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報告書68「かつての親友、富地位名声に勝るものについて」
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八龍開眼による、あの大槍をノーモーションで突き出したり戻したりする仕掛けの解析がようやく終わりスキャナーに情報が流れてきた。厄介極まりない機構だが、うまく利用すれば逆に弱点にもなるはずだ!
「ヒシカリ……お前BH社にいて幸せか?」
「愚問だな。高い報酬、絶大な権力、揺るぎない名声、その全てが手に入るこの大企業にいて不満なぞあろうものか」
「そうか……だがそこにいては一生手に入らないものもあるようだな」
「なんだと?」
「心の安寧だよ!」
一気に駆け出し、奴の刃圏に入る。そこへ待ってましたとばかりに繰り出される右手に持った槍の突き出し。それを横ステップで避ける。
「バカの一つ覚えだな!」
そのステップ直後を狙った左手の槍による突き出し。地に足が着く瞬間を狙われたのだから避けることなど到底できない……普通なら。
「おらぉ!」
足元の加速推進機関と肩の後方推進機関を同時噴射、勢いよく後ろに"コける"事でその突き出しを躱す!危うく鼻が持ってかれるほどの直上を飛んでいく槍身。
「やるな……!だがその態勢で次をどう避ける!」
槍は一瞬で伸びきり、ヒシカリは次の攻撃の為に両手の槍を手元に戻し始める……ここだ!背中が地に着く間際、奴の右手の槍先すぐ下の柄を左手の義手で掴む。
「ふん……槍の柄を掴むか、素人の考える対抗策だな!」
「それはどうかな!」
普通なら槍の柄を掴んでも、槍の使い手が思いきり引く事で穂先の突起が鎌のように襲いかかり、手を斬られるのがオチだ。だが、今回は"普通の槍"では無いのが、命取りとなったな。
俺の左義手は槍の柄に吸い付いたように離れず、その勢いを借りて立ち上がり、そのまま奴の間合いを越え懐へと向かう。
「なっ!?なぜ離れない!」
それを見て慌てたのはヒシカリだった。急いで掴まれてない左手の槍を戻し、再び俺に何の芸も無く、何の捻りも無く、ただただ突き出してきた。
それを見て義手で掴んだ方の槍先を斬り落とし、その穂先を突き出してきた槍にぶつけ、ロケット噴射の勢いでそのまま地に突き立てた。深々と地に突き刺さった二つ槍先の突起は絡み合い、もう動かない。
「自分を見失いやがって……この大馬鹿野郎が……」
「勝負はついたか……大企業に属し、最新の装備を使い、過酷な任務で磨いた一流の腕を持つ俺が、弱小企業の死に損ないに負けるとはな……」
「俺はその弱小零細企業が大好きでな……それがお前との差だ」
振り上げたキ影を握り込み、最大出力の捨心を袈裟に入れる。斬撃と共に巻き起こった雷光が、ヒシカリの機動鎧甲を斬り裂く……
スキャナーによる分析結果では、ゲキクイソウの射出機構は掌を簡易的な砲身として電磁誘導を利用したいわゆるレールガンの原理で槍を打ち出す事で、人間の技では到底辿り付けない速度と威力での突き出しを実現していたようだ。
だが、それ故に伝導体として作られた全金属製の槍に、握力に加えて義手から発する磁力でも吸い付き固定する事ができたのだ……ヒシカリめ、池袋駅ダンジョンで見せた鍛えに鍛えた己の技を捨てて、会社に言われるがまま最新鋭装備で出やがるとは……大企業に執着する余り、心まで取り込まれちまったか。
「あばよ……かつての親友……」
痩せこけ、無精髭が散らかる顔の、濃いクマのできた見開かれた目を閉じてやる。お前は安らかに眠れ。お前が忘れちまったリソーサー殲滅の夢は俺が引き継ぐ……と、まずはチトセを追わなくては。
階段部屋に入り、最上階まで駆け上がり、ブラスターにより破壊された扉から中に入ると、そこは薄暗く、幾つもの巨大なサーバーが並び立つ迷路のような部屋だった。最上階には社長室でもあるのかと思ったが、サーバー室とはこの本社は変わった構造をしているな。
「チトセー、下は終わったぞ。そっちはどう……」
「バカ!下がるのよ!」
「ぬお!?」
背後からチトセに首元を引っ張られ、転んだところにブラスターによる猛烈な攻撃が。バカな、スキャナーには熱源反応が無いのはもちろん、どこにも敵の姿も気配もしなかったぞ!?
「おやおや、生きていたのかサドシマ。と言う事はヒシカリは死んだか?使えない奴ほど長生きするもんだな」
部屋内のスピーカーから聞こえてくるこの声にこのバカにした口調……今日は俺の復讐したい奴の在庫一掃セールか。
「アシオ班長……いやアシオ、使えない奴ほど長生きするのはあんたが生きてる事が良い証拠だ!」
「ふんっ、言ってくれるじゃねぇか」
忘れたくても忘れられない初任務・東京駅ダンジョン……そこでヒシカリをけしかけ、俺を殺そうとした班長、アシオ。あいつだけは容赦しねぇ!
「何?知り合い?」
「BH社にいた頃の上司のクソ野郎だ。チトセ、トドメは俺にやらせてくれ」
「随分張り切ってるのね……だけど相手は目に見えない、耳に聞こえない、スキャナーにも反応しない完全ステルス装備で攻撃しようにも居場所が分からない、その癖あっちからこちらは見えてるっていう最悪の状況よ。この迷路のようなサーバー室を逃げ回るのが精一杯だったわ」
自分は安全地帯から一方的に攻撃か……性根が腐りきった奴ってのは、戦い方にもそれが出るもんだな。
「ヒシカリ……お前BH社にいて幸せか?」
「愚問だな。高い報酬、絶大な権力、揺るぎない名声、その全てが手に入るこの大企業にいて不満なぞあろうものか」
「そうか……だがそこにいては一生手に入らないものもあるようだな」
「なんだと?」
「心の安寧だよ!」
一気に駆け出し、奴の刃圏に入る。そこへ待ってましたとばかりに繰り出される右手に持った槍の突き出し。それを横ステップで避ける。
「バカの一つ覚えだな!」
そのステップ直後を狙った左手の槍による突き出し。地に足が着く瞬間を狙われたのだから避けることなど到底できない……普通なら。
「おらぉ!」
足元の加速推進機関と肩の後方推進機関を同時噴射、勢いよく後ろに"コける"事でその突き出しを躱す!危うく鼻が持ってかれるほどの直上を飛んでいく槍身。
「やるな……!だがその態勢で次をどう避ける!」
槍は一瞬で伸びきり、ヒシカリは次の攻撃の為に両手の槍を手元に戻し始める……ここだ!背中が地に着く間際、奴の右手の槍先すぐ下の柄を左手の義手で掴む。
「ふん……槍の柄を掴むか、素人の考える対抗策だな!」
「それはどうかな!」
普通なら槍の柄を掴んでも、槍の使い手が思いきり引く事で穂先の突起が鎌のように襲いかかり、手を斬られるのがオチだ。だが、今回は"普通の槍"では無いのが、命取りとなったな。
俺の左義手は槍の柄に吸い付いたように離れず、その勢いを借りて立ち上がり、そのまま奴の間合いを越え懐へと向かう。
「なっ!?なぜ離れない!」
それを見て慌てたのはヒシカリだった。急いで掴まれてない左手の槍を戻し、再び俺に何の芸も無く、何の捻りも無く、ただただ突き出してきた。
それを見て義手で掴んだ方の槍先を斬り落とし、その穂先を突き出してきた槍にぶつけ、ロケット噴射の勢いでそのまま地に突き立てた。深々と地に突き刺さった二つ槍先の突起は絡み合い、もう動かない。
「自分を見失いやがって……この大馬鹿野郎が……」
「勝負はついたか……大企業に属し、最新の装備を使い、過酷な任務で磨いた一流の腕を持つ俺が、弱小企業の死に損ないに負けるとはな……」
「俺はその弱小零細企業が大好きでな……それがお前との差だ」
振り上げたキ影を握り込み、最大出力の捨心を袈裟に入れる。斬撃と共に巻き起こった雷光が、ヒシカリの機動鎧甲を斬り裂く……
スキャナーによる分析結果では、ゲキクイソウの射出機構は掌を簡易的な砲身として電磁誘導を利用したいわゆるレールガンの原理で槍を打ち出す事で、人間の技では到底辿り付けない速度と威力での突き出しを実現していたようだ。
だが、それ故に伝導体として作られた全金属製の槍に、握力に加えて義手から発する磁力でも吸い付き固定する事ができたのだ……ヒシカリめ、池袋駅ダンジョンで見せた鍛えに鍛えた己の技を捨てて、会社に言われるがまま最新鋭装備で出やがるとは……大企業に執着する余り、心まで取り込まれちまったか。
「あばよ……かつての親友……」
痩せこけ、無精髭が散らかる顔の、濃いクマのできた見開かれた目を閉じてやる。お前は安らかに眠れ。お前が忘れちまったリソーサー殲滅の夢は俺が引き継ぐ……と、まずはチトセを追わなくては。
階段部屋に入り、最上階まで駆け上がり、ブラスターにより破壊された扉から中に入ると、そこは薄暗く、幾つもの巨大なサーバーが並び立つ迷路のような部屋だった。最上階には社長室でもあるのかと思ったが、サーバー室とはこの本社は変わった構造をしているな。
「チトセー、下は終わったぞ。そっちはどう……」
「バカ!下がるのよ!」
「ぬお!?」
背後からチトセに首元を引っ張られ、転んだところにブラスターによる猛烈な攻撃が。バカな、スキャナーには熱源反応が無いのはもちろん、どこにも敵の姿も気配もしなかったぞ!?
「おやおや、生きていたのかサドシマ。と言う事はヒシカリは死んだか?使えない奴ほど長生きするもんだな」
部屋内のスピーカーから聞こえてくるこの声にこのバカにした口調……今日は俺の復讐したい奴の在庫一掃セールか。
「アシオ班長……いやアシオ、使えない奴ほど長生きするのはあんたが生きてる事が良い証拠だ!」
「ふんっ、言ってくれるじゃねぇか」
忘れたくても忘れられない初任務・東京駅ダンジョン……そこでヒシカリをけしかけ、俺を殺そうとした班長、アシオ。あいつだけは容赦しねぇ!
「何?知り合い?」
「BH社にいた頃の上司のクソ野郎だ。チトセ、トドメは俺にやらせてくれ」
「随分張り切ってるのね……だけど相手は目に見えない、耳に聞こえない、スキャナーにも反応しない完全ステルス装備で攻撃しようにも居場所が分からない、その癖あっちからこちらは見えてるっていう最悪の状況よ。この迷路のようなサーバー室を逃げ回るのが精一杯だったわ」
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