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第63話「グーラー」⑫

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 美女に化けたグーラーによって深手を負ってしまったご主人様。ご主人様ほどの実力なら、本来グールやグーラーの一匹や二匹、訳ないのですが。

「グヒヒ心臓は貫いた、後は死ぬだけだ。あぁ引き締まってなんて美味しそうなんだ。これだから騎士を食うのはやめられない」

「そうか……」

 舐め回すように見ていたグーラーですが、途端にご主人様の顔から苦悶の表情が消え、スクッと立ち上がったのです。

「グヒ?」

「話はそれだけか?生憎だったな。そもそも心臓が無ければ、刺されてもどうって事は無いって事だ」

「んな……さては呪いの……!」

 突然の事で、あたふたし始めるグーラー。先ほどの舌舐めずりをする余裕はもう無くなったようです。

「ぐうぅ!うっぐうぅ!やはり今回もベッドで喉を切っておけば!ぐぬぅぅう!だがっ、だがな!傷を負い出血したお前に、騎士や巡礼者を食い力を蓄えた私が倒せるかな!?丁度良い!今回は生きながら食うとしよう!」

 目を光らせ、牙をむき出しにし、飢えた野獣そのままの程で飛び掛かってくるグーラー。それをなんとか避けつつ、剣を抜くご主人様。

「確かにこのハンデはきつい……だが、その心配もなさそうだ」

「食ってやるぅ!」

 その時、ポッも目の前が明るくなったような気がしましたが、次の瞬間には……

「"第2の御使がラッパを吹きならす!火の燃え盛る大きな山が投げ込まれ、海よ血となれ!"」

 突然空から降ってきた巨大な、本当に巨大な燃え盛る岩と言うか、もはや燃え盛る隕石と言えるものが落ちてきて、グーラーはもちろん周囲の木々も薙ぎ倒しそのまま大爆発を起こしたのです。

「グギヒャアア!」

「やり過ぎだシャルロットぉぉぉあ!」

 隕石に押し潰され跡形も無く消し飛んだグーラー。そして爆発の余波で吹き飛ばされるご主人様。その距離数メートルはありましょうか、そのまま倒れ込んだご主人様は、短剣で刺された時よりもよっぽどダメージを負ったように見えます。

「大丈夫ですかご主人様!」

「ゴホッゴホッ!なんとかな……」

「あ~ら、私を置いて鼻の下伸ばして女と逢引、その挙句食べられそうになっていたレードさんじゃない。一体どうしたのかしら?」

「シャルロット……これもさ、作戦の内でな」

「何が作戦よ!私最初から全部見てたんだからね!あの女と抱き合ってた所も全部!」

「グーラーと抱き合って喜ぶ奴がいるわけないだろ、美しくも可愛いシャルロットとならともかく」

 それを聞き、顔を真っ赤にするシャルロット様。と思いきや、全身から火が……火がー!

「この馬鹿ーー!!」

 こうして一瞬でも美女に気を許したご主人様は、地獄の業火で焼かれると言う責め苦を味わうことで、その報いを受けたのでした。
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