晴れときどき婿日和

丸井まー(旧:まー)

文字の大きさ
15 / 45

15:のんびりな日

 強制休暇に入って20日が経った。

 ペーターが目覚めると、寝ているシグルドが服を着ていた。月のものがきたらしい。シグルドは、基本的に下着一枚で寝るが、月のものの時はちゃんと服を着る。寝る前は着ていなかったから、多分、夜中に月のものが始まったのだろう。
 ペーターは大きな欠伸をしながら、もぞもぞと薄めの毛布を寝ているシグルドの腹回りに巻きつけた。

 いつもより少し遅めに起きたシグルドと朝食を食べながら、ペーターはふと思い立った。


「シグルドさん。今日は一日ベッドでゴロゴロしましょうよ。こないだ街で買った盤上ゲームとかカードで遊びたいです」

「まぁ、構わんが」

「あ、腹巻き着けてます? 折角買ったんだし、ちゃんと着けてくださいよ」

「くそだせぇから嫌」

「えー! お腹と腰は冷やしちゃダメなんですよー! お腹痛いんでしょー!!」

「痛いって程痛くもねぇし。慣れてるから問題ねぇな」

「腹巻き着けたら意外と快適かもしれませんよ?」

「だっせぇから絶対に嫌」

「どうせ誰も見ないでしょー!」

「腹巻き着けるなんぞ年寄りみてぇじゃねぇか」

「どんだけお洒落しようが問答無用で厳ついおっさんなんですから、腹巻きしても大丈夫ですよ」

「お前、後でぐりぐりの刑な」

「なんでぇ!?」

「……今日だけ試してやる。特に変わりなかったら二度と着けねぇからな」

「あ、はぁい。お腹と腰を温めると楽になるらしいですし、効果あるといいですねー。シグルドさんって、頭痛とか吐き気はあるんですか? 僕の姉ちゃん、月のものが重くて、頭痛腹痛腰痛、貧血からくる吐き気があったんですよねー」

「そりゃ難儀だな。俺はちょっとだけ腹と腰が痛くなるだけだ。戦闘にも支障が出ない程度のもんだから、血が出るのが面倒なだけで特にしんどくもねぇわ」

「個人差が大きいんですねー。まぁ、月のものの時くらい、のんびりしときましょうよ」

「おー。3日過ぎたら出てくる血の量も減るから、街に行くぞ。こうなったら、遊べるうちに遊び倒す。あと10日だしな。強制休暇」

「はぁい。もうすぐ冬になるじゃないですか。やっぱりお貴族様パーティーとかに出なきゃいけない感じです?」

「だろうな。面倒くせぇ。多分、休暇が終わったらダンスの練習も始まるぞ」

「うげぇ! やだー! 踊るのはどうせおっさんとでしょー! ていうか、僕より背が高いシグルドさんをエスコートって無理じゃないですか?」

「まぁ、間違いなく愉快な絵面になるな。新年を迎えたら、連日パーティーがあるぞ。兄上達は王都に行くだろうが、母上主催で屋敷でもパーティーをする」

「僕の繊細な胃が死んじゃう!!」

「あーー。本気で面倒くせぇな。いっそ、お前の実家に里帰りでもするか? 食料しこたま持って」

「さんせーい! そっちの方が気が楽です!! でも、義母上がいいって言いますかね」

「まぁ、なんとか説得してみる」

「ちょー頑張ってください。僕の胃のために」

「おー。お前の実家って、年越しは何かするのか?」

「えー。んーと、ご馳走作ってー、大人は昼間から酒を飲んでー、子供は遊んでー、わちゃわちゃ騒ぎながら新年を迎えますね。新年迎えて1日目だけはゆっくりゴロゴロしますけど、2日目からは普通に仕事します。基本的に、農作業に休みはないんで。いやまぁ、暇な時期も一応ありますけど、冬野菜が採れる時期だから、普通に忙しいですね」

「ふぅん。農作業なんぞしたことねぇが、まぁ何事も体験してみるのが大事だ。今年の年越しはお前の実家に里帰りだ。片道二か月かかるから、来月の終わりには出発するか」

「おぉ! 本当に帰っちゃうんですね! やったー! 実家に手紙書いときます! 宿の部屋を押さえとかないと。寝る場所ないですし」

「今年は気楽な年越しができるな。毎年こうはいかんだろうが、俺だって連日パーティーに連れ出されるのは心底嫌だしよぉ。2年に一回は里帰りするようにするか」

「はぁい! ふふー! 楽しみです! あ、うちの母ちゃん、多分容赦なくお手伝いさせてくるだろうけど大丈夫ですか? 使えるものはなんでも使う人なんですけど」

「問題ねぇな。炊事洗濯はやったことがねぇが、掃除くらいならしてたし。新しいことに挑戦してみるのも一興だ。やることがある方が退屈しないだろうしな」

「まぁ、田舎の村だから、特に遊べる場所とかないですしね。夏場なら森の中の泉とかで遊びますけど、真冬に森に行くのもなー」

「持っていく食料類と土産の手配をさせておくか。大食らいはお前だけか?」

「んー。多分、下から二番目の妹も食べる方かも? あの子も魔法使いの素養があるんで」

「あ? 魔法使いは大食らいなのか?」

「そういう傾向にあるらしいですよー」

「ふぅん」


 魔法使いの素養がある者は、人口の比率でいくと三割程度だ。魔法使いの素養がある者は、国立魔法学園への入学が義務になっている。妹も15歳になったら、王都の国立魔法学園に入学することになる。

 食後の珈琲も飲み終えたので、寝室に戻る。ペーターはいそいそと盤上ゲームとカードを取り出してきて、先にベッドに寝転がっているシグルドの隣に腰を下ろした。


「あ、シグルドさん。腹巻き」

「……しょうがねぇ。今日だけだぞ」

「はいはい。早く着けてきてくださいよ」


 シグルドが露骨に顔を顰めながら、ベッドから下りて、衣装箪笥の前でズボンを脱ぎ、街で買ったばかりの黒い腹巻きを着けて、ズボンを穿いた。自分の下腹部をすりすり撫でながら、シグルドがベッドの上に戻ってきた。


「地味に温い」

「でしょうね。お腹痛くないですか?」

「別にそんなに」

「とりあえず、毛布もお腹周りに巻いときましょう」

「逆に暑いだろ」

「痛いよりマシです!」

「あっそ」


 ペーターは、シグルドの腹回りに薄めの毛布を巻きつけると、盤上ゲームの遊び方の説明書を読み始めた。初めて見るものだったので買ってみたのだが、遊び方がよく分からない。
 遊び方の説明書を頭に叩き込んでから、ペーターは昼食の時間まで、シグルドと盤上ゲームで遊んだ。

 今日も美味しい昼食をがっつり食べた後、少しだけ昼寝をしてから、今度はカードで遊ぶ。騎士団の騎士達が遊んでいるところを見たことはあるのだが、実際に遊んだことはない。
 シグルドが遊び方を教えてくれたので、ペーターはワクワクしながら、初めてのカード遊びを楽しんだ。

 夕食後にシグルドと一緒に風呂に行くと、脱衣場で服を脱いだシグルドがぼそっと呟いた。


「やべぇ。腹巻き、地味に快適だった」

「やったー! ね! ね! 買ってよかったでしょ!」

「なんか悔しい」

「ふふん。月のものの時はお腹と腰を冷やしちゃダメなんですからー!」

「心底ぐりぐりしたい」

「マジでやめてください。早くお風呂に入りましょうよ。身体冷えますし」

「あぁ」


 シグルドは、風呂上がりにも自主的に腹巻きを着けていた。本当に気に入ったようである。次に街に行く時に、追加で腹巻きを買った方がよさそうだ。月のものじゃない時も、冬場に使ったらいいだろう。

 ペーターは頭の中の買い物リストにシグルド用の腹巻きを追加すると、ほこほこに温まった状態で寝室に向かい、少し早い時間だが、シグルドとベッドに上がって布団に潜り込んだ。

 そろそろ本気でペーター用の寝間着も欲しいので、次に街に行く時は買い物祭りだ。
 ペーターは寝落ちるまでシグルドと他愛のない話をして、なんとなくシグルドにくっついて寝た。

感想 2

あなたにおすすめの小説

若さまは敵の常勝将軍を妻にしたい

雲丹はち
BL
年下の宿敵に戦場で一目惚れされ、気づいたらお持ち帰りされてた将軍が、一週間の時間をかけて、たっぷり溺愛される話。

繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました

こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。毎日18時50分公開予定です

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

αに軟禁されました

雪兎
BL
支配的なαに閉じ込められたΩ。だがそれは、愛のはじまりだった――。

影武者は身の程知らずの恋をする

永川さき
BL
 孤児院出身のライリーは農場で働いている傍ら、冒険者を副業としている。  しかし、農場では副業が禁止である上に、冒険者は孤児院で嫌悪の対象となっている。  解雇や失望されてしまう可能性があっても冒険者として働くのは、貧しい孤児院に仕送りをするためだった。  そんなある日、冒険者ギルドから帰宅する途中、正体不明の男に尾行される。  刃を交え、ギリギリのところで男を振り切ったが、逃げ切れていなかったとわかったのは、その数日後のこと。  孤児院に現れたのは王宮の近衛騎士の三人。  そのうちの一人であるユリウスは、ライリーが尾行を振り切った正体不明の男だった。  自身の出自を餌に、そして言外に副業やその内容をバラすと脅され、王宮に行くことを決意したライリーを待ち受ける運命とは……。 近衛騎士×元孤児の影武者の切ない身分差BL。