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第50話「キマイラ」⑪

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 キマイラを相手に苦戦するご主人様とシャルロット様。シャルロット様はいい考えがあると言いますが……

「キマイラと言ったらベレロポンよ。それしかないわ」

「そう簡単に言うが、俺たちの馬には翼が無い。どうやってあの火を避けて近づくんだ」

「ペガサスなんて必要無いわ。私がいるんだから!」

「しかし……」

「グオオオオ!」

 キマイラの咆哮が辺りに響き渡ります。もう考えている暇は無いようです。

「いいから行くわよ!私を信じて!」

「……分かった!俺の背中は焼くなよ!」

 そう言って先程落としていた槍を拾い、キマイラに向かって駆け出すご主人様。しかし盾を失っている今、火の息を避ける術がありません。

「グルルル……」

 案の定、唸り声を上げるキマイラの口から炎が漏れ出てます。火の息を吐く前段階です。そう思っていた矢先、ご主人様目掛けて溢れんばかりの炎が吐き出されました!

「ふぅ……これを出すのは久しぶりね」

 その様子を見て、シャルロット様は目をつむり、スゥーッと息を吸い込みました。と思うとカッと目を見開き、威厳に満ちた叫びとも取れる声を上げたのです。

「"第1の御使がラッパを吹き鳴らす!血のまじった雹と火よあらわれて、地に降り注げ!"」

 その言葉に反応し、シャルロット様の突き出した左手から、これまた凄まじい勢いで火が吹き出しました!その勢いは、キマイラの火の息に勝るとも劣りません。ご主人様の目の前で2つの火がぶつかり合い、相殺し合います。

「なんて火力だ。あいつは怒らせないようにした方が良さそうだ……」

「ご主人様急いで!」

「分かってるよ」

 ぶつかり合う火と火の脇をすり抜け、キマイラに駆け寄るご主人様。熱気でサーコートは黒く焦げ、チェインメイルからは湯気が立っています。

「うぉおおお!」

 そしてキマイラ目掛けて、槍を突き出し突進、見事口から喉奥に槍の穂先を突き立てる事に成功しました!

「グオッ!グオオオオオッ!」

 激痛に苦しみの声を上げるキマイラ。槍を噛み折りますが、穂先は未だ刺さったままです。首を振り、なんとか穂先を抜こうとしますが、ご主人様が目一杯の力で突き刺した槍、そう簡単には抜けません。

「グオオオオ!」

 そして思わず耳を塞ぎたくなる、これまでに無い咆哮が辺り一面に響き渡ります。まるで空気までが振動するかのような大きさです。

「完全に怒らせちまったかな。まっ、そりゃそうか」

 剣を抜き、キマイラに相対するご主人様。しかし、キマイラの怒りの矛先は別の所に向かったのでした。

「……!シャルロット逃げろ!」

 キマイラが駆け出したと思った次の瞬間、飛び上がり、その太い前足がシャルロット様の頭目掛けて振り上げられました。
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