【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

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 領境の街・リッカー=ポルカ

71話 時にはスピ系のように

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 さてどうしましょう。わたしは遠くを見つめてさもなにか深いこと考えていそうな空気感を出しました。はい。出ていると思います。はい。
 サルちゃん将軍おじさんは返答を急かすでもなくわたしの歩調に合わせてくれています。背後ではレアさんを護衛する上での陣取り合戦が繰り広げられている気配がします。それでいくらかゆっくり気味ですね。がんばれ若人たちよ。
 水流の音がはっきりと聴こえるくらいまで来たとき、サルちゃん将軍おじさんがわたしの前に手を出して進行を止めました。「政治的な理由でね、ここまでで勘弁してね」と言われ、わたしはうなずきます。
 促されなくても返答を待たれているのはわかります。わたしは川上を見ながら、「では、あちらに向かいましょうか」とさもなにか深いこと考えていそうな(ry

「――サルちゃん将軍おじさん」
「その呼び方すっごくたいへんそうだからサルちゃんでいいよー」
「サルちゃん」
「はいー」
「――人生って……川の流れのようだと思いませんか」

 サルちゃんが沈黙しました。わたしの頭の中にはばあちゃんの十八番だった某有名歌姫の昭和歌謡曲が流れています。なぜか味噌汁作るときにいつも歌っていました。なのでわたしもばあちゃんの音程でなら歌えます。原曲は聴いたことありません。

「思うんですよ……でこぼこしてる道、急カーブな道……いろいろあります。でも、人生は……だれかが歩いた道をなぞるようなものではなくて……まるで流れに逆らい遡上して行く、魚のようだなあ、って」

 言っているうちになんか本当にそんなことを常々考えていたような気になってきました。そうですよ。わたしの道が舗装道だったらこんなに苦労はしなかった。わたしの人生は逆流に立ち向かう鮭みたいなもん。きっとみんなもそう。それを確認しに、パイサン河を見に来た……きっとそう! これもまた人生!

「最近、いろいろ昔を振り返ることが多くて。ちょっと、見つめ直してみたくなったんです。自分が今まさに、遡上している川は、どんなものか。バカですよね。こうやって、実際に河の現場を見てみればどうにかなるんじゃないか、なにか突破口が見つかるんじゃないか、なんて思って」

 サルちゃんはちょっと考えるような仕草をしました。

「河の『現場』って、なに?」

 ――そこかー‼ そこつっこむかー‼ 予想外すぎたー‼ どう返せとー‼ 言えるか、マディア北東部事変発生現場なんてー‼

「――わたしの『命の川』の現場?」

 自分でもとっさに口にして疑問形になりました。サルちゃんはまたちょっと黙ってから、「うん、意味わかんないけどとりあえず今はそれで騙されてあげる」とおっしゃいました。
 ――怖くないです?

 てくてくと歩いて川上へ。ときどき川の形を確認しながら。徒歩で領境警備隊基地からどれくらいか、肌感覚で確認したいのです。なぜっていうと、それでわたしが事件発生時に張り込めるかとか、阻止できるかとか、雪の日に自力でそこまでたどり着けるかとかが判断できるからです。はい。
 ――ゲーム知識あるから楽勝だと思っていました、みなさん? まさか。わたしチートなしですよ。そうです。捨て身です。人の命かかってるんですよ。なりふり構っていられますか。どうにかして現場の手前に張り込んで、事件が起こる前、犯人が河を渡る前にすがりついて大声出すくらいしか、わたしにはできないんですよ。てゆーかそうしようと思っています。はい。そのための、下見です!
 
「おおー! なんか、すごいところ来たー!」

 思わず声が出ました。水量が多いのにそれが大きな石に阻まれていくつかに別れてまた合流している曲がりくねったところ。いろいろな気持ちがこみ上げました。実写で見ると、やっぱり違います。――でも、あの場所です。間違いありません。凶器が見つかって、かつ、たまたまその時間帯にここら辺を見回りに来たコブクロさんが、銃撃される場所。
 森林浴をするかのように、わたしは深呼吸をしました。ここまで何歩歩いたか数えています。539歩。それがどれくらいの距離なのかわかりませんが、思った以上に領境警備隊基地に近いことがわかりました。が。吸い込んだ新鮮な空気を、思いっきり吐き出します。
 ……わたしは、来られる? ここに。雪が吹きすさぶ、事件当日。

「いーい空気ですねえ!」

 つとめてわたしは明るく言いました。背後でコブクロさんたちの声が近づいてきます。わたしは気持ちを切り替えて、主演女優賞を狙いに行きました。

「うっ‼」

 額を押さえてその場にうずくまりました。さすがに予想外だったみたいで、サルちゃんがびっくりした声で「ソナコ⁉ どうした⁉」とおっしゃいました。そしていっしょにしゃがんでくれます。

「――なにか、まがまがしいものを感じます……‼」

 むりがあるのは承知で言いましたが、やっぱりむりがあったようで、サルちゃんがまた黙りました。すごく今までと空気感が違う沈黙でした。そんな目で見ないで。それで一瞬ひるんでしまいましたが、わたしはなんとなく心配して駆けつけてくれたコブクロさんの気配を背後に感じて、彼を見上げました。そして、告げます。

「……コブクロさん! あなたは、しばらくこの場所に近づいてはなりません! じゃないと、かなりひどい目に遭います! わたしにはわかります!」

 コブクロさんがサルちゃんと同じ表情をしました。そんな目で見ないで。
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