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第43話「キマイラ」④

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 聖地エルサレムの本部を出ておよそ2週間、ようやくバグラス城に到着しました。門番の従士に用件を伝え、中へと入る私達。小さくても城は城、それもテンプル騎士団が所有する城、頑丈な石造りのその建物からは力強さと威厳が感じられます。

 テンプル騎士団らしく、飾り付けの少ない簡素な応接間に案内された私達。室内は昼間だと言うのに薄暗いのは、防御力を優先するため明かり取りの窓がかなり少ないのが原因だと思われます。

 待つ事数分、ここの城主ジェラルド様が現れました。20人の修道騎士に10人の従士、その他大勢の兵士を抱えるこの城のトップと言うべきお方ですが、その顔には明らかに疲れが浮かんでいました。

「本部から遥々とよく来てくれたレード殿。お疲れであろう、まずはこれを飲んでくれ」

 そう言って差し出された、金属のコップに入った水を受け取るご主人様。

「これはありがたい。ところでエデッサや周辺の状況はどうですか。相当お疲れのようにみえますが」

「最悪だ。エデッサ伯のジョスラン様は奪還を諦めていないようだが、ザンギーが不慮の事故にでもあって突然死しない限り成功しないだろう。アンティオキア公国が宗主権を主張するビザンツ帝国と不本意ながら同盟を結び、連合軍でザンギーに立ち向かっても負けるくらいなのだからな」

「ビザンツ帝国か……所詮奴らは口先と陰謀だけの軟弱者、率いる軍も貧弱で頼りにはなりません」

「ビザンツ帝国にお詳しいようだが、過去に何かおありか」

「いえ……」

 急に口が悪くなるご主人様を、不思議そうに見るジェラルド様。とは言え、十字軍国家に住むフランク人と、ビザンツ帝国のギリシャ人の仲が悪いのは、半ば周知の事実ではありますが。

「とにかくエデッサが陥落、ビザンツ帝国も頼りにならない、となると我々テンプル騎士団の出番と言う訳だが、ここバグラス城は小規模な城で詰めてる騎士も少ない。こんな時にエデッサからの難民を襲う怪物が現れ、しかも最近は活動範囲も広がり、この城の修道騎士までが重傷を負わされる有様だ。今我々は国境の警備で手一杯、怪物退治の達人であるそなたの手でこの怪物を仕留めてくれ」

「もちろん怪物退治に全力を尽くしますが、まずは怪物の特徴を教えて頂きたい」

「それは実際に怪物を見た者に聞くのが早いだろう。怪物に襲われた先の修道騎士が城内で療養中だ。付いてきたまえ」

 果てして怪物の正体はなんなのでしょうか。既に修道騎士に重傷を負わせているような怪物を相手にして、私達だけで倒せるのでしょうか。ここにきて不安は増すばかりです。
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