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第25話「怪し火」⑤

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 駆け寄って来た女の子ですが、絹で出来てるであろう高価そうなドレスを身に纏っていることから、高貴な出であるようです。

「おじさん騎士でしょ!何処の騎士なの?」

 笑顔ではしゃいでいる感じのその子に、ご主人様は早速質問攻めされています。

「まぁ騎士と言えば騎士だが、正確には修道騎士。テンプル騎士団の者だ」

 ややその子の熱気に押され気味のご主人様。

「へー、じゃあ強いんだ。ならあたしと剣で勝負しましょ!」

「無益な勝負はしないが、剣の稽古位なら付けてやっても良いぞ」

「やった」

 満面の笑みを浮かべ、飛び上がって喜ぶ女の子。一方私はそれを聞きギョッとしました。こんな小さな女の子……と言っても私と年はそんなには違わないのかもしれませんが、ともかくそんな子に剣を握らせ、あまつさえ稽古などとは……

「いけませんよご主人様、怪我でもさせたらどうするんですか」

「まぁそう言うな。少しだけだ」

「全く……」

 一体ご主人様はどう言ったおつもりなのでしょうか。私の心配もよそに、当の本人はノリノリです。

「さて、どごで稽古をする?」

「えっとね地下に広い倉庫があるわよ。でも行く時は……」

「他の人にバレないようにそっと、だろ?」

 これまた嬉しそうに大きく頷く女の子。

「準備してくるから先行ってて!逃げたら許さないんだから!」

「はいはい、逃げやしないさ。逃げた事もないしな」

 そんな事があり人目を忍んで地下倉庫にきましたが、広々としており、なるほど稽古場にはうってつけです。待つ事数分、先程の女の子が来ましたが、ピッタリなサイズのアクトンとズボンに手には木剣と、どうやら単なるお遊びでは無く、かなり真剣だと言うのがその格好からも見て取れます。

「これは驚いたな」

 ご主人様の言葉に少しムッとする女の子。

「女で子供が剣なんかに興味があるから?」

「いや、その年でかなり剣に練達してそうな所がだな」

 それを聞き、嬉しそうにする女の子。

「本気よ!手抜いたら許さないんだから」

 地下室の真ん中に二人が立ちます。木剣を両手で握りしめ、上段に構えるは女の子。木剣を片手で持ち、中段で構えるはご主人様。女の子の顔にはお遊びな雰囲気などは一切無く、ただ真剣な眼差しだけが向けられていました。
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