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報告書1「東京駅ダンジョン、初任務での先輩社員からの圧力について」
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この日をどれだけ待ち望んだ事だろうか。初任務、つまりはリソーサーをこの手で直接排除できる日。軍事資源回収企業最大手のBH社に入社して対リソーサー最前線基地とも言える、この本社にヒシカリと2人で配属されたは良いが、それからやった事といえば内勤に社内研修と言う名の雑用と訓練、そして上司からのいびりに耐えることだけだ。しかしこれでようやく俺もあのリソーサー共に復讐をする事ができるんだ。俺はこの日のために、辛い辛い日々を耐え忍んできたんだ。少し身体が震えているのが自分でも感じられる。これがいわゆる武者震いか。
「お~い新入りー、なんだこの社用トランスポーターの使用願い出は」
「あっ、はい、すいません。何か間違ってましたか?」
社内でのブリーフィングの後、装備保管庫で機動鎧甲を装着していると、早速班長から嫌みったらしい声が飛んできた。
「何かじゃねぇよ。なんで中型機の"セキブネ"じゃなくて小型機の"コハヤ"の使用を申請したんだよ。これじゃ狭くてしょうがねぇだろ」
手に持った携帯端末をポンポンと叩きつつ、嫌味たらしく言う班長。今回はどうやら俺が決裁に回した書類データがお気に召さなかったようだ。
「あっ、えっ、でも6人ですので小型機で丁度なんじゃ……」
「だからピッタシ丁度じゃ窮屈でしょうがねぇだろ。搭乗人数より大きめは常識だろうが全く」
「そうですか……すみません」
「いいからお前、今から装備課に言って中型機に変えてもらって来い」
「えっ、あっ、今からですか?もう決裁も終わってるし今からはちょっと厳しいんじゃ……」
「やりもせずに無理とか言うな!いいから行ってこい!」
「あっ、はい!」
慌てて機動鎧甲を脱ぎ捨て、内線電話まで走る。背後から「全く……」と呆れ声が聞こえる。何が搭乗人数より大きめは常識だ。そんなの初めて聞いたぞ。装備課に掛け、担当者にトランスポーターの機種変更をお願いするが、断られた。当然だ、出発1時間前に変更なんてできるわけが無い。
「すみません……断られました」
ビクビクしながら伝える。するといかにもな感じで大げさにため息をつく班長。
「ったく、しょうがねぇな。いくら養成学校や訓練での成績が良くっても、実戦じゃ使い物にならないグズはごまんといるからな。少しはヒシカリを見習ったらどうだ、えぇ?」
「あっ、はい……次から気をつけます」
もう一度機動鎧甲を装着し直す。心が沈んでいるせいか、さっきよりも随分と重く感じる。毎日こんなんばっかりだ。どうも同期のヒシカリに比べて要領の良くない俺は上司の班長に目をつけられてしまい、毎日ドヤされてばかり、全く嫌になってしまう。こんな気持ちでリソーサーと戦わなくてはならないのか。
「トランスポーターは少し大きめを申請するのも知らなかったのか?サドシマ」
「あぁ……うん……」
「俺が前申請する時は班長が教えてくれたぞ。まぁ元気出せよ」
そんな俺とは正反対に、要領がいいヒシカリは今やすっかり班長のお気に入り。だからかそんなヒシカリの励ましも、どこか寂しく耳を通り過ぎていく。
準備も終わり、ヘリポートへと出てトランスポーターへと乗り込む俺たち4課2班。班長はああ言っていたが、小型機のコハヤでも窮屈には感じられない。当然だ。元々コハヤは完全武装のスペキュレイターでも6人までは搭乗できる性能なんだから。突風を巻き上げて離陸するコハヤの中で、俺の中のやるせなさだけが大きくなっていった。
眼下に広がる高層ビル群には、活気に溢れた人々が見えたが、それも徐々になくなり、次第に廃墟が目立つ寂しい場所になってきた。そして見えて来た、高くそびえ立つ壁。東京駅を取り囲むようにそびえ立つこの壁は、市街地と隔離地域、日常と戦場の境界線だ。入り口の隔壁を自衛軍の戦闘車輌に重武装した兵士が警備している物々しさからも、それは容易に汲み取れる。
「隔壁が見えてきたって事はいよいよだな」
外を見ながらまだ午前中なのに黄昏ていると、隣に座っていたヒシカリが話し掛けてきた。
「隔離地域か……俺はド田舎の出身で、ダンジョン化するよう大きな駅は近くに無かったからな、見るのは初めてだよ」
「昔は大きな駅の周辺はまさに都市の中心地だったんだがな。今じゃエキチカとは専ら低所得者層地区を指す言葉になっちまった。そんで駅ダンジョンから湧いてくるリソーサーが壁を越えた時に、真っ先に犠牲になるのも、このエキチカの住人ってわけだ」
「やはりリソーサーは一体残らず排除しないといけないな」
「そうだな……俺たち2人でやり遂げようぜ」
そうだ、俺をやらなきゃならない。大変な事は分かっているが、ヒシカリとならきっとやれる。そう思うと、自然に身体に力が入る。
壁を越えてから間も無くして、トランスポーターは急に降り出してきた大粒の雨の中、無事東京駅ダンジョン八重洲口側ポートに着陸した。かつてはバスターミナルがあったここも、今では各種トランスポーターの発着場へと様変わりしているが、俺たちが降りると同時に乗ってきたトランスポーターはさっさと飛び立って行ってしまった。もう後には戻れないという訳か。まあいい、今回の任務は東京駅ダンジョンの威力偵察及び資源回収、要はリソーサーを遭遇次第倒して戦利品を稼ぐだ、なんとかなるだろう。
「ちっ、雨か。雨男のサドシマがいるといつもこうだ」
「え、あ、はい、すみません……」
言い掛かりにも程があるだろ。
「いいか、新入り共!初めに言っておくが、お前らはアタッカーなんだからな。後方の奴らに少しでも攻撃がいったら、お前らの成果査定は0だ!特にサドシマ!足引っ張りやがったら承知しねえぞ」
「あっ、はい、気をつけます」
班長の指示に返事をしたはいいが、俺にやれるだろうか。いいや、やれるかじゃなくてやるんだ。この日のために俺は生きてきたんだからな。自然と刀を握る手にも力が入っていく。
「お~い新入りー、なんだこの社用トランスポーターの使用願い出は」
「あっ、はい、すいません。何か間違ってましたか?」
社内でのブリーフィングの後、装備保管庫で機動鎧甲を装着していると、早速班長から嫌みったらしい声が飛んできた。
「何かじゃねぇよ。なんで中型機の"セキブネ"じゃなくて小型機の"コハヤ"の使用を申請したんだよ。これじゃ狭くてしょうがねぇだろ」
手に持った携帯端末をポンポンと叩きつつ、嫌味たらしく言う班長。今回はどうやら俺が決裁に回した書類データがお気に召さなかったようだ。
「あっ、えっ、でも6人ですので小型機で丁度なんじゃ……」
「だからピッタシ丁度じゃ窮屈でしょうがねぇだろ。搭乗人数より大きめは常識だろうが全く」
「そうですか……すみません」
「いいからお前、今から装備課に言って中型機に変えてもらって来い」
「えっ、あっ、今からですか?もう決裁も終わってるし今からはちょっと厳しいんじゃ……」
「やりもせずに無理とか言うな!いいから行ってこい!」
「あっ、はい!」
慌てて機動鎧甲を脱ぎ捨て、内線電話まで走る。背後から「全く……」と呆れ声が聞こえる。何が搭乗人数より大きめは常識だ。そんなの初めて聞いたぞ。装備課に掛け、担当者にトランスポーターの機種変更をお願いするが、断られた。当然だ、出発1時間前に変更なんてできるわけが無い。
「すみません……断られました」
ビクビクしながら伝える。するといかにもな感じで大げさにため息をつく班長。
「ったく、しょうがねぇな。いくら養成学校や訓練での成績が良くっても、実戦じゃ使い物にならないグズはごまんといるからな。少しはヒシカリを見習ったらどうだ、えぇ?」
「あっ、はい……次から気をつけます」
もう一度機動鎧甲を装着し直す。心が沈んでいるせいか、さっきよりも随分と重く感じる。毎日こんなんばっかりだ。どうも同期のヒシカリに比べて要領の良くない俺は上司の班長に目をつけられてしまい、毎日ドヤされてばかり、全く嫌になってしまう。こんな気持ちでリソーサーと戦わなくてはならないのか。
「トランスポーターは少し大きめを申請するのも知らなかったのか?サドシマ」
「あぁ……うん……」
「俺が前申請する時は班長が教えてくれたぞ。まぁ元気出せよ」
そんな俺とは正反対に、要領がいいヒシカリは今やすっかり班長のお気に入り。だからかそんなヒシカリの励ましも、どこか寂しく耳を通り過ぎていく。
準備も終わり、ヘリポートへと出てトランスポーターへと乗り込む俺たち4課2班。班長はああ言っていたが、小型機のコハヤでも窮屈には感じられない。当然だ。元々コハヤは完全武装のスペキュレイターでも6人までは搭乗できる性能なんだから。突風を巻き上げて離陸するコハヤの中で、俺の中のやるせなさだけが大きくなっていった。
眼下に広がる高層ビル群には、活気に溢れた人々が見えたが、それも徐々になくなり、次第に廃墟が目立つ寂しい場所になってきた。そして見えて来た、高くそびえ立つ壁。東京駅を取り囲むようにそびえ立つこの壁は、市街地と隔離地域、日常と戦場の境界線だ。入り口の隔壁を自衛軍の戦闘車輌に重武装した兵士が警備している物々しさからも、それは容易に汲み取れる。
「隔壁が見えてきたって事はいよいよだな」
外を見ながらまだ午前中なのに黄昏ていると、隣に座っていたヒシカリが話し掛けてきた。
「隔離地域か……俺はド田舎の出身で、ダンジョン化するよう大きな駅は近くに無かったからな、見るのは初めてだよ」
「昔は大きな駅の周辺はまさに都市の中心地だったんだがな。今じゃエキチカとは専ら低所得者層地区を指す言葉になっちまった。そんで駅ダンジョンから湧いてくるリソーサーが壁を越えた時に、真っ先に犠牲になるのも、このエキチカの住人ってわけだ」
「やはりリソーサーは一体残らず排除しないといけないな」
「そうだな……俺たち2人でやり遂げようぜ」
そうだ、俺をやらなきゃならない。大変な事は分かっているが、ヒシカリとならきっとやれる。そう思うと、自然に身体に力が入る。
壁を越えてから間も無くして、トランスポーターは急に降り出してきた大粒の雨の中、無事東京駅ダンジョン八重洲口側ポートに着陸した。かつてはバスターミナルがあったここも、今では各種トランスポーターの発着場へと様変わりしているが、俺たちが降りると同時に乗ってきたトランスポーターはさっさと飛び立って行ってしまった。もう後には戻れないという訳か。まあいい、今回の任務は東京駅ダンジョンの威力偵察及び資源回収、要はリソーサーを遭遇次第倒して戦利品を稼ぐだ、なんとかなるだろう。
「ちっ、雨か。雨男のサドシマがいるといつもこうだ」
「え、あ、はい、すみません……」
言い掛かりにも程があるだろ。
「いいか、新入り共!初めに言っておくが、お前らはアタッカーなんだからな。後方の奴らに少しでも攻撃がいったら、お前らの成果査定は0だ!特にサドシマ!足引っ張りやがったら承知しねえぞ」
「あっ、はい、気をつけます」
班長の指示に返事をしたはいいが、俺にやれるだろうか。いいや、やれるかじゃなくてやるんだ。この日のために俺は生きてきたんだからな。自然と刀を握る手にも力が入っていく。
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