狐の悩みごと

槐 一樺

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壱 招かれざる客

噂の中華料理店

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皆さんは地獄って知ってますか?

地獄は生前悪い事をした人が死後に落ちて、苦しみを受ける所。

なので、地獄には死者に裁きを下す閻魔大王を中心に死者に刑を執行する獄卒達が沢山いる。

これは地獄の住人たちが起こす摩訶不思議な事件を解決するとある狐のお話---






「…んー、今日は麻婆豆腐かな。」

「はいよ。ちなみにお前、昨日も麻婆豆腐だったぞ。」

カウンター席で仲良さげに話をする客と店主。

ここは地獄の中心閻魔殿の近くの城下町にある中華料理店。

死者に裁きを与える恐ろしいイメージとは裏腹にここはとても穏やかで栄えている。

...と言いたいところだが、例えるなら江戸の街、火事はないが喧嘩は多い。

「てめぇ、うちの嫁さんに何してくれとんじゃぁ!」

「あ゛ぁ!?そっちが先にぶつかってきたんだろうがぁ!」

今日も早速店の前で喧嘩が始まったようだ。

どうやら妊娠している女に酔っぱらいがぶつかって倒れてしまったらしい。

女はお腹を抱えて苦しんでいる。

「はい、おまち。麻婆豆腐。辛くないやつな。」

「おう。...それにしても騒がしいねぇ。まあこれも地獄の醍醐味だけどよぉ。」

「んだが、あの女は早く病院にでも連れていかなきゃ危ねぇのに、男共はなにをイチャついてんだか。」

喧嘩はどんどん酷くなっていき、いつしか取っ組み合いになっていた。

ギャラリーも増えてちょっとしたイベントのようになっている。

すると人混みの中から屈強な強面の男が出てきた。

「ちょっとあんたら、そんなんで喧嘩してないで奥さん病院に連れてけよ。」

「あ゛ぁ?誰だテメェ。おれぁこいつ殴らねえと気がすまねぇんだよ!」

「それはこっちのセリフだ!」

すると妊婦さんの旦那が酔っぱらいを投げ飛ばした。

酔っぱらいは中華料理店の扉につっこみ、派手に店内に転がり入ってきた。

「うおっ、危ねぇ。俺の麻婆豆腐が無駄になるところだったぜ。片付け大変だなぁこりゃ...あ。」

客は店主を見るとやべっと思ったような顔をし、席を移した。

「い...ってえな、何しやが...る」

起き上がった酔っぱらいが目にしたのは激怒した店主だった。

「てめぇら...人の店先でギャーギャー騒ぎまくって、目ェ瞑ってやってたのに今度は扉を破壊?」

店主は酔っぱらいの襟を掴みあげた。

「いい加減にしろよ。弁償してもらうからな」

「「...はい。」」

恐ろしい程の笑顔で喧嘩を粛清した店主にギャラリーは拍手を送る。が、

「...ダメだ。収まんねぇ。おい、エンマ。こいつら1発かましていいか?」

「はぁ...胡樂うた、てめえなあ。...まぁ自己責任で頼むよ。」

「りょーかい」

胡樂と呼ばれた店主は旦那と酔っぱらいの顔にグーパンを入れた。

ギャラリーは突然の大人気ない行為に白けた。

「おい、今エンマって言ったか?」

「あぁ、確かにそう言った。エンマって言ったらあの"エンマ"様だよな」

「あの店主の方も聞いたことあるぞ。胡樂って確か...」

「あれだろ。狐の妖怪のさ、閻魔様の友達。」

俺は胡樂。中華料理店の店主をしていて、この地獄を収める閻魔様はうちの常連。

これは俺と何故か寄ってくる奇妙な奴らとの物語---


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~解説~

この話には普段聞きなれない単語が多く含まれます。
わかりやすく解説しますので分からないところがあったらコメントください。

「妖狐」...狐の妖怪のこと。良い奴と悪い奴がいる。
            日本の昔話などにも多く登場。
            人に化けて騙すことも。
            ここでの胡樂は良い奴の方。だいぶ長く生          
            きているため様々な術が使える。
「閻魔」...閻魔大王。地獄を収める十人の王様の
            ひとり。死者の行き先を改めて決定する。
            地獄の管理も行っている。
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