風魔法を誤解していませんか? 〜混ぜるな危険!見向きもされない風魔法は、無限の可能性を秘めていました〜

大沢ピヨ氏

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第34話 亀甲その2

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「なるほど……。ただの道具ではなく、拘束具として意識すればスキルは発動するみたいですね」


……して


「私自身、拷問については詳しくないんですが、学校の図書室に詳しく書かれた本なんてありますかね……?」


……やく


「学校の蔵書では流石に……。何冊かネットで購入しましょうか。あまり刺激的な内容ですと、マキマキさんに悪影響を及ぼす恐れがあるので、私が使えそうな情報をまとめ、イラストにして差し上げましょう」


……から


「本当ですか! 少し怖いと思っていたので助かります!」


「……いいから! 相談は後でいいから、早くここから降ろして!」



◻︎◻︎◻︎



 小牧真希さんこと「マキマキさん」のスキルは『拷問スキル』だった。

 判断石に表示された説明文は『対象の自由を奪い、肉体的または精神的な苦痛を意図的に与え、情報・自白・供述を引き出す能力』だそうだ。

 本人も、そのあまりに退廃的なスキルを得たことに衝撃を受け、先のツアーでは誰にも話せないでいたらしい。

 ライさま達は、全国津々浦々でダンジョンツアーを行っており、その中で有益なスキルを持った人物が現れた場合、スカウトして仲間に引き入れているそうなのだが、マキマキさんは誰にもスキルを公表しなかった。

 そのせいで少しだけツアー集団から浮いてしまい、ライさま達の華麗な戦いっぷりにも集中できず、ふとよそ見をした時に、長良さんと自分を見つけてしまったらしい。


 ちなみに生き別れ設定のネタばらしをした際、『なんだー、生き別れの兄弟は居ないんですねー、よかったー』と、胸を撫で下ろしていた。

 ……この娘は純粋すぎるのでは?


 そんな彼女の拷問スキルを早速検証しようとしたのだが、あいにく携帯アイアンメイデンの持ち合わせはない。

 何か拷問に適したアイテムはないかと頭を悩ませていると、長良さんが手に持ったロープをマキマキさんに手渡し、「このはいかがでしょう?」と、言ったことがきっかけで、拷問スキルは発動した。


 カッと目を見開いたマキマキさんは、こちらへと素早く近づくと、ロープをまるで生き物かのように操り、逃げ出す間もなく一瞬のうちに拘束。

 更には、ロープの端を近くの枝に引っ掛けると、その小さな体からは想像できないほどの膂力を発し、海老反り状態の自分を木に吊るし上げた。



「社長、こんな感じでいいですかね?」

 中村さんが、木製の手枷てかせを持って現れた。

 彼の木工スキルで作られた最初の作品が『手枷』だ。どうかしている。


「とても美しく作られていますね! 手触りも滑らかですし、表面に彫られた数字が、いかにも拘束具といった雰囲気を醸し出しています。では、伊吹くんを降ろして、手枷の使い心地も確かめましょう」

 他の人で試してくれればいいものの、何故に自分を指名するのかが分からない。

 もしかして、今の自分は嬉しそうな表情でも浮かべているのか?


 いや、まともな装備を着ているからか。


◻︎◻︎◻︎


 それからも拷問スキルの検証は続き、いくつかの特徴が判明した。

 まず、拷問スキルは『対象を縛り上げる』ところまでしか補助してくれないという点だ。

 木に吊るされていた自分を降ろす際、マキマキさんに先ほどのような怪力は発生しなかった。

 そのため、他の皆に手伝ってもらいながら、ようやく地面へと戻されたのだが、その後さらにもう一つの特徴が判明する。

 結ぶ時は一瞬だったこのおもむきあるロープワークも、ほどく時には拷問スキルの補助が働かなかったのだ。

 マキマキさんは、困り顔を浮かべながら一生懸命にロープを解こうとしてくれているので、あまり『痛い』とか『食い込んでるって』とも言えず、そこそこ長い時間を、恥ずかしい格好で過ごさせて頂けた。




「……手枷さばきも華麗ですね。これまでに心得が?」

「そそそそんなこと全然ないです! 触れるのも使うのも初めてです」




 手枷を使った捕縛術を検証するため、素手でマキマキさんと対峙してみたのだが、彼女の肩口に触れるよりも早く地面へと組み敷かれ、一瞬で後ろ手に手枷をめられてしまった。


 別に自分は武道を心得はないが、スキルの力とはいえ、身体の小さな女の子に、こうもアッサリと拘束されてしまうのは何とも悔しい。

 風魔法を使ってあらがえたりしないのだろうか。

 うーむ。拷問スキル、強ない?



◻︎◻︎◻︎


 伐採した木材を台車に積んで、買取窓口のあるダンジョンの入り口付近まで戻ってきた。

 今回伐採した樹木は、そのまま使うことに適しておらず、お試しの手枷程度のものならいざ知らず、槍の柄や建材として利用するなら、一度しっかりと乾燥させる必要があるそうだ。

 なので今日伐採したものは買取窓口で売ってしまい、乾燥済みのダンジョン木材を別口で購入することにした。


「どちらにします?」

 長良さんがそう尋ねてきたが、全く判断が付かない。


 いま彼女が何を尋ねてきたのかと言うと、2つある木材買取業者のどちらを選択するかという話だ。

 ここ八宮ダンジョンは、地下一階が森エリアとなっているため、木材の採取が盛んで、地方の過疎ダンジョンも拘らず、木材加工業者が二社も買取窓口を構えていた。

 もちろん各社ともに、お抱えの冒険者を擁しており、毎日のように木材を採取しているのだが、自分たちのような野良の冒険者からも、普通に木材を買い取ってくれる。


 これからしばらく、三人衆たちの装備が整うまで、彼らには安全な地下一階で伐採をお願いするつもりだ。
 出来ることならより良い業者と顔見知りとなり、縁を繋いでおきたいのだが……。


「買取価格に大した差はないんだよね?」

「そうですね。あったとしても誤差程度です」

 チラリと窓口を見ると、どちらの業者も真面目そうな男性が担当している。片方をものすごい美人さんが担当していたならば、それが決め手になったのに……。


「どっちもその道じゃ有名な業者さんなんだよね?」

「はい、そうですね。向かって左の窓口は『栗田林業くりたりんぎょう株式会社』といい、通称『クリリン』さんと呼ばれています」

「随分と可愛らしい通称だね」

 嫁さん金髪かな?


「右側の企業は『羽生林業はにゅうりんぎょう株式会社』といい、人からは『にゅうりん』さんと呼ばれていますね」

「うん、クリリンにしよう。それで間違いないよ」

 業者の名前を口にするだけで気まずくなってしまうなんて論外だ。こちとら思春期真っ只中だぞ。


 こうして木材買取業者の選定は終わり、ってきた木材をクリリンさんに売ると、約18万円で買い取ってもらえた。

 また、すでに乾燥を終えた木材を売ってくれないかと尋ねたところ、ダンジョンを出た先に、木材を保管している倉庫があるそうなので、そちらは行ってほしいとのこと。


◻︎◻︎◻︎


「じゃあ明日は倉庫を訪ねて、使えそうな木材を購入したあと、適当に何か作っといて」

「分かりました。ではお疲れ様でしたー」
「おつっしたー」


 木材のことは全て三人衆にお任せした。

 今日見せてもらった感じ、木工スキルは相当なポテンシャルを秘めているように思う。

 スキルレベルのようなものが存在しているかは分からないが、中村さんにはなるべく多くの木工品を作ってもらうことにしよう。


「さて……」

「マキマキちゃんは、明日からも私たちと一緒に活動してくれるそうです」

「よろしくお願いしますっ!」

 いつの間にやら、長良さんが勧誘を終えていたようだ。

 マキマキさんの拷問スキルは、名前こそ物騒だが非常に有益なスキルに思う。

 特にあの捕縛術だ。

 今はまだ魔物相手に通用するかは不明だが、先のように冒険者から襲われるようなことがあれば、無類の強さを発揮するだろう。


「こちらこそ宜しくね。俺たち二人もまだ初心者なんだけど、一緒に楽しくやっていこう」

「はいっ!」

 さて、マキマキさんが加入するとなると……。


「ダンジョン用下着を買いに行きましょう」

 長良さんはポンと手を叩き、そう提案してきた。


 家に帰れば、使っていないダンジョン用下着があるにはあるが……。


 うん。

 セクハラで訴えられそうだし止しておこう……。



◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎
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