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2-2 星の降る海に行きたい(2)
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玲凪とぼくは、E組の不登校生徒である森野凛の家に向かっていた。
ぼくも玲凪も、学校を出てからは言葉を発することなく、黙々と歩いている。
とはいえ、いまのところそこに緊張感は漂っていない。
むしろ、玲凪の表情とその弾むような足取りを見る限り、これからなにが起こるのか、楽しみにしているようにさえ見える。
おい、これはそんな楽しい仕事にはならんと思うぞ、どう考えても。
さて前に書いたように、ぼくたちに今回与えられた使命は、森野凛に会って学年通信を渡すこと、そしてなぜ学校に来ないのか、その理由を聞ければ聞くこと、この二つ。
まあふつうに考えて、探偵研究同好会の初仕事にふさわしい、とは言いかねる内容だ。
けれど実際、現実の探偵業ではこんな感じの依頼はよくあるのだ。
ぼくはそのことを、ネット情報や探偵さんが書いた本で知った。
不登校の学生からなにかを聞き出す、というのはあんまりないかもしれないが、行方不明の人を探す依頼というのは、探偵事務所によく寄せられる依頼だそうだ。
ともかく、ぼくたちに依頼されたことも、限りなく行方不明に近い状態にある女子高校生を無事に生きているかどうか確認する、という任務だ。
人のいのちが関わっているという意味で、とても重要なことであるのはいうまでもない。
玲凪もそれは重々承知しているはずだ。
宮村先生の依頼に即答で引き受けたのも、おそらくその重大さを即座に理解したからだろうと思う。
今回の案件は、そういう重大なものではあるけれど、そんな案件をぼくら、すなわち高校生の同好会レベルの素人探偵が引き受けるのが果たして適切なのかどうか。
それは、はなはだ疑問だ。
玲凪は、ぼくの隣を足取り軽く歩いている。
どう見ても、楽し気にしか見えない。
探偵研究同好会初めての依頼案件だからか。
しかし、ぼくはあらためて彼女の顔を横からよく見た。
笑っていない。
その表情は極めてまじめだ。
ときどき、ぼくの顔をちらちらと見ている様子なので、ぼくはそれに気がつかないふりをして、前のほうをを真っすぐ見ながら歩いた。
だって、ヘンに玲凪と目を合わせたら、きっとぼくにいろいろ聞いてくるにちがいない。
それは避けたい。
なぜって、この案件、ぼくにもわからないことだらけだからだ。
聞かれても答えようのないことが、この案件にはわんさとある。
玲凪はおもむろに、ふーっ、と深呼吸をした。
そしてぼくのほうを向くと、ぼくをじっと見つめる。
ぼくの様子を見て、声をかけられるチャンスを計ってるようだ。
はあ。
めんどくさいな。
この案件のわからないこと、ひとつめ。
森野凛の家族状況。
本人はおろか、母親にさえ連絡が取れないという状況ということだが、これはいったいどういうことなんだろう。
本人も母親も家出状態なのか。
だとしたら、母親はどこに行ってしまったのか。
父親は存命なのか、どこにいるのか……。
そして、わからないこと、ふたつめ。
森野凛はどうやって生活しているのか?
経済的にはどうなっているのか。
親がちゃんと面倒を見ているのか、それとも別のところから援助されているのか……。
いくらでも疑問が湧いてくる。
沈黙を続けるのも疲れてきたので、不本意ながらぼくから玲凪に尋ねてみた。
「……なあ玲凪。
森野さんのうちって、シングルマザー家庭なの?」
玲凪はぼくをちらっと見ると、一瞬うれしそうな表情を見せたように見えた。
しかし、また前を向いて冷静な表情になり、淡々とした調子で答えた。
「……どうもそうらしいんだ。
どういう経緯なのかはわからないんだけどね。
たぶん、離婚みたい。
宮村先生の話もそんな感じを匂わせてるよね。
まあ、もしそうであれば、あたしのうちと同じということになるわけだけど……」
そう言ってから、玲凪はあらためてぼくを見つめ、こう続けた。
「……でもさ、森野さんのうちの場合は、なんかもうちょっと複雑みたいなんだよね……」
玲凪の家庭に関するプライバシーにも重なってきそうな話題だ。
なので、ぼくはそこに深入りするのは避けるようにした。
「ふうん……そうなのか……」
すると玲凪は、急にぼくに顔を近づけてきた。
ぼくはぎくっとしたが、玲凪はそのままぼくの耳元に顔を寄せ、小声で話しかけてきた。
「……森野さんのご両親って、仲が悪かったみたいなんだよね。
それも、お父さん、お母さんのどちらも、ほかに男作ったとか、女作ったとか、そんな感じらしくて……。
それで離婚に至ったみたい。
だから森野さん、たぶんけっこうつらい思いしてたんじゃないのかな。
……でも、まだ登校してたときは、友だちも何人かはいたし、親しく付き合ってた人もいたらしいんだよ。
そういう子たちから聞いた話だと、とても明るくて楽しくていい子だったって。
みんなそう言ってる。
……まあ、森野さんは家庭の事情をみんなに隠してたんだろうね」
玲凪の森野さん情報は妙にくわしい。
調べる時間もろくになかったはずなのに、なんでだ?
ぼくは思わず尋ねてみた。
「……玲凪、なんでそんなに森野さんのことにくわしいんだ?
きょうまで、調べる時間もそんなになかったはずだろ?」
玲凪はぼくを見て、ふっ、と笑った。
「あたしが調べたんじゃないよ。
紗英がね、1年で森野さんと同じクラスだったの。
だから、紗英から森野さんについていろいろ聞くことができたんだ。
……というわけ!」
なるほど。
玲凪と仲のよい友だちのひとり、菊池紗英からの情報か。
ぼくは納得して、玲凪にうなずいた。
「あー、そういうことか……。
それなら、森野さんが経済的に苦しくて学校に行くことが無理、ってことも考えられるのか。
でも、宮村先生の話だと、学費はちゃんと払われているようだったな……」
玲凪は足元の地面を見て、つぶやくように答えた。
「うん。
……でも、その学費の出どころがどこからなのか、って疑問があるよね?
森野さんのお母さんか両親からなのか、それとも別のところからなのか……」
ぼくは玲凪の視線の先にある、彼女の足元をいっしょに見つめた。
そして考えてみた。
森野凛が親からほぼ子育て放棄されていると仮定して。
森野凛自身がバイトして支払っている、というのは考えられるのか?
……いや、それは考えにくい。
高校生ができるような種類のバイト、つまりまともなバイトだが、それを週に6日やったところで、学費を払いつつ生活ができるほどのお金が稼げるとは思えないからだ。
それでは、学費は親以外のだれかが支払ってくれているのか?
生活費は?
なんかヤバいこと、つまり風俗とか、なんとか団とか、そういうものにつながってたりすることはないんだろうか……?
わからないことだらけだ。
ふと、玲凪が顔を上げてひとりごとのように言った。
「……森野さんのお母さんは、仕事とか、なにをしてるんだろうね?」
まったくだ。
ぼくも玲凪と同じことを考えていた。
とにかく、森野凛の母親をめぐる状況、そして森野凛自身の現在置かれている状況、それを明らかにしないとならない。
そうしなければ彼女がなぜ学校に来ないのか、その理由がわからない。
森野凛から直接、それを聞くことはできるだろうか?
ぼくは玲凪に言った。
「うん、ぼくもそのことを考えてた。
森野さんのお母さんはどんな仕事をしてるのか。
学費は払ってくれてるのか、生活費もくれてるのか?
もし森野さんに会えたら、彼女にそれを聞く必要があるな」
玲凪はぼくを見てうなずいた。
「うん、そうだね」
ぼくは続けた。
「それになによりもまず、森野さん自身がちゃんと生活できているのか、それを知ることが第一だな。
病気にかかったりしてないか。
食事とか、栄養とかちゃんと取れてるのか。
生活費とか、お金はどうなっているのか。
……まず一番大切なのは、このことだ」
「確かに」
玲凪は前を向いてうなずくと、心配そうな表情で空を見つめている。
まあそうだよな。
心配な要素が多過ぎる。
さて、そう言ってるうちに森野凛の家に着いた。
時間は午後5時過ぎ。
最寄りの駅から歩いて10分程度、住宅街の真ん中にある10階建てのマンション。
売りマンションなのか、賃貸だろうか、それはわからない。
しかし築年数はそこそこ経っているのだろう。
鉄骨建てではあるようだが、外観やドアを見ると少々古びた感じがする。
まあ、このマンションの見た目だけでは、森野凛の家庭がそこそこ裕福な家庭なのか、貧困状況にあるのかはわかりようもない。
森野家の部屋は、2階の206号室。
玄関ドアにはロックがなく、そのドアをくぐると奥にもうひとつドアがあった。
そのドアにはロックがかかっている。
そして、ドアの前に据え付けられている番号ボタン付きのインターフォンで住人を呼び出すか、その番号ボタンをナンバーロックモードに切り替えて暗証番号を入力するかしないと、開かない仕組みのようだ。
入るとすぐ、玲凪はためらいなくインターフォンで206号室を呼び出した。
こういうことには物おじしない、玲凪らしいすばやい行動だ。
返答はない。
もう一度呼び出す。
やはり反応なしだ。
来て早々、ぼくらは暗礁に乗り上げた。
「……留守のようだな。
どうする?」
玲凪は、うーん、と首をかしげると言った。
「……居留守、ってことも考えられるけど……。
どうだろうなあ、そのへんは……。
病気で寝てるとか倒れてるとかだったら、どうしよう……」
「でも、無理やり踏み込むわけにもいかないからな。
警察とか救急車、呼ぶか?」
「……いやー、そこまではちょっと……」
玲凪はあきらめきれないような様子で、小さなロビーの中をしばらくうろうろしていた。
そして、やがて意を決したように威勢よくこう言った。
「日を替えて、また来ようよ!」
そりゃ、一度くらいであきらめられないよな。
それでこそ、玲凪だ。
「うん、わかった。
そうしよう」
翌日。
少し時間帯を変えて、午後7時過ぎにぼくらはやって来た。
今度はぼくがインターフォンを押す。
反応はない。
ぼくと玲凪は顔を見合わせる。
翌々日。
さらに時間を遅めて、午後8時過ぎ。
さすがにこの時間なので、ぼくも玲凪も、親に対して「学校の帰りに寄り道した」という言い訳が通用するはずもない。
というわけで、二人ともいったん家に帰ってから、私服に着替えてまた出て来た。
親には、
「学校で頼まれた用事があるので行ってくる」
という外出理由を考えついて二人で話を合わせ、どうにか許可をもらうことができた。
まあどちらの親も本当かどうか、疑ってると思うが。
さて、その8時過ぎ。
マンションに到着すると、玲凪がスマホを見て時刻をあらためて確認してから、インターフォンを押した。
が、やはりだれも出てこない。
これはどうしたものか。
ぼくは、腕を組んでしばらく考え込んだ。
玲凪も、自分の頭に右手の人差し指と中指をあて、その腕のひじをもう片方の手のひらで支えるようなしぐさをして、考え込んでいた。
おまえは仕事のできる系のビジネスウーマンか、ってなポーズ。
が、急に思いついたようにこう言った。
「……きっとこれはさ、昼間は絶対いない、ということなんだよ!
だから、もっと深夜を狙おうよ!」
「は?」
ぼくは思わず声を出した。
マジか。
オレら高校生だぞ。
いや、でも玲凪の言うことは筋がとおっている。
午後5時、7時、8時と、これだけ時間を変えて訪問しても不在なのだ。
ということは、たぶん昼間、つまりふつうに高校生が家に帰ってきているはずの時間帯、そして仕事をしている大人ももう帰ってくる頃であろう時間帯にはいないのだ。
そう考えるのが確かに自然だ。
しかし。
だからといって、ぼくらが深夜に待ち伏せをする、ってのはどうなんだ?
ぼくたちふつうの高校生にふさわしい、いや可能な行為なのか。
(ん?
ぼくと玲凪ははそもそも「ふつうの高校生」なのか?という問いには、各方面から賛否両論の回答が続出しそうなので、この際置いとくことにする)
「……玲凪、夜中に外出するのは、さすがにむずかしくないか?」
いや、ぼくがこう言うにはもう遅かった。
玲凪には、すでにやる気スイッチが入ってしまっている。
「なに言ってるの。
内緒でやるんだよ、親にも先生にも。
当然じゃん!」
玲凪はもう、それくらいのことがどうした、という堂々たる態度だ。
自信満々の笑顔で両手を腰にあてて、すっくと立っている、ようにぼくには見えた。
実際にはそんな表情も姿勢もしていなかったが。
「は?」
「は、じゃないって。
こっそり秘密でやるんだよ。
……真くんもやろうと思えばできるでしょ!
夜中にこっそり家を抜け出すのくらい!」
どんだけムチャぶりなんだ……。
言うは易く、行いは難し。
「……んー、ま、できないことじゃないかもしれないけど……。
リスク大き過ぎないか?
だいたい、あとで見つかったら学校で問題になりそうだし」
「んもう、だから、バレないようにやるんだよ!
隠密行動!
……それとも、真くんは反対?」
あー、めんどくさいなー。
これからやろうとしていることに対してか、玲凪に対してか。
自分でもわかんなくなってきたが。
「いや、やりたい気持ちはわかるが、というか、やることにやぶさかではない、というか……。
……しかし、この際正直に言うけど、いつもの理性的な玲凪らしくない提案だな」
玲凪はぼくの言葉に少々うろたえたように、しばし口ごもった。
「……え、それは……」
ぼくは言ってから、しまった、玲凪のことを傷つけたかな、とちょっと思った。
けど、そんなことぐらいでへこたれるような玲凪ではない。
彼女は不屈の闘志を持った、鉄の女だ。
いや言い過ぎか。
彼女は真剣な表情でぼくを真っすぐに見つめながら、訴えるように話した。
「……確かに、理性的に考えたらリスクは高いし、最悪、学校で問題になるかもしれない。
それはわかってる。
だけど、あたしなんか引っかかるんだ、森野さんの状況に。
ああ、森野さんとあたしが同じシングルマザー家庭だってことで、同情で動かされてる可能性も、もしかしたらあるかもしれない。
でも、それだけじゃないような気がするんだよ。
この案件、なんかふつうじゃないことが裏にあるかもしれない、っていうか……。
あたしの勘みたいなもんだけど……」
玲凪は、ときどき直情的に行動することはあるが、たいていの場合そこにはいつも強力な理性のコントロールが効いている。
それが玲凪という人間の個性であり、ぼくが信頼しているところであると言ってもいい。
でも、その理性の歯止め以上の「勘」にいま玲凪はつき動かされている。
玲凪にはめずらしいことだが、この案件は同じ女性、年齢も同じ同性をめぐることだ。
案外、その勘は信用できるかもしれない。
だから、彼女の気持ちに応えてあげたい、とぼくは思った。
「わかった。
深夜にもう一度、来てみよう。
家からは、なんとか理由をつけて抜け出してみるよ」
玲凪は、目を大きく見開いてぼくを見ると叫んだ。
「ほんと?やったー!」
「おい、声デカい」
「あ……ごめん……」
「……玲凪こそ、深夜に家を抜け出すことはだいじょうぶ?」
玲凪はすぐ気を取り直して、やる気満々の表情になっていた。
「だいじょうぶ。
どうやってでも、家出てくる。
ありがと、真くん!
この事件、絶対二人で解決しようよ!」
「わかった。
……当日は、夜中に一人歩きはお互い危ないから、二人で待ち合わせて行こう」
「うん、わかった!」
ぼくたちは日をあらためて、翌々日深夜午後11時過ぎにこのマンションを再び訪れた。
今回も当然、二人とも私服だ。
それも、なるべく目立たない格好。
玲凪は黒地にアートっぽいモノクロのパターンがプリントされたTシャツ、その上にやはり黒のパーカー、紺のデニム。
ぼくも黒無地Tシャツ、黒のライトジャケット、紺のデニム。
偶然だけど、二人とも示し合わせたように出来の悪いスパイ然とした服装になってしまった。
だけど、まあ夜道を歩くには目立たないだろうから、よしとしよう。
ぼくも玲凪も、その服装に感化されたのか、忍者のようにそそくさと足早に歩いて森野家のマンションへと急いだ。
マンションの前に着くと、森野家のある206号室のあたりらしい部屋の窓から薄明かりが漏れている。
玲凪はパッと明るい表情になった。
ぼくは玲凪と顔を見合わせると、静かにうなずく。
玄関ドアに入ると、ぼくが数字ボタンを押して206号室を呼び出した。
今回も応答がない、と思った。
しかし10秒ほど待たされただろうか、ボツッ、とノイズ音がして、女の子の声がした。
森野凛だろう。
「……どなたですか?」
暗い、静かな声。
そんなふうに聴こえた。
しかし、もともとそんな声なのではなく、本来は明るく元気な子が、なにかつらい状況に置かれてそうなってしまったのだ、と思わせるような名残が、その声の中には感じられた。
玲凪がぼくを見て確認してから、その声に応える。
「……あの、森野凛さんですか?
夜分遅くにすみません、あたしたち、萩野高校2年B組の関口と滝浦です。
学年通信を先生から預かってきたので、お渡ししたいんです」
相手は、しばらく無言のままだ。
玲凪が緊張した面持ちでじっとインターフォンを見つめている。
ぼくも黙って、相手の返事がどう出るかを待った。
1分も経ったかと思う頃、
「……ずいぶん遅い時間にやって来るのね。
学校でもこんな時間に他人の家を訪問するのは禁止でしょう?」
そりゃそう言われるよな。
玲凪とぼくは、おたがいにバツの悪そうな表情をして顔を見合わせた。
でも、玲凪がすぐインターフォンに向かって弁明する。
「……えと、それはそうですけど……。
でも、夕方とか夜8時とかに来ても、どなたも出ていらっしゃらないので……」
「それはそうね、その時間じゃだれもいないから。
それでもあきらめないで、こんな時間に来たってわけ?」
「ええ、まあ、そうですね。
凛さんにどうしても届けたかったので」
インターフォンの向こうで森野凛とおぼしき声が、くすっ、と笑ったようだった。
「……おもしろい人たちね、あなたたち。
うちの高校にそんな人がいるとは、思ってなかったな」
ぼくは森野凛に尋ねた。
「森野さん、滝浦です。
……なぜ、森野さんはこんな遅くでないと帰ってこないんですか?
ご家族のかたは、いらっしゃらないんでしょうか?」
再び長い沈黙が支配した。
やがて、森野凛はこんな思いがけない言葉をぼくと玲凪の二人に投げかけてきた。
「……お二人とも、うちにお上がりになります?
わたしもあなたたちにちょっと興味があるから、話してみようかな。
せっかくこんな時間に来てくださったのだし。
こちらの事情を少しお話しします、あなたたちだけに。
ただし、学校には話さない、という条件ならね。
……守ってもらえる?」
ぼくも玲凪も、学校を出てからは言葉を発することなく、黙々と歩いている。
とはいえ、いまのところそこに緊張感は漂っていない。
むしろ、玲凪の表情とその弾むような足取りを見る限り、これからなにが起こるのか、楽しみにしているようにさえ見える。
おい、これはそんな楽しい仕事にはならんと思うぞ、どう考えても。
さて前に書いたように、ぼくたちに今回与えられた使命は、森野凛に会って学年通信を渡すこと、そしてなぜ学校に来ないのか、その理由を聞ければ聞くこと、この二つ。
まあふつうに考えて、探偵研究同好会の初仕事にふさわしい、とは言いかねる内容だ。
けれど実際、現実の探偵業ではこんな感じの依頼はよくあるのだ。
ぼくはそのことを、ネット情報や探偵さんが書いた本で知った。
不登校の学生からなにかを聞き出す、というのはあんまりないかもしれないが、行方不明の人を探す依頼というのは、探偵事務所によく寄せられる依頼だそうだ。
ともかく、ぼくたちに依頼されたことも、限りなく行方不明に近い状態にある女子高校生を無事に生きているかどうか確認する、という任務だ。
人のいのちが関わっているという意味で、とても重要なことであるのはいうまでもない。
玲凪もそれは重々承知しているはずだ。
宮村先生の依頼に即答で引き受けたのも、おそらくその重大さを即座に理解したからだろうと思う。
今回の案件は、そういう重大なものではあるけれど、そんな案件をぼくら、すなわち高校生の同好会レベルの素人探偵が引き受けるのが果たして適切なのかどうか。
それは、はなはだ疑問だ。
玲凪は、ぼくの隣を足取り軽く歩いている。
どう見ても、楽し気にしか見えない。
探偵研究同好会初めての依頼案件だからか。
しかし、ぼくはあらためて彼女の顔を横からよく見た。
笑っていない。
その表情は極めてまじめだ。
ときどき、ぼくの顔をちらちらと見ている様子なので、ぼくはそれに気がつかないふりをして、前のほうをを真っすぐ見ながら歩いた。
だって、ヘンに玲凪と目を合わせたら、きっとぼくにいろいろ聞いてくるにちがいない。
それは避けたい。
なぜって、この案件、ぼくにもわからないことだらけだからだ。
聞かれても答えようのないことが、この案件にはわんさとある。
玲凪はおもむろに、ふーっ、と深呼吸をした。
そしてぼくのほうを向くと、ぼくをじっと見つめる。
ぼくの様子を見て、声をかけられるチャンスを計ってるようだ。
はあ。
めんどくさいな。
この案件のわからないこと、ひとつめ。
森野凛の家族状況。
本人はおろか、母親にさえ連絡が取れないという状況ということだが、これはいったいどういうことなんだろう。
本人も母親も家出状態なのか。
だとしたら、母親はどこに行ってしまったのか。
父親は存命なのか、どこにいるのか……。
そして、わからないこと、ふたつめ。
森野凛はどうやって生活しているのか?
経済的にはどうなっているのか。
親がちゃんと面倒を見ているのか、それとも別のところから援助されているのか……。
いくらでも疑問が湧いてくる。
沈黙を続けるのも疲れてきたので、不本意ながらぼくから玲凪に尋ねてみた。
「……なあ玲凪。
森野さんのうちって、シングルマザー家庭なの?」
玲凪はぼくをちらっと見ると、一瞬うれしそうな表情を見せたように見えた。
しかし、また前を向いて冷静な表情になり、淡々とした調子で答えた。
「……どうもそうらしいんだ。
どういう経緯なのかはわからないんだけどね。
たぶん、離婚みたい。
宮村先生の話もそんな感じを匂わせてるよね。
まあ、もしそうであれば、あたしのうちと同じということになるわけだけど……」
そう言ってから、玲凪はあらためてぼくを見つめ、こう続けた。
「……でもさ、森野さんのうちの場合は、なんかもうちょっと複雑みたいなんだよね……」
玲凪の家庭に関するプライバシーにも重なってきそうな話題だ。
なので、ぼくはそこに深入りするのは避けるようにした。
「ふうん……そうなのか……」
すると玲凪は、急にぼくに顔を近づけてきた。
ぼくはぎくっとしたが、玲凪はそのままぼくの耳元に顔を寄せ、小声で話しかけてきた。
「……森野さんのご両親って、仲が悪かったみたいなんだよね。
それも、お父さん、お母さんのどちらも、ほかに男作ったとか、女作ったとか、そんな感じらしくて……。
それで離婚に至ったみたい。
だから森野さん、たぶんけっこうつらい思いしてたんじゃないのかな。
……でも、まだ登校してたときは、友だちも何人かはいたし、親しく付き合ってた人もいたらしいんだよ。
そういう子たちから聞いた話だと、とても明るくて楽しくていい子だったって。
みんなそう言ってる。
……まあ、森野さんは家庭の事情をみんなに隠してたんだろうね」
玲凪の森野さん情報は妙にくわしい。
調べる時間もろくになかったはずなのに、なんでだ?
ぼくは思わず尋ねてみた。
「……玲凪、なんでそんなに森野さんのことにくわしいんだ?
きょうまで、調べる時間もそんなになかったはずだろ?」
玲凪はぼくを見て、ふっ、と笑った。
「あたしが調べたんじゃないよ。
紗英がね、1年で森野さんと同じクラスだったの。
だから、紗英から森野さんについていろいろ聞くことができたんだ。
……というわけ!」
なるほど。
玲凪と仲のよい友だちのひとり、菊池紗英からの情報か。
ぼくは納得して、玲凪にうなずいた。
「あー、そういうことか……。
それなら、森野さんが経済的に苦しくて学校に行くことが無理、ってことも考えられるのか。
でも、宮村先生の話だと、学費はちゃんと払われているようだったな……」
玲凪は足元の地面を見て、つぶやくように答えた。
「うん。
……でも、その学費の出どころがどこからなのか、って疑問があるよね?
森野さんのお母さんか両親からなのか、それとも別のところからなのか……」
ぼくは玲凪の視線の先にある、彼女の足元をいっしょに見つめた。
そして考えてみた。
森野凛が親からほぼ子育て放棄されていると仮定して。
森野凛自身がバイトして支払っている、というのは考えられるのか?
……いや、それは考えにくい。
高校生ができるような種類のバイト、つまりまともなバイトだが、それを週に6日やったところで、学費を払いつつ生活ができるほどのお金が稼げるとは思えないからだ。
それでは、学費は親以外のだれかが支払ってくれているのか?
生活費は?
なんかヤバいこと、つまり風俗とか、なんとか団とか、そういうものにつながってたりすることはないんだろうか……?
わからないことだらけだ。
ふと、玲凪が顔を上げてひとりごとのように言った。
「……森野さんのお母さんは、仕事とか、なにをしてるんだろうね?」
まったくだ。
ぼくも玲凪と同じことを考えていた。
とにかく、森野凛の母親をめぐる状況、そして森野凛自身の現在置かれている状況、それを明らかにしないとならない。
そうしなければ彼女がなぜ学校に来ないのか、その理由がわからない。
森野凛から直接、それを聞くことはできるだろうか?
ぼくは玲凪に言った。
「うん、ぼくもそのことを考えてた。
森野さんのお母さんはどんな仕事をしてるのか。
学費は払ってくれてるのか、生活費もくれてるのか?
もし森野さんに会えたら、彼女にそれを聞く必要があるな」
玲凪はぼくを見てうなずいた。
「うん、そうだね」
ぼくは続けた。
「それになによりもまず、森野さん自身がちゃんと生活できているのか、それを知ることが第一だな。
病気にかかったりしてないか。
食事とか、栄養とかちゃんと取れてるのか。
生活費とか、お金はどうなっているのか。
……まず一番大切なのは、このことだ」
「確かに」
玲凪は前を向いてうなずくと、心配そうな表情で空を見つめている。
まあそうだよな。
心配な要素が多過ぎる。
さて、そう言ってるうちに森野凛の家に着いた。
時間は午後5時過ぎ。
最寄りの駅から歩いて10分程度、住宅街の真ん中にある10階建てのマンション。
売りマンションなのか、賃貸だろうか、それはわからない。
しかし築年数はそこそこ経っているのだろう。
鉄骨建てではあるようだが、外観やドアを見ると少々古びた感じがする。
まあ、このマンションの見た目だけでは、森野凛の家庭がそこそこ裕福な家庭なのか、貧困状況にあるのかはわかりようもない。
森野家の部屋は、2階の206号室。
玄関ドアにはロックがなく、そのドアをくぐると奥にもうひとつドアがあった。
そのドアにはロックがかかっている。
そして、ドアの前に据え付けられている番号ボタン付きのインターフォンで住人を呼び出すか、その番号ボタンをナンバーロックモードに切り替えて暗証番号を入力するかしないと、開かない仕組みのようだ。
入るとすぐ、玲凪はためらいなくインターフォンで206号室を呼び出した。
こういうことには物おじしない、玲凪らしいすばやい行動だ。
返答はない。
もう一度呼び出す。
やはり反応なしだ。
来て早々、ぼくらは暗礁に乗り上げた。
「……留守のようだな。
どうする?」
玲凪は、うーん、と首をかしげると言った。
「……居留守、ってことも考えられるけど……。
どうだろうなあ、そのへんは……。
病気で寝てるとか倒れてるとかだったら、どうしよう……」
「でも、無理やり踏み込むわけにもいかないからな。
警察とか救急車、呼ぶか?」
「……いやー、そこまではちょっと……」
玲凪はあきらめきれないような様子で、小さなロビーの中をしばらくうろうろしていた。
そして、やがて意を決したように威勢よくこう言った。
「日を替えて、また来ようよ!」
そりゃ、一度くらいであきらめられないよな。
それでこそ、玲凪だ。
「うん、わかった。
そうしよう」
翌日。
少し時間帯を変えて、午後7時過ぎにぼくらはやって来た。
今度はぼくがインターフォンを押す。
反応はない。
ぼくと玲凪は顔を見合わせる。
翌々日。
さらに時間を遅めて、午後8時過ぎ。
さすがにこの時間なので、ぼくも玲凪も、親に対して「学校の帰りに寄り道した」という言い訳が通用するはずもない。
というわけで、二人ともいったん家に帰ってから、私服に着替えてまた出て来た。
親には、
「学校で頼まれた用事があるので行ってくる」
という外出理由を考えついて二人で話を合わせ、どうにか許可をもらうことができた。
まあどちらの親も本当かどうか、疑ってると思うが。
さて、その8時過ぎ。
マンションに到着すると、玲凪がスマホを見て時刻をあらためて確認してから、インターフォンを押した。
が、やはりだれも出てこない。
これはどうしたものか。
ぼくは、腕を組んでしばらく考え込んだ。
玲凪も、自分の頭に右手の人差し指と中指をあて、その腕のひじをもう片方の手のひらで支えるようなしぐさをして、考え込んでいた。
おまえは仕事のできる系のビジネスウーマンか、ってなポーズ。
が、急に思いついたようにこう言った。
「……きっとこれはさ、昼間は絶対いない、ということなんだよ!
だから、もっと深夜を狙おうよ!」
「は?」
ぼくは思わず声を出した。
マジか。
オレら高校生だぞ。
いや、でも玲凪の言うことは筋がとおっている。
午後5時、7時、8時と、これだけ時間を変えて訪問しても不在なのだ。
ということは、たぶん昼間、つまりふつうに高校生が家に帰ってきているはずの時間帯、そして仕事をしている大人ももう帰ってくる頃であろう時間帯にはいないのだ。
そう考えるのが確かに自然だ。
しかし。
だからといって、ぼくらが深夜に待ち伏せをする、ってのはどうなんだ?
ぼくたちふつうの高校生にふさわしい、いや可能な行為なのか。
(ん?
ぼくと玲凪ははそもそも「ふつうの高校生」なのか?という問いには、各方面から賛否両論の回答が続出しそうなので、この際置いとくことにする)
「……玲凪、夜中に外出するのは、さすがにむずかしくないか?」
いや、ぼくがこう言うにはもう遅かった。
玲凪には、すでにやる気スイッチが入ってしまっている。
「なに言ってるの。
内緒でやるんだよ、親にも先生にも。
当然じゃん!」
玲凪はもう、それくらいのことがどうした、という堂々たる態度だ。
自信満々の笑顔で両手を腰にあてて、すっくと立っている、ようにぼくには見えた。
実際にはそんな表情も姿勢もしていなかったが。
「は?」
「は、じゃないって。
こっそり秘密でやるんだよ。
……真くんもやろうと思えばできるでしょ!
夜中にこっそり家を抜け出すのくらい!」
どんだけムチャぶりなんだ……。
言うは易く、行いは難し。
「……んー、ま、できないことじゃないかもしれないけど……。
リスク大き過ぎないか?
だいたい、あとで見つかったら学校で問題になりそうだし」
「んもう、だから、バレないようにやるんだよ!
隠密行動!
……それとも、真くんは反対?」
あー、めんどくさいなー。
これからやろうとしていることに対してか、玲凪に対してか。
自分でもわかんなくなってきたが。
「いや、やりたい気持ちはわかるが、というか、やることにやぶさかではない、というか……。
……しかし、この際正直に言うけど、いつもの理性的な玲凪らしくない提案だな」
玲凪はぼくの言葉に少々うろたえたように、しばし口ごもった。
「……え、それは……」
ぼくは言ってから、しまった、玲凪のことを傷つけたかな、とちょっと思った。
けど、そんなことぐらいでへこたれるような玲凪ではない。
彼女は不屈の闘志を持った、鉄の女だ。
いや言い過ぎか。
彼女は真剣な表情でぼくを真っすぐに見つめながら、訴えるように話した。
「……確かに、理性的に考えたらリスクは高いし、最悪、学校で問題になるかもしれない。
それはわかってる。
だけど、あたしなんか引っかかるんだ、森野さんの状況に。
ああ、森野さんとあたしが同じシングルマザー家庭だってことで、同情で動かされてる可能性も、もしかしたらあるかもしれない。
でも、それだけじゃないような気がするんだよ。
この案件、なんかふつうじゃないことが裏にあるかもしれない、っていうか……。
あたしの勘みたいなもんだけど……」
玲凪は、ときどき直情的に行動することはあるが、たいていの場合そこにはいつも強力な理性のコントロールが効いている。
それが玲凪という人間の個性であり、ぼくが信頼しているところであると言ってもいい。
でも、その理性の歯止め以上の「勘」にいま玲凪はつき動かされている。
玲凪にはめずらしいことだが、この案件は同じ女性、年齢も同じ同性をめぐることだ。
案外、その勘は信用できるかもしれない。
だから、彼女の気持ちに応えてあげたい、とぼくは思った。
「わかった。
深夜にもう一度、来てみよう。
家からは、なんとか理由をつけて抜け出してみるよ」
玲凪は、目を大きく見開いてぼくを見ると叫んだ。
「ほんと?やったー!」
「おい、声デカい」
「あ……ごめん……」
「……玲凪こそ、深夜に家を抜け出すことはだいじょうぶ?」
玲凪はすぐ気を取り直して、やる気満々の表情になっていた。
「だいじょうぶ。
どうやってでも、家出てくる。
ありがと、真くん!
この事件、絶対二人で解決しようよ!」
「わかった。
……当日は、夜中に一人歩きはお互い危ないから、二人で待ち合わせて行こう」
「うん、わかった!」
ぼくたちは日をあらためて、翌々日深夜午後11時過ぎにこのマンションを再び訪れた。
今回も当然、二人とも私服だ。
それも、なるべく目立たない格好。
玲凪は黒地にアートっぽいモノクロのパターンがプリントされたTシャツ、その上にやはり黒のパーカー、紺のデニム。
ぼくも黒無地Tシャツ、黒のライトジャケット、紺のデニム。
偶然だけど、二人とも示し合わせたように出来の悪いスパイ然とした服装になってしまった。
だけど、まあ夜道を歩くには目立たないだろうから、よしとしよう。
ぼくも玲凪も、その服装に感化されたのか、忍者のようにそそくさと足早に歩いて森野家のマンションへと急いだ。
マンションの前に着くと、森野家のある206号室のあたりらしい部屋の窓から薄明かりが漏れている。
玲凪はパッと明るい表情になった。
ぼくは玲凪と顔を見合わせると、静かにうなずく。
玄関ドアに入ると、ぼくが数字ボタンを押して206号室を呼び出した。
今回も応答がない、と思った。
しかし10秒ほど待たされただろうか、ボツッ、とノイズ音がして、女の子の声がした。
森野凛だろう。
「……どなたですか?」
暗い、静かな声。
そんなふうに聴こえた。
しかし、もともとそんな声なのではなく、本来は明るく元気な子が、なにかつらい状況に置かれてそうなってしまったのだ、と思わせるような名残が、その声の中には感じられた。
玲凪がぼくを見て確認してから、その声に応える。
「……あの、森野凛さんですか?
夜分遅くにすみません、あたしたち、萩野高校2年B組の関口と滝浦です。
学年通信を先生から預かってきたので、お渡ししたいんです」
相手は、しばらく無言のままだ。
玲凪が緊張した面持ちでじっとインターフォンを見つめている。
ぼくも黙って、相手の返事がどう出るかを待った。
1分も経ったかと思う頃、
「……ずいぶん遅い時間にやって来るのね。
学校でもこんな時間に他人の家を訪問するのは禁止でしょう?」
そりゃそう言われるよな。
玲凪とぼくは、おたがいにバツの悪そうな表情をして顔を見合わせた。
でも、玲凪がすぐインターフォンに向かって弁明する。
「……えと、それはそうですけど……。
でも、夕方とか夜8時とかに来ても、どなたも出ていらっしゃらないので……」
「それはそうね、その時間じゃだれもいないから。
それでもあきらめないで、こんな時間に来たってわけ?」
「ええ、まあ、そうですね。
凛さんにどうしても届けたかったので」
インターフォンの向こうで森野凛とおぼしき声が、くすっ、と笑ったようだった。
「……おもしろい人たちね、あなたたち。
うちの高校にそんな人がいるとは、思ってなかったな」
ぼくは森野凛に尋ねた。
「森野さん、滝浦です。
……なぜ、森野さんはこんな遅くでないと帰ってこないんですか?
ご家族のかたは、いらっしゃらないんでしょうか?」
再び長い沈黙が支配した。
やがて、森野凛はこんな思いがけない言葉をぼくと玲凪の二人に投げかけてきた。
「……お二人とも、うちにお上がりになります?
わたしもあなたたちにちょっと興味があるから、話してみようかな。
せっかくこんな時間に来てくださったのだし。
こちらの事情を少しお話しします、あなたたちだけに。
ただし、学校には話さない、という条件ならね。
……守ってもらえる?」
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