晴れときどき婿日和

丸井まー(旧:まー)

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22:新しい年の始まり

 シグルドはベルナ特製の豆のペーストを塗った薄いパンを齧り、もぐもぐ咀嚼してから、くっと蒸留酒を飲み干した。香りのいい蒸留酒と美味しい豆のペーストが絶妙に合う。
 ふぅと幸せな溜め息を小さく吐いてから、シグルドは、ご機嫌な様子のダグラスの空いたグラスに蒸留酒を注いだ。

 今日は新年を迎えたばかりだ。昨日は朝早くからベルナ達とご馳走を大量に作り、夜は家族揃って素朴なパーティーをした。ペーターの兄弟は皆酒に弱いから、シグルドは、1人だけ酒に強いダグラスと一緒に、ご馳走を楽しみながら、夜通し酒を飲んだ。
 新年を迎えると、皆でハグをして新たな年を祝い、眠たくなった子供達や女性陣が寝ると、男だけで酒を飲んだ。といっても、ダグラス以外は酒を一杯だけ飲んだら眠くなったようで、居間で雑魚寝をしていた。

 シグルドは朝までダグラスと酒を飲み、起きてきた女性陣と一緒に朝食を作って食べたら、またダグラスと一緒に酒を飲み始めた。
 昨日からかなり飲んでいるが顔色が変わらないダグラスが、ニコニコと上機嫌に笑っている。


「いやー。一緒に酒が飲める相手がいるっていいなー! 毎年1人で飲んでるからよぉ。シグルドさんがいてくれて嬉しいわー」

「本当に皆酒に弱いんですね」

「そうなんだよー。母ちゃんが酒に弱いから、皆、母ちゃんに似たのかね。まぁ、亡くなった親父も酒に弱かったからなぁ」

「父ちゃんは酒に強いですよね」

「おー。多分、亡くなったお袋に似たんじゃねぇかな。お袋は酒豪だったから。お袋が生きてた頃は、成人した後は毎年2人でずっと飲んでたわ」

「いいですね。こうして気楽に酒を楽しめるのは羨ましいです。実家だと年越しの日もパーティーで、気楽に酒を飲める感じではないので」

「お貴族様も大変だなぁ。親御さんと酒を飲んだりしないのか?」

「夕食の時に酒を飲むことはありますが、こんな風にゆっくり酒を飲んだことはないです」

「ふぅん。帰ったら、親父さんと一緒に酒を飲んでみたらどうだい? 多分、親父さんは喜ぶと思うぞー。やっぱなー、子供と一緒に酒を飲むって、なんか嬉しいもんだしさー」

「そんなもんですか。……帰ったら父上を誘ってみるかな?」

「一番近くの町で蒸留酒を作ってるとこがあるんだわ。お貴族様の舌に合うかは分かんねぇけど、一応特産品だし、土産に買って帰ったらいいんじゃねぇかな」

「そうします。初めて体験することばかりですから、土産話が沢山できそうです」

「毎日忙しないが大丈夫かい? 疲れたらちゃんと言ってくれよ? 慣れないことやってんだし、休むのも大事だ」

「ありがとうございます。体力と筋力には自信があるんで、今のところは大丈夫です」

「あー。確かに見事な筋肉してるもんなぁ」

「父ちゃんも中々いい筋肉してると思いますよ。実用的な感じで」

「まぁ、毎日農作業とかしてたら、自然と必要な筋肉はつくな。ひょろひょろしてるのはペーターだけだなー。まぁ、ペーターは魔法使いだし」

「あ、そうだ。前々から聞きたかったんですけど、ペーターに魔法使いの素養があるって、どうして分かったんですか?」

「あー。赤ん坊の頃に1人で勝手にふわふわ浮いて遊んでたんだよ。僕のお袋も魔法使いだったから、まぁ遺伝だろうな。下から二番目のニーナも赤ん坊の頃にふわふわ浮いて遊んでたわ」

「へぇー。部屋の中が風でしっちゃかめっちゃかになったりしなかったんですか?」

「めちゃくちゃなってた」

「あ、やっぱり」

「部屋の中を片付けたかと思えば、また風でふわふわ浮きながら、周りのもんまでふわふわ浮かせてたから、完全に鼬ごっこだったなー。ペーターもだけど、ニーナも風の魔法が一番適正があるっぽいわ。お袋も風の魔法が得意だったから、これも遺伝かな? お袋は魔法薬を作るのが得意でなー。特に傷薬がよく売れてたんだよ」

「へぇー。お祖母様は魔法が得意だったんですね」

「魔法薬作るのと風の魔法で草刈りはしてたけど、他の魔法を使ってるとこは殆ど見たことねぇなぁ。多分、他の魔法は下手くそだったんじゃねぇかな? あ、でも、箒に乗るのは得意だったな。僕も一緒に箒に乗って、町まで魔法薬を売りに行ったりしてた」

「ペーターも箒に乗るのは得意なんで、似たんですかね」

「かもなぁ」


 ダグラスと飲みながら話していると、ペーターとちびっ子達が側にやって来た。


「父ちゃんばっかりシグルド兄ちゃんとお喋りしてずるいー!」

「僕もシグルド兄ちゃんとお喋りするー!」

「ねー。シグルド兄ちゃん、一緒に遊ぼうよー」

「シグルドさん、ちびっ子達が一緒に遊びたいらしいですー」

「おー。いいぞ。何して遊ぶ?」

「父ちゃんも一緒に遊ぶかなー。あれ、やりたいわ。お土産で買ってきてくれた盤上ゲーム」

「あぁ。あれなら大人数でも遊べますね」

「早く遊ぼー!」

「いいぞー」


 シグルドは酒の瓶とグラスを片手に、ダグラスも一緒に、子供達と盤上ゲームで遊び始めた。初めてやるダグラスに遊び方を教えてから、『あたしもやるー!』と言って近寄ってきたベルナも一緒に遊ぶ。盤上ゲームが珍しいからか、長兄をはじめとする家族達もシグルド達の周りに皆集まってきた。

 交代交代で盤上ゲームで遊ぶ。皆、とても楽しそうに笑っている。新年をこんなに賑やかで楽しく迎えるのは初めてかもしれない。実家にいた頃は、毎年王都に行き、連日パーティーに参加させられていたし、騎士団時代は、隊の独身連中とひたすら酒を飲んでいた。ペーターの実家は本当に温かくて、皆、人がいい。ペーターの実家に里帰りして正解だった。
 シグルドは温かい人達に囲まれて、のんびり楽しく一日を過ごした。

 夕食と風呂が終わったら、今夜は宿に帰る。暗くなった道をのんびり歩きながら、ご機嫌なペーターが話しかけてきた。


「シグルドさん。疲れてないなら、宿に戻ったら久しぶりにしたいでーす」

「いいぞー。なんだかんだで久しくしてないしな。溜まってるわ」

「ですよねー。毎日、朝早いですしー。まぁ、明日も朝が早いんですけどね! でも、したいです」

「お前の実家は賑やかでいいな。ちびっ子達も可愛いし」

「えっへー。ありがとうございます! まぁ、めちゃくちゃ人数多いですしねー。毎日騒がしいけど、疲れません?」

「いや? 初めてやることが多くて、新鮮で楽しいな」

「それならよかったですー」

「毎年里帰りができたらいいだけどな。気楽だし、疲れない」

「ですねー。でも、義父上と約束しちゃいましたし、来年の年越しは頑張ります! ダンス……覚えられるかな……」

「まぁ、頑張れ。俺も練習しないと確実に忘れてるわ」

「実家にいられる間は、お貴族様のことは忘れることにします!」

「そうしろー。あと一か月半、とことん楽しむぞ」

「はぁい。使用人さん達も楽しめてますかねー」

「さぁな。まぁ、余計めに小遣いは渡してある。町で酒でも飲んでるんじゃないか?」

「そうだといいですー」


 馭者をしてくれた使用人達は、一番近くの町に滞在している。二か月間やることがないので、町でのんびりしてくれているといい。

 シグルドは宿の部屋に入ると、ペーターが暖炉に魔法で火をつけてから、服を脱ぎ始めた。ペーターの実家に帰ってきてから、セックスをしていない。楽しいが、毎日慣れないことをしているので、いつも疲れてすぐに寝てしまっていた。
 明日も朝が早いのだが、かなり溜まっているので、今夜は楽しみたい。シグルドは全裸になるとベッドに上がって、服を脱いでいるペーターを待った。

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