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第一部

その146 意外な再会

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 翌朝、俺は何故かナタリーの前で正座させられていた。
 おかしい。何故ナタリーはこんなに怒っているのだろうか?

「もうっ! 新しい付与魔法ならちゃんと教えてよね! 私、ビックリしたんだから!」

 そうか、早速アレを使ったのか。

「アレの事か。いや、説明する前に使うと思わないじゃないか」
「皆が使う場所なの! 事前に教えてくれないと困るの!」

 確かにナタリーのお怒りはご尤もである。
 まぁ、狙ってやったんだけどな。……まさか怒るとは思わなかったけど。

「中々よかったぞ」
「え、ジェイルさんも使ったの?」
「新商品か?」
「えぇ、目玉商品の一つですよ」
「ほぉ、ミナジリ領の名品にしてもいいかもしれないな」
「そこまでですか!?」
「世界が……変わった」

 まさかジェイルにここまで言われるとは。
 いや、地球でもアレは大人気だった。これは手応えアリだな。

「ちょっとミック! こっちの話はまだ終わってないの!」
「あぁそうだった。ナタリーの感想も聞きたいな」

 その直後、ナタリーは顔を真っ赤にして震え出した。はて、風邪だろうか?

「ミックの馬鹿ぁああああああああああっ!!」

 ◇◆◇ ◆◇◆

 頬に平手型の痕って本当に残るんだな。
 そう思いながら俺はエルフの国、シェルフに向かって走っていた。
 目的は二つ。エルフの仇でもあるダークマーダラーを届けに行く事と、ミケラルド商店の五号店のため土地を購入する事だ。
 問題はある。いくつかな。
 まず最初の問題……それは、シェルフに入れるのだろうか。
 事前にシェルフへ連絡すべきなのだろうが、盗聴されている事を考えるとギルド通信を使う事は出来ない。
 ならば直接行った方が早い。というところで、俺の思考は止まっていた。

「あ、そうだ」

 そうだった、クロード伝手づてでバルトに連絡とってもらえばいいんだ。
 俺はクロードにテレパシーを発動し、到着予想時間をバルトに伝えてもらった。
 バルトにならそろそろテレパシーの情報を与えてもいいような気もするが、商人たるもの、貴重なカードは切るところで切るべきだ。
 情報も大事な商品なのである。
 ……おかしい。感覚が鈍ったのだろうか?
 想定した時間より早く着いてしまった。仕方ない時間でも潰してるか。
 どこかに未遭遇のモンスターでもいないものか。
 ………………むぅ、見当たらないものだな。
 こちらに来やすくなったら、シェルフの冒険者ギルドで依頼を受けるのもいいかもしれない。
 俺にのんびり出来そうな休暇はくるのだろうか。
 でもまぁ、本気で生きるって決めてから何もかも充実してるよな。
 走り続ける事がこんなに楽しいとは思わなかった。今思えば、寄生転生する前は目的のない人生を送っていたものだ。吸血鬼として生まれて、最初は困惑したが、こんな吸血鬼生を送れるなら悪い結果ではなかったと思える。

「ミケラルド……様?」

 そんな事を考えながらボーっと座っていると、俺の背後から声が聞こえた。
 アホ面をしてたのだろう。何故ならこの子の接近に気付けなかったのだから。

「何で……メアリィ、、、、殿がこんなところに?」

 そう、俺の目の前に現れたのはエルフ幼女もとい、エルフの姫であるメアリィだった。

「あ、え? えと、クレアに付き添ってもらって狩りの練習を……」

 エルフという民族は高貴な地位にあろうとも狩りをするのか。
 社交界では狩りもスポーツと捉える人もいるが、そういう事なのだろうか。

「あ、ホントだ。近くにクレアさんもいますね」
「ミケラルド様は【探知】の魔法が使えるのですかっ!?」

 おっといけない。幼女だからと油断してしまった。
 情報の安売りは気をつけないといけないな。

「冒険者上がりの貴族なもので、有効に使っております」
「そうだったのですね。……って、そうではありません。何でミケラルド様がここに?」
「あぁ、件のダークマーダラーを引き渡しに来まして」
「そういう事だったのですね。……だとしてもここにいるのは……ん? ん?」

 そうだよね、シェルフにいる理由を説明したとしても、シェルフから離れた場所にいる理由の説明にはならないもんね。
 頭を抱えるメアリィが年相応の反応で何とも可愛い事。

「到着予定時刻より早く着いたもので、時間潰しをしてたんですよ」

 ポンと手を叩くメアリィ。

「あぁ~!」
「ところで、狩りはよろしいので?」
「それが、中々獲物が見つからなくて……」

 しゅんとするメアリィだったが、俺は急接近する反応の方をどうすべきか迷っていた。

「何奴っ!」

 瞬時にメアリィを抱え、俺に弓を向ける女は当然メアリィの保護者だった。

「どうも、お久しぶりです。クレアさん」
「な、ミケラルド様っ!?」

 きっと色々な意味で驚いてしまったのだろう。
 クレアは驚きの余り矢を発射してしまったのだ。
 俺の眉間に迫る矢に、二人の顔が歪む。
 俺はそれをつまむように受け止め、クレアに返す。

「プレゼントは嬉しいですけど、私、矢は使わないもので……お返しします」
「たたたたたた大変失礼をっ!」

 凄い、ファンタジー世界で初めて土下座を見た瞬間だった。
 メアリィも精一杯頭を下げている。
 一歩間違えれば即死コース。外交問題になりかねない一撃だ。クレアが青ざめるのは無理もない。
 ここで俺が許したところで、クレアの自責の念は消えないだろう。

「これは……償いをしてもらわなくてはいけませんねぇ」
「わ、私に出来る事であれば何でも! ただ、姫様だけはっ!」
「いえ、二人にしてもらいます」

 顔を上げた二人の顔は、何かもう見てられなかった。

「罰はそう、観光案内です!」
「「…………へ?」」

 THE暇つぶし。
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