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27:帰宅!
ペーターはシグルドを後ろに乗せて、箒で空を飛んでいた。離れの屋敷がもう見えている。楽しかった実家での二か月を終え、二か月近くかけて、辺境伯の領地の屋敷へと帰ってきた。
「シグルドさーん。先に帰っちゃいます?」
「あぁ。馭者に一声かけたら先に屋敷に戻るぞ。昼飯食ってから、母屋に顔を出しに行く。晩飯は多分父上達と一緒だな」
「はぁい。頑張れ、僕の胃。……ご飯のマナー忘れてたらどうしよう……」
「まぁ、一応フォローはしてやる」
「お願いしますね! じゃあ、ちょっと下降しまーす」
「おー」
ペーターは馭者に近づくと、先に屋敷に向かうことを伝えてから、ふわっと上昇して、速度を少し上げた。
季節はすっかり春になっている。春の柔らかな暖かい風が頬を撫でるのが心地いい。
離れの屋敷の玄関先に降りると、すぐに屋敷の中から執事のバニヤンが出てきた。
「おかえりなさいませ」
「あぁ」
「バニヤンさん、ただいまですー。屋敷の皆さんにもお土産買ってきました!」
「これはこれは。ありがとうございます。ペーター様。皆が喜びます」
「昼飯食ったら、母屋に行ってくる。母屋へ帰ってきた旨を伝えに行ってくれ」
「かしこまりました」
ペーターはシグルドと一緒に屋敷の中へと入った。久しぶりに大きな風呂に入り、旅装から貴族仕様の服に着替えると、ちょうど昼時の時間になっていた。
食堂に行けば、すぐに使用人達が昼食を運んできてくれる。久しぶりに食べる料理長の料理が最高に美味しい。疲れた身体に優しく染み渡る美味しさである。
食後の珈琲をのんびり飲んでいると、あちこちで買った土産をいっぱい積んでいる馬車が到着したようで、ちょっと屋敷の中が賑やかな雰囲気になった。
ペーターはシグルドと一緒に、とりあえず今日、母屋へ持っていく土産を発掘した。約半年ぶりの母屋に緊張してじわじわと胃が痛くなってくるが、慣れなきゃいけないことなので頑張るしかない。
ペーターが無意識のうちに胃のあたりを擦っていると、シグルドがぽんっとペーターの頭にゴツい大きな手を乗せた。
「そう緊張するな。フォローはしてやる」
「お願いしまーす。僕が粗相しないように祈っててください」
「おー。まぁ、大丈夫だろ。多分。兄上達も王都から帰ってきてる時期だし、明日から早速仕事を再開するぞ。引き継ぎの山が俺達を待っている」
「がんばりまーす。あ、明日のうちに香草の種まきだけはしときたいです」
「あぁ。それがあったな。庭師に伝えさせておくか」
「夏になったら香草を収穫して、干して乾燥させて、香草茶にします! 母ちゃんと全く同じ味にはならないでしょうけど、近い味にはなると思いますよー」
「楽しみだな。種まきは俺も一緒にやる」
「はぁい。その前に、まずは母屋で一頑張りです!」
「あんま肩に力いれんなよ。空回って逆に粗相すんぞ」
「それはいやー! どうしよう。とりあえず深呼吸ですかね」
「深呼吸しとけ」
「はぁい」
ペーターは何度も深呼吸をした。
持てるだけのお土産を持って、母屋の屋敷へ向かう。久しぶりに母屋に入ると、豪華過ぎる内装と品のある雰囲気に、胃がぎゅうっと締めつけられる気がしてきた。
一気に緊張が高まったのに気づいたのか、シグルドがわしゃわしゃとペーターの頭を撫で回して、乱れた髪を意外な程優しく撫でて整えてくれた。ちょっとだけ息をするのが楽になる。
シグルドと一緒に応接室に向かえば、義両親と義兄一家がいた。義兄の長男リヒャルトは、貴族の子息が通う全寮制の学園に入学したので不在だ。リヒャルト用の土産は、王都に送ってもらう予定である。
シグルドとペーターを見た義両親達が、嬉しそうに上品に笑った。
「ただいま帰りました」
「おかえり。シグルド。ペーター。楽しかったか?」
「はい。新鮮な体験をしてきました。土産を買ってきましたので、どうぞ。……あー、父上。よろしかったら、ペーターの故郷の近くの町で生産している蒸留酒を一緒に飲みませんか?」
「おぉ。それはいい。ジークハルトとペーターも一緒にどうだ? たまには、のんびり酒を楽しむのもよかろう」
「はい。父上。おかえり。シディ。ペーター。無事に帰ってきてくれて何よりだ。子供達が寂しがっていたよ。土産話を沢山聞かせてあげて欲しい」
「はい。兄上。子供達にも土産を沢山買ってきたので、明日にでも運ばせます」
「ありがとう。疲れているだろうが、夕食後に少し酒を楽しもう。ふふっ。シディとのんびり酒を飲むのは初めてだなぁ」
「そうですね。買ってきた蒸留酒が口に合うといいです」
「シディ。ペーター。おかえりなさい。数日はゆっくりするのでしょう? 土産話を聞かせてもらいたいわ」
「母上。一応、明日から仕事の引き継ぎをする予定です。かなり休んでしまっておりますから。休日にでも、土産話をしにまいります」
「あら。そんなに早く仕事をしなくてもよろしいんじゃなくて? 子作りもありますもの」
「あー……まぁ、子供は授かりものなので、気長に構えていてください。遊び過ぎたので、暫くは仕事を優先します」
「まぁ……でも……」
「オリビア。そのあたりでやめておきなさい。シグルドが言うとおり、子供は授かりものだ。あまりしつこく言うとストレスになって、できるものもできなくなる」
「……わかりましたわ。旦那様」
「さて。夕食の時間まで土産話を披露してくれ」
「はい。父上」
シグルドと並んで座っているペーターは、シグルドが楽しそうに話しているのをチラッと見て、気づかれないように胃のあたりを擦った。久しぶりだと緊張がヤバい。この後の夕食が憂鬱である。粗相しちゃいそうな予感しかない。シグルドがフォローしてくれることを祈るしかない。
ペーターも時折ちょっと話しながら、夕食の時間まで義家族と過ごした。
胃が痛くなる程緊張した夕食をなんとか乗り切ると、ペーターはシグルドと一緒に、義父アーカイドの私室に向かった。義兄ジークハルトも一緒である。
アーカイドの私室に入ると、ふっかふかのソファーに座り、シグルドが買ってきた土産の酒を注いだ。ペーターは事前にシグルドが使用人に紅茶を出すように言ってくれていたので、香りがいい高級紅茶である。
ペーターの前に置かれた紅茶を見て、アーカイドが首を傾げた。
「ペーターは酒を飲めないのか」
「とても酒に弱いんです。飲んだら寝ちゃいます」
「そうか。ふむ……紅茶に少しだけブランデーを入れてみるといい。香りがよくて美味しくなる」
「あ、じゃあ、少しだけブランデーをもらいます」
「どうせなら、美味しいものを飲ませよう。私の秘蔵のブランデーを出そう。ジークハルト。シグルド。お前達も飲むだろう?」
「はい。父上。是非とも飲みたいです」
「俺も飲みたいです。父上秘蔵のブランデーなんて、美味しいに決まっている」
「ははっ。先にシグルドの土産の蒸留酒を飲もう。ブランデーはその後だ」
部屋の隅に控えていた使用人がブランデーの瓶を持ってきて、ティースプーン一杯分のブランデーを紅茶に入れてくれた。
シグルド達が乾杯して蒸留酒を飲み始めたので、ペーターも温かいブランデー入りの紅茶を一口飲んでみる。ふわっといい香りが鼻に抜けて、程よい薄さの酒精で腹の中がじんわりと温かくなる。ブランデー入りの紅茶なんて初めて飲んだが、かなり美味しい。
「これすっごく美味しいです!」
「そうだろう。酒に弱くても、こういう楽しみ方もできるものだ。私の執事が、酒精が軽いカクテルも作れる。試してみるか?」
「あ、はい。お願いします」
「いいとも。ふふっ。この蒸留酒、中々に美味しい。ペーターの故郷の近くで作られているのだろう? 取り寄せるには、ちと遠いな」
「確かに美味しいですね。父上。シディ。またペーターの実家に里帰りする機会があれば、今度は多めに買ってきてくれないか?」
「はい。兄上。気に入っていただけて嬉しいです。町の店で食べた兎のパイとも相性抜群でした」
「ほう。兎のパイ。あまり馴染みがないな。試しに作らせてみるか」
「いいですね。父上。ペーターは久しぶりの実家は楽しめたかな?」
「はい。義兄上。毎日、朝から晩まで賑やかでした。シグルドさんが一緒に色んなことをしてくれたので、本当にすごく楽しかったです」
「それはよかった」
ぽつぽつ話しながら飲んでいると、老年の執事が淡い水色のカクテルを運んできてくれた。お礼を言って受け取り、一口飲んでみれば、柑橘系の香りがふわっと鼻に抜けて、酒精が軽くて飲みやすい。素直に美味しい。
「すっごく美味しいですー」
「それはよかった。さて、蒸留酒を飲み終えてしまったから、次はブランデーを飲むか。チョコレートも出そう。ブランデーによく合う」
「いいですね。今夜は贅沢な時間を過ごせます」
「あのー、確か、チョコレートって、お隣の国で作ってるお菓子? でしたよね?」
「ん? ペーターはまだ食べたことなかったか?」
「ないです。シグルドさん。お酒に合うお菓子なんですか?」
「さぁ? 俺も酒と一緒に食うのは初めてだ」
「ブランデーとチョコレートの相性は中々のものだ。2人とも試してみるといい。ペーターも一口だけチョコレートと一緒にブランデーを飲んでごらん。きっと気に入るだろう」
「はい。義父上」
執事が運んできたチョコレートなるものは、茶色い小さな四角の形をしていた。早速、一つ手にとって、口に含んでみる。初めて嗅ぐ匂いが鼻に抜け、柔らかい甘みが口の中に広がる。初めての味だが、すごく美味しい。口の中にチョコレートの味が残っているうちに、ブランデーを一口飲んでみれば、ペーターには少し酒精がキツいが、それでも確かにめちゃくちゃ風味が合って、ブランデーもすっごく美味しい。
「おーいしーい。はわぁ……幸せ……」
「確かに美味いな。こんなにブランデーに合うとは思っていませんでした」
「ははっ。中々よいものだろう? 次にチョコレートを買う時は、お前達の分も買っておこう。ブランデーも一緒にな」
「ありがとうございます。父上」
「ありがとうございましゅー」
「あ、やば。ペーター。酔いが回ってきたか」
「眠たいけど寝ませんよぉ」
「ふふっ。眠たくなったら寝ても構わない。シグルドが運べばよいだけだ」
「父上。シディにさせずとも、使用人に任せればよろしいのでは?」
「なに。シグルドならば、ペーターを運ぶくらい余裕であろう?」
「余裕ですね。ペーター。開き直って寝ろ。連れて帰ってやるから」
「ふぁーい」
ペーターは、シグルドが自分の太腿をぽんぽん叩いたので、眠気の誘惑に負けて、シグルドの太腿に頭をのせた。服越しに慣れたシグルドの体温を感じて、ペーターはすぐにすやぁっと寝落ちた。
「シグルドさーん。先に帰っちゃいます?」
「あぁ。馭者に一声かけたら先に屋敷に戻るぞ。昼飯食ってから、母屋に顔を出しに行く。晩飯は多分父上達と一緒だな」
「はぁい。頑張れ、僕の胃。……ご飯のマナー忘れてたらどうしよう……」
「まぁ、一応フォローはしてやる」
「お願いしますね! じゃあ、ちょっと下降しまーす」
「おー」
ペーターは馭者に近づくと、先に屋敷に向かうことを伝えてから、ふわっと上昇して、速度を少し上げた。
季節はすっかり春になっている。春の柔らかな暖かい風が頬を撫でるのが心地いい。
離れの屋敷の玄関先に降りると、すぐに屋敷の中から執事のバニヤンが出てきた。
「おかえりなさいませ」
「あぁ」
「バニヤンさん、ただいまですー。屋敷の皆さんにもお土産買ってきました!」
「これはこれは。ありがとうございます。ペーター様。皆が喜びます」
「昼飯食ったら、母屋に行ってくる。母屋へ帰ってきた旨を伝えに行ってくれ」
「かしこまりました」
ペーターはシグルドと一緒に屋敷の中へと入った。久しぶりに大きな風呂に入り、旅装から貴族仕様の服に着替えると、ちょうど昼時の時間になっていた。
食堂に行けば、すぐに使用人達が昼食を運んできてくれる。久しぶりに食べる料理長の料理が最高に美味しい。疲れた身体に優しく染み渡る美味しさである。
食後の珈琲をのんびり飲んでいると、あちこちで買った土産をいっぱい積んでいる馬車が到着したようで、ちょっと屋敷の中が賑やかな雰囲気になった。
ペーターはシグルドと一緒に、とりあえず今日、母屋へ持っていく土産を発掘した。約半年ぶりの母屋に緊張してじわじわと胃が痛くなってくるが、慣れなきゃいけないことなので頑張るしかない。
ペーターが無意識のうちに胃のあたりを擦っていると、シグルドがぽんっとペーターの頭にゴツい大きな手を乗せた。
「そう緊張するな。フォローはしてやる」
「お願いしまーす。僕が粗相しないように祈っててください」
「おー。まぁ、大丈夫だろ。多分。兄上達も王都から帰ってきてる時期だし、明日から早速仕事を再開するぞ。引き継ぎの山が俺達を待っている」
「がんばりまーす。あ、明日のうちに香草の種まきだけはしときたいです」
「あぁ。それがあったな。庭師に伝えさせておくか」
「夏になったら香草を収穫して、干して乾燥させて、香草茶にします! 母ちゃんと全く同じ味にはならないでしょうけど、近い味にはなると思いますよー」
「楽しみだな。種まきは俺も一緒にやる」
「はぁい。その前に、まずは母屋で一頑張りです!」
「あんま肩に力いれんなよ。空回って逆に粗相すんぞ」
「それはいやー! どうしよう。とりあえず深呼吸ですかね」
「深呼吸しとけ」
「はぁい」
ペーターは何度も深呼吸をした。
持てるだけのお土産を持って、母屋の屋敷へ向かう。久しぶりに母屋に入ると、豪華過ぎる内装と品のある雰囲気に、胃がぎゅうっと締めつけられる気がしてきた。
一気に緊張が高まったのに気づいたのか、シグルドがわしゃわしゃとペーターの頭を撫で回して、乱れた髪を意外な程優しく撫でて整えてくれた。ちょっとだけ息をするのが楽になる。
シグルドと一緒に応接室に向かえば、義両親と義兄一家がいた。義兄の長男リヒャルトは、貴族の子息が通う全寮制の学園に入学したので不在だ。リヒャルト用の土産は、王都に送ってもらう予定である。
シグルドとペーターを見た義両親達が、嬉しそうに上品に笑った。
「ただいま帰りました」
「おかえり。シグルド。ペーター。楽しかったか?」
「はい。新鮮な体験をしてきました。土産を買ってきましたので、どうぞ。……あー、父上。よろしかったら、ペーターの故郷の近くの町で生産している蒸留酒を一緒に飲みませんか?」
「おぉ。それはいい。ジークハルトとペーターも一緒にどうだ? たまには、のんびり酒を楽しむのもよかろう」
「はい。父上。おかえり。シディ。ペーター。無事に帰ってきてくれて何よりだ。子供達が寂しがっていたよ。土産話を沢山聞かせてあげて欲しい」
「はい。兄上。子供達にも土産を沢山買ってきたので、明日にでも運ばせます」
「ありがとう。疲れているだろうが、夕食後に少し酒を楽しもう。ふふっ。シディとのんびり酒を飲むのは初めてだなぁ」
「そうですね。買ってきた蒸留酒が口に合うといいです」
「シディ。ペーター。おかえりなさい。数日はゆっくりするのでしょう? 土産話を聞かせてもらいたいわ」
「母上。一応、明日から仕事の引き継ぎをする予定です。かなり休んでしまっておりますから。休日にでも、土産話をしにまいります」
「あら。そんなに早く仕事をしなくてもよろしいんじゃなくて? 子作りもありますもの」
「あー……まぁ、子供は授かりものなので、気長に構えていてください。遊び過ぎたので、暫くは仕事を優先します」
「まぁ……でも……」
「オリビア。そのあたりでやめておきなさい。シグルドが言うとおり、子供は授かりものだ。あまりしつこく言うとストレスになって、できるものもできなくなる」
「……わかりましたわ。旦那様」
「さて。夕食の時間まで土産話を披露してくれ」
「はい。父上」
シグルドと並んで座っているペーターは、シグルドが楽しそうに話しているのをチラッと見て、気づかれないように胃のあたりを擦った。久しぶりだと緊張がヤバい。この後の夕食が憂鬱である。粗相しちゃいそうな予感しかない。シグルドがフォローしてくれることを祈るしかない。
ペーターも時折ちょっと話しながら、夕食の時間まで義家族と過ごした。
胃が痛くなる程緊張した夕食をなんとか乗り切ると、ペーターはシグルドと一緒に、義父アーカイドの私室に向かった。義兄ジークハルトも一緒である。
アーカイドの私室に入ると、ふっかふかのソファーに座り、シグルドが買ってきた土産の酒を注いだ。ペーターは事前にシグルドが使用人に紅茶を出すように言ってくれていたので、香りがいい高級紅茶である。
ペーターの前に置かれた紅茶を見て、アーカイドが首を傾げた。
「ペーターは酒を飲めないのか」
「とても酒に弱いんです。飲んだら寝ちゃいます」
「そうか。ふむ……紅茶に少しだけブランデーを入れてみるといい。香りがよくて美味しくなる」
「あ、じゃあ、少しだけブランデーをもらいます」
「どうせなら、美味しいものを飲ませよう。私の秘蔵のブランデーを出そう。ジークハルト。シグルド。お前達も飲むだろう?」
「はい。父上。是非とも飲みたいです」
「俺も飲みたいです。父上秘蔵のブランデーなんて、美味しいに決まっている」
「ははっ。先にシグルドの土産の蒸留酒を飲もう。ブランデーはその後だ」
部屋の隅に控えていた使用人がブランデーの瓶を持ってきて、ティースプーン一杯分のブランデーを紅茶に入れてくれた。
シグルド達が乾杯して蒸留酒を飲み始めたので、ペーターも温かいブランデー入りの紅茶を一口飲んでみる。ふわっといい香りが鼻に抜けて、程よい薄さの酒精で腹の中がじんわりと温かくなる。ブランデー入りの紅茶なんて初めて飲んだが、かなり美味しい。
「これすっごく美味しいです!」
「そうだろう。酒に弱くても、こういう楽しみ方もできるものだ。私の執事が、酒精が軽いカクテルも作れる。試してみるか?」
「あ、はい。お願いします」
「いいとも。ふふっ。この蒸留酒、中々に美味しい。ペーターの故郷の近くで作られているのだろう? 取り寄せるには、ちと遠いな」
「確かに美味しいですね。父上。シディ。またペーターの実家に里帰りする機会があれば、今度は多めに買ってきてくれないか?」
「はい。兄上。気に入っていただけて嬉しいです。町の店で食べた兎のパイとも相性抜群でした」
「ほう。兎のパイ。あまり馴染みがないな。試しに作らせてみるか」
「いいですね。父上。ペーターは久しぶりの実家は楽しめたかな?」
「はい。義兄上。毎日、朝から晩まで賑やかでした。シグルドさんが一緒に色んなことをしてくれたので、本当にすごく楽しかったです」
「それはよかった」
ぽつぽつ話しながら飲んでいると、老年の執事が淡い水色のカクテルを運んできてくれた。お礼を言って受け取り、一口飲んでみれば、柑橘系の香りがふわっと鼻に抜けて、酒精が軽くて飲みやすい。素直に美味しい。
「すっごく美味しいですー」
「それはよかった。さて、蒸留酒を飲み終えてしまったから、次はブランデーを飲むか。チョコレートも出そう。ブランデーによく合う」
「いいですね。今夜は贅沢な時間を過ごせます」
「あのー、確か、チョコレートって、お隣の国で作ってるお菓子? でしたよね?」
「ん? ペーターはまだ食べたことなかったか?」
「ないです。シグルドさん。お酒に合うお菓子なんですか?」
「さぁ? 俺も酒と一緒に食うのは初めてだ」
「ブランデーとチョコレートの相性は中々のものだ。2人とも試してみるといい。ペーターも一口だけチョコレートと一緒にブランデーを飲んでごらん。きっと気に入るだろう」
「はい。義父上」
執事が運んできたチョコレートなるものは、茶色い小さな四角の形をしていた。早速、一つ手にとって、口に含んでみる。初めて嗅ぐ匂いが鼻に抜け、柔らかい甘みが口の中に広がる。初めての味だが、すごく美味しい。口の中にチョコレートの味が残っているうちに、ブランデーを一口飲んでみれば、ペーターには少し酒精がキツいが、それでも確かにめちゃくちゃ風味が合って、ブランデーもすっごく美味しい。
「おーいしーい。はわぁ……幸せ……」
「確かに美味いな。こんなにブランデーに合うとは思っていませんでした」
「ははっ。中々よいものだろう? 次にチョコレートを買う時は、お前達の分も買っておこう。ブランデーも一緒にな」
「ありがとうございます。父上」
「ありがとうございましゅー」
「あ、やば。ペーター。酔いが回ってきたか」
「眠たいけど寝ませんよぉ」
「ふふっ。眠たくなったら寝ても構わない。シグルドが運べばよいだけだ」
「父上。シディにさせずとも、使用人に任せればよろしいのでは?」
「なに。シグルドならば、ペーターを運ぶくらい余裕であろう?」
「余裕ですね。ペーター。開き直って寝ろ。連れて帰ってやるから」
「ふぁーい」
ペーターは、シグルドが自分の太腿をぽんぽん叩いたので、眠気の誘惑に負けて、シグルドの太腿に頭をのせた。服越しに慣れたシグルドの体温を感じて、ペーターはすぐにすやぁっと寝落ちた。
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