって思ってたんだ」

 ええっと……、天才の言っていることは、話がよく分からないぞ。

 よく考えるのよミーナ。インダルフの言葉を解釈すると……、

 (初めてナージャを見た時、僕はその身体に淀みなく美しく流れているマナを感じて、ただの人族ではないと見抜いたんだ。このようなマナの流れを持っている種族はエルフが近い。でも彼女はそれだけじゃなく、息をするような自然体で肉体強化の魔術までかけることができていた。そんな高い能力が遺伝的にそなわっているということは、その上位種のハイエルフの血が流れているに違いないよ) 

 と言っているのね。

 さすが私、理解できた。伊達に天才君と付き合いが長いわけじゃない。

「ちょっと待ってよ、ハイエルフなんてすごく面倒な種族の子供を、私は引きとっちゃったってこと!」

 ハイエルフは超閉鎖的な種族で、その子供を他の種族が育てようなんて、厄介ごとが舞い込むイメージしかないよ。

「それは大丈夫だよ、だから孤児院にいたんだろうし」

 駄目だ、またこいつ言葉が足らない……。

 (ハイエルフと黒髪の人族が何らかの理由で子供を残したんだけど、ハイエルフは排他的な種族。きっと問題が起こって子供を捨ざるを得ない状況が起こったに違いない。そして孤児院に預けるしかなくなったんだけど、ナージャは見た目は黒髪の人族にしか見えないから、エルフの里ではなくこの国の孤児院に預けて、人として幸せな将来を願っていたと考えられるんだ。またハイエルフはマナを有効に使える種族だから、せめてマナの潤沢なこの国の孤児院に預けて、その血の流れるこの子の人生に少しでもプラスになればと考えた上での、苦渋の決断だったんだろうね)

 ここまで考えられる人物が、ナージャの身元を完全に隠して孤児院に預けたのだから、そんな面倒は起こらないと言っているのね。

 はぁ、そろそろ考えるのに疲れてきたわ……。

「まあいいわ。彼女は騎士として立派に育てるわよ」

「それがいいね。騎士を目指すならば幼くても国の手厚い保護が受けられるだろうし」

 そこまで考えて私に預けるって話を、あの場のあの一瞬で考えついたのね。

 でも本当はインダルフのもつ高い魔術のセンスが、ハイエルフの血に惹かれたってことなんでしょ。

 結局、あなたの弟子みたいになっているよね。

 ナージャは、あなたの研究塔に入り浸っているけど、周りも君が何も言わないから、黙認状態だし。


 なんだか気持ちの一部を奪われたみたいで、彼女に少し嫉妬しているのは気づいているのよ。

 そんなこと考えても仕方がないのにね……。

 私とインダルフ結ばれることはない。

 幼馴染ってことで仲良くはしているけど、まあここまで。
 
 魔術師は魔術師と、騎士は騎士とっていうがこの世界のならわし。

 私の両親もそうだし、もちろんあなたの両親も。なんとなく理解できるわ。

 ましてインダルフはこの魔道王国ノルマンの筆頭魔術師。その魔術師としての血を薄める結婚なんて、国家を挙げて反対される……。

 ハイエルフの血を引く彼女とならば、周りも認めるのかしら?


 
「どうしたの? ミーナ」

「ううん、なんでもないよ」

 今このとき優しい目で私を見てくれるだけで、十分。

 いや、逆に残酷なのかしらね……。
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