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プロローグ

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「はぁ~今日も仕事行きたくないなぁ」

俺はため息を吐きながら、時計を見る。
時刻は7時30分
後、30分後には出勤の時間だ。
毎日の事だが、この心にのしかかる重い感情は毎回新鮮だ
いい加減この会社に行きたくないという気持ちも慣れればいいのに

俺も今年で30歳
幼い頃の俺は30歳はおっさんだと思っていたが
まさか自分がなるとはな。
しかも30歳にもなって、彼女無しの一人暮らし……
全くもって寂しい。

ーーあぁだめだ!!俺は頭を振る。
思考がどんどん鬱になっていく。

よーし!まずは顔を洗って気を引き締めよう!
俺はリビングから洗面所に繋がるドアを開けーー

"バキッ!!"

視界が反転、一瞬の浮遊感
全身を強い衝撃が襲う

「………ゔぅ…」

痛い。痛すぎる。
あまりの痛みで目が開かない。
だが、なんとなく分かる。
おそらく床が抜けたせいで転けたのだろう。
クソボロ家め

「……朝から本当嫌だ、、、え?」

立ち上がりながら目を開けると土の壁、3畳ほどの地下空間が広がっていた。
上を見ると壊れた洗面台の床。
どうやら2メートルちょっと落ちたみたいだ。
下の土が柔らかくて助かった。

どうやって登ろうか?

は!?

登るところを探そうと後ろを振り返るとそこには大きな扉が出現していた。

「この異様な扉……ダンジョン!だよな?」

俺の頭に浮かんだのは【ダンジョンの扉】

ダンジョンとは、数百年前に世界各地に出現した魔物が潜む
異界の空間の事だ。
当時は世界的に大混乱したようだけど、今では当たり前の存在だ。
というのも地球上の資源はほぼ枯渇状態の為、現在世界の資源の源はダンジョンの素材だ。故にダンジョンを神の祝福と呼び崇める宗教さえあるくらいだ。

と、そのダンジョンがなぜ、こんな場所に?

「まぁ、とりあえずは電話だな」

俺は手持ちのスマホで〈ダンジョン管理局〉に電話をかける。
〈ダンジョン管理局〉は国営のダンジョンの管理を担う機関。
国民は新規のダンジョンを発見した場合、連絡する義務があるのだ。
ちなみにダンジョン内に侵入、探索する場合は、このダンジョン管理局より探索資格を取り通称:冒険者になる必要がある。

『はい、こちら冒険者管理局の佐藤です。ご用件はなんでしょうか?』

佐藤さんという女性の局員が出た。

「床の下にダンジョンであろう扉が出現したのですが…」

『ダンジョンの出現報告ですね。まず、扉の色を教えて頂けますか?』

扉の色?俺は床下のダンジョンに目を向ける。

「扉は青ですね。」

『ありがとうございます。ちなみに濃さは分かりますか?』

「濃さは結構薄めです。」

『ありがとうございます。ご存じかもしれませんがダンジョンの扉の色は、ダンジョンの危険度に比例し、赤が最も危険度が高く強力な魔物がいます。そして、青が最も危険度が少ないダンジョンになります。』

確か昔、学校の授業で習ったな。赤みが強力なダンジョン、青みが強くなるほど弱いダンジョンだと。

「では、このダンジョンは弱いダンジョンなわけですか。ちなみに先程聞かれた濃さも何かに関係してたりするのですか?」

『はい、扉の色の濃さは魔物がダンジョンから溢れ、ダンジョン外に出てくる現象【氾濫】に関係していまして、濃いほど危険度が高くなり、最終的に扉の色が黒くなると氾濫するとされています。』

どうやらこのダンジョンは弱く、安全なダンジョンらしい。

「そういえば黒の扉には気を付けるとは聞いた事がありますね」

黒になれば【氾濫】が起きるのだから注意するのはその黒になる前だろうと少年ながらに思っていた記憶がある。

『はい。というわけで緊急の危険度は無い為、後日ダンジョンの扉の画像を近くのダンジョン管理局までお持ち頂いてもよろしいしょうか?また、遅れましたがお名前を伺ってもよろしいでしょうか?』

「分かりました。名前は"桜山咲太郎"です。花が咲くの"咲く"桃太郎の"太郎"です。ちなみに画像の他に持って行く物とか準備する事ってありますか?」

『桜山太郎様ですね。画像以外に必要な物としては、まずは身分証明ができる物ですね。後はダンジョンが桜山様の敷地内にある為、ダンジョン管理登録費用を支払う事でダンジョンの所有権を得る事ができます。』

うん?所有権?
確かテレビとか聞いたことがあるな

「えーと、ちなみに所有権を得ない場合はどうなるんです?」


『その場合はダンジョン管理局の管理になりますので、ダンジョン及びその敷地をダンジョン管理局が買い取らせて頂きます。』

何?土地の強制没収!
……でも、これはラッキー案件じゃないか?
ダンジョン管理局は国の機関な訳だし、これは期待してもいいんじゃないか?

「ちなみに俺の場合だと買取額って大体いくらくらいになりますか?」

すごくワクワクする。
気持ちが伝わらないように落ち着いた声を意識して尋ねる。
なんたってたってこの家は祖父母が亡くなった際に空き家となった為、俺が譲り受けた者だが、築は100年はこえてる。
床が抜けるくらい老朽化してるわけだし、別に強い未練も無い。

「そうですね。敷地面積、土地の相場、ダンジョンの色、等級にもよるので参考程度になるのですが、桜山さんのダンジョンはおそらく6等級ダンジョンと思われますので、土地や家も含めて1億くらいになると思われます。」

1億!!!
いぇーーーーい!!!
俺の中のサンシャイン●崎が叫ぶ
ダメだダメだ。まだ油断するには早い

「その1億ってやっぱり税金とかで少なくなりますよね?」

そう恐ろしいのは税金
一番よく聞く落とし穴だ。

「ご安心してください。税金などの差引はありません。」

やったぁぁぁぁぁ!!
そのお金で安い土地を買って新築を建てれる。
夢が広がる。

「あ、後、少し気になったんですがダンジョンの等級って何級から何級まであるんですか?」

「等級は、一番下が6等級で1番上が1等級となっています。そして等級の計測が出来ないダンジョンは零等級と呼ばれています。」

「零等級……」

なんかすごそうだな。
買取額とか異常な価格になりそうだな。
くそっ……どうして最低等級のダンジョンなんだ。

「零等級は世界でも数える程しかなく、踏破した人は未だかつていません。もし、ダンジョンや冒険者に興味がありましたらダンジョン管理局に来た際に何でもお聞きください」

「はい、ご丁寧にありがとうございます」

それからダンジョン管理局の佐藤さんと訪問する日程の打ち合わせを行い、通話を終了した。

ふぅ~と一息。

「あ……」

スマホのホーム画面の時間が目に入った。

"8:05"

一気に肝が冷える。

「遅刻だ!!!」

ダンジョンの事など頭から一気に消え失せた。
まずは遅刻の連絡だ。
理由どうしようか…
その日、俺は普通に会社で怒られた。
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